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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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闇の王

 エルフの王、オディルと視線を重ねた瞬間、俺は彼の奥底にリリーの時と同じような魔力を感じ取った。

 もし怪しまれたら面倒なことになるし、手早く――そう思った瞬間、俺は王の瞳の中にある、魔力に触れた。


 パチリ――リリーの時と同様、火花が散るような小さな音。ただこれは俺だけに聞こえる音だろう。


 そして当の王は……最初、若干だが瞳に戸惑った色が現われた。次いで彼は周囲を見回した。ここがどこなのか――確かめる必要などないはずなのに、それを改めて認識しようと、部屋の中に視線を漂わせる。


「……これは」

「戻ったんですね?」


 確認の問い掛け。するとオディルは目を細め、


「ふむ、どうやら……こちらの身に起こったことがわかった上で話をしていますね。もしや、やり方はわかりませんがこうすることが狙いだったと?」


 主語がない会話になってしまったが、『森の王』でさえそういう表現しかないくらい不思議な出来事、ってところかな。


「はい、そうです……現時点の推測ですが、あなたの身に生じた出来事はおそらく『闇の王』が関わっている」


 身じろぎする王。次いで、


「あの存在を知っている……いえ、そればかりではないようですね。あなた方の雰囲気や仕草から、どうやら『闇の王』と戦ったことがありそうです」


 俺とリリーは同時に頷く。それでオディルは理解したように一つ頷き、


「……私がこの場所から消えて以降、大変な事が起こってしまったようですね。なるほど、これがあなた方の本題……わかりました、事情は全て聞きましょう。なおかつここで行われた会話は、全て内密にします。忌憚なく話していただければ」

「ありがとうございます」


 俺は礼を述べ、口を開く……作戦は成功。後は望む情報を手にすることができるかどうか、だけだった。






 そこから、俺とリリーはオディルへと語り続けた。たぶん一時間くらいだろうか……俺達の素性から始まり、『闇の王』との戦いについての経緯から過程、そして結末までを一気に。

 長い話になったがオディルは一切表情を変えることなく、時折相づちを打ちこちらに続きを話すよう促すくらいの勢いだった――


「――結果として、俺達は悲劇を回避することに成功し、あなたと会うためにここを訪れました」


 これで全て喋ったな……話し忘れがないかとリリーに訪ねたが「大丈夫」との返答が。

 そしてオディルはしばし黙し……やがて、


「……世界そのものが、ですか。恐ろしい話であり、またついに起こってしまったのか、というのが感想ですね」

「『闇の王』がいずれそうした悲劇を生んでしまうことを予期していたんですか?」

「あの存在はそれだけの力を持っている……いえ、少し語弊がありますね。そうするだけの潜在能力がある、と言うべきでしょうか」

「どうやら『闇の王』について知っているようですが……」


 こちらの指摘にオディルは首肯する。


「その説明からですね……まず『闇の王』はこの世界ではなく、裏の世界とでも言うべき場所を由来とする存在です」

「裏の……世界?」

「肉体や物質のない、魔力のみの世界と言うべきでしょうか。例えば私達が死んだら肉体は土へと還り、存在そのものがなくなる。けれど魔力は肉体を離れ、空に漂ったり地の底に埋まる……そうした魔力が最後に辿り着く場所が、魔力だけの世界……人によっては死後の世界、などと言う方もいますが……闇の世界という呼ばれ方もしますね」


 そう語った後、オディルは一度目を伏せた後、


「闇の世界において、憎悪や嫉妬といった言わば負の感情が集積する場所がある……それは怨念といった表現が似合うものであり、もし生者がそれに触れれば例外なく発狂する……それほどまでにおぞましい、混沌が存在します」

「それが、『闇の王』?」


 尋ねたのはリリー。ちなみに説明途中で皇族だと話して以降、普段の口調に戻ってしまったのだが、オディルは気にする素振りすら見せなかったので、口調はそのままである。

 彼女の問い掛けにオディルは「まさしく」と応じ、


「闇の世界に干渉することはそう難しくありません。しかし、その世界の中から『闇の王』を探しだし、その力を得ることは資材や技術がなければ難しい……しかし逆に言えば、その二つがあれば誰でも可能になるのです」

「誰でも、というところが注意すべき部分か」


 リリーの言葉にオディルは頷く。

 俺もまた理解できた。資材と技術……この場合技術というのは『闇の王』を引きずり出して力にすることを指すわけだが――


「理解できたようですね」


 オディルは俺やリリーへ視線を向けながら続ける。


「そう、『闇の王』を呼び出すことに対し、例えば血筋であったり特定の魔力を持つことであったり……そうした制約がないのです。必要なのは資材を整える金銭と呼び寄せるために必要な魔法技術。力を呼び寄せるのに必要な技量については、魔術師として学んだ者であれば時間を掛けることで誰でも可能」

「呼ぶための障害が低いってことか……必要な資材とは?」


 オディルはそこで説明を加える――金額的に換算すると、屋敷が一つ変えるくらいの値段だろうか。

 庶民感覚からすれば金額としてはかなりのものだが……例えば人間の貴族クラスならば実現可能なレベルか。


「なら『闇の王』について……どのような能力を保有しているんですか?」


 俺はオディルへ質問。ここからが俺やリリーが知りたかった核心部分だ。


「はい、説明しましょう……『闇の王』そのものは力の塊であるため、自らの意思で動くことはありません。多数の怨念が混ざり合った異形であることは疑いの余地もありませんが、そこに自我などはない……というより混ざり合った結果、自我を保てないと言った方が良いでしょうか」

「集合体であるため、人格なども解けて消えると」


 俺は最終決戦の際に見た異形を思い返す。押し寄せる闇の壁……力を手に入れた存在が意識を飛ばすのも理解できる。


「はい、そう思っていただいて構いませんよ。では肝心要である『闇の王』の特性ですが、これは極めて簡単です。呼び寄せた者が願うだけの力を与える。これだけです」


 力を与える。極めてシンプルだが、その結果が世界滅亡――


「より正確に言えば、『闇の王』から願いが叶うだけの力を得られる。裏の世界に存在する『闇の王』は無尽蔵とも言える魔力の塊。そこから引き寄せた者の嗜好に合わせ魔力がこちらの世界へやってくる。例えばとある人物に復讐したいと願ったのなら、その人間に勝てるだけの力が。あるいは町を滅ぼしたいと思うのなら、その土地を消滅させるだけの力が。そして」


 オディルは一拍置き、


「……世界を滅亡させたいと願うのなら、それだけの力が得られる」

「俺達が相まみえたのは、そういう風に願った者の末路だった、と」


 条件さえ整えば、いとも容易く世界を滅ぼすだけの力を得る……なるほど、脅威だ。


「実は、私も『闇の王』と戦ったことがある」


 そうオディルは続けると、自身の胸に手を当てた。


「そしてあなた方が戦った先日の魔物……あれは間違いなく闇の世界から力を引き出し生まれた存在。あの魔物達を生成した首謀者は、実験をしているのでしょう。自分自身が望むだけの力を『闇の王』から手に入れるために」


 実験……か。『前回』の虐殺とさえ呼べる戦いが実験だとすれば、首謀者はとんでもないことをやろうとしているな。


「では私が『闇の王』についてなぜ知識を持っているか……そこもお話ししましょう――」


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