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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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一騎打ち

 俺達は話し合いの場所から神殿の地下へと移動する。訓練場と名が付けられたこの場所は、神殿に常駐するエルフ達が使用する施設だそうだ。


「勝負は私との一騎打ちでよろしいですか?」


 オディルの問い掛けに俺は黙ったまま首肯。さて、思わぬ形で『森の王』と戦うことになったわけだけど……呼吸を整え、杖を構える。


 もっとも杖は見せかけに近いものなので、ただ単に気合いを入れるためだけなんだが……俺自身様々な魔物と戦ってきたけれど、魔法使いと相対するのは初めてだ。さらに今回の相手は魔法使いという区分からしても世界トップクラスの実力を持つ存在。そう考えると勝てるのかと疑問を持ってしまうが……彼に勝てないようなら、きっとイルバドとの戦いだって無理だろう。やるしかない。


「レイト、頑張れ」


 どこか期待の眼差しを乗せてリリーが言う。そんな彼女に俺は「ああ」と返事をして――同時、オディルの体から魔力が発せられた。


「この空間なら、私の魔法であっても十分耐えられます。思う存分やっていただければ」


 そう告げると同時に彼は両手に魔力を収束し始めた。いよいよだな。

 とはいえ、こっちが先攻するのが良いのかまずは様子見すべきなのか……と最初は思ったのだが、オディルの方もこっちを窺うような姿勢を見せている。


 ふむ、ならこっちから仕掛けてみるか――杖をかざす。その先端に雷が生じ、オディルはその変化に目を細めた。

 杖の先に、白い雷が生じる……まずは牽制的な魔法だ。


 刹那、雷光が迸りオディルへ迫る。一瞬の内に王の眼前へと迫ったが、どうやら魔法の軌道を予測していた――稲妻が駆け抜けた時、既にオディルは横へ移動していた。

 魔法が訓練場の壁に激突し、弾けて消える。強度があるというよりは、魔力を分解して効果をなくすという性質の素材みたいだな。


 ならば――俺はさらに同じ魔法を行使。オディルを狙い杖をかざし撃ち込むが――射出する時点でオディルは既に避けている。ならちょっと軌道を変えて……と魔法を撃った後も自らの意思で曲げられるよう調整を施し、放つ。

 オディルは動かなかった。こちらの魔法に仕掛けがあると把握している。瞬時にそれを見分けるだけの分析能力と咄嗟に動けるだけの対応力を持っている。


 俺の雷光は再びオディルの眼前まで迫ったのだが、直撃する寸前でかわされた。今度は軌道を読むのではなく、こっちの魔法を見極めての動作。今の魔法くらいなら、どんなに迫っても余裕で避けられるというわけか。

 そしてオディルは俺に笑みを浮かべた。いくらでも攻撃して構わないという態度。どうやらこっちに先手をあげようという雰囲気だな。


 これを侮っているとみるか、それともカウンター狙いなのか……ともあれ訓練場の強度などは理解できた。次は、


「リリー、離れてろよ」

「自分の身は自分で守れるから心配しない」


 彼女の返答に愚問だったかと思いながら、俺は次の魔法を発動させる。それは訓練場の地面から発せられるもの。魔法陣が突如浮かび上がり――この訓練場の大半を覆う。


「なるほど、そうきましたか」


 オディルの魔力が発せられる。そこで俺は魔法を発動――魔法陣が光り輝いた瞬間、炎が噴き上がり、俺とオディルを飲み込んだ。

 業火が訓練場の温度を一気に跳ね上げながら、火柱が荒れ狂う……攻撃を避けるなら逃げられない範囲にしてしまえばいいという単純な理論なのだが、無論俺も飲み込まれる。まあ魔力結界を使えば問題ないけど。


 ゴオオオ、と炎が吹き荒れる音を耳にしながらオディルの位置を探る。相手はまだ動いていない。あちらも魔力結界によって防御に専念しているようで、次の出方を窺っている。

 どういう意図があるのか不明だが、向こうが仕掛けてくる様子はないからもう少し攻撃してみよう……炎が途切れる。残ったのは先ほどまでと変わらないオディルの姿。


「……防げると感じたため、あえて何もしなかったと?」


 なんとなく尋ねてみると、オディルは微笑を湛え、


「そちらもまだ全力を出している風には見えないですね。こちらの能力を探っている雰囲気ですか?」


 ……当たってはいる。それと同時に、俺は一つ察する。相手もまた俺の能力の多寡を探っているのだ。

 俺が発する魔力を見極め、『闇の王』を討つに足る力の持ち主なのかを判断しようとしている……ふむ、牽制し合うだけでは何の意味もなさそうだな。ならば、


「それじゃあ――やるか」


 杖の先端から炎。直後、一気に形を成したそれは不死鳥へと姿を変える。

 途端、オディルの表情から笑みが消えた。発する魔力から、驚異的だと感じたことだろう。彼は両手をパンと合わせると、その前方に魔力が発生。地面から盛り上がるように緑色の光が生じ、一瞬でその姿を人型に変える。


 見た目は、ゴーレムのような……植物のツタなどによって体を構成された、植物型のゴーレムだ。不死鳥に対し植物……と思うところだが、目の前の存在は『森の王』から創り出された存在。炎が弱点といった要素は皆無だろう。

 魔法は使用者の想像力などによって大きく変化する。よってオディルにとってこの植物ゴーレムこそ、他のどんな存在よりも強固なイメージを構成できるというわけだ。


 俺は不死鳥を容赦なく放つ。翼から炎が舞い、ゴーレムへ直撃する……! 刹那、業火が弾け、ゴーレムの体を覆い尽くす。

 弾けるような音が俺の耳を打ち、熱風が室内を舞う。この場にいる全員魔力結界を行使できるのでこのくらいの余波なら問題ないが……オディルはゴーレムの維持に神経を集中させている。一方の俺は不死鳥に魔力を注ぎ、突破しようと試みる。


 ここでせめぎ合いという形になる……もしオディルが魔法を解除するかゴーレムが破壊されれば、不死鳥をモロに食らうことになる。対する俺は不死鳥が防がれたらゴーレムによる接近戦を余儀なくされるだろう。

 さすがにそれでやられるわけじゃないが、魔法勝負で勝っておきたいところだな……俺はオディルを見る。ゴーレムの後方で佇むその姿は、次の一手をどうすべきか考えているように見える。


 もしゴーレムが破壊されれば、即座に新たなゴーレムを生むか、それとも別の魔法か……魔法使いは魔装を持つ人間とは比べものにならない力を持っているわけだが、一つだけ制約が存在する。それは一つ魔法を使った場合、その効果が途切れない限り他の魔法は使えない。つまり二つの魔法を平行して使用することはできないというものだ。


 どうやらオディルもその制約から逃れられない様子。ふむ、そういうことならこっちにも手がある。頭の中で次の作戦を思い浮かべる。

 ただ、作戦としては相手の意表を突く奇襲ではなく、できることなら真正面で向かい合い、勝利したい……そんな欲求が心の中で生まれる。『森の王』と全力で戦えるなんて機会は最初で最後。そういう相手である以上、後腐れない形で戦い終えたいところ。


 ――リリーなら迷わずそうした選択肢をとって戦うことだろう。相手が強ければ強いほど燃えるタイプなので。


 俺は本来そういう性格じゃないけど、たぶん彼女と一緒にいてその性格に当てられたのか……やるとするか。

 もう一度頭の中で手順を再確認して、行動に移すべく準備を始める。その間に不死鳥とゴーレムはせめぎ合い……やがて魔法同士相殺し、炎と植物が消滅した。


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