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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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報酬と要求

 ジェファが放った足狙いの剣戟が効いているのか、黒騎士の動きはずいぶんと鈍くなった。多少なりとも損傷しているようで、バランスが上手くとれないのか少しもたついているのが俺にもわかった。

 当然リリー達がそれを見逃すはずもなく、畳み掛けるべく間合いを詰める。そうして放った連撃……もしゲームならば乱舞技とでも形容すべき攻撃が、黒騎士へ目掛け注ぎ込まれた。


 甲高い金属が幾度となく森の中に響き渡る。リリーが仕留めるべく攻勢に出たのだが、その一方でジェファは黒騎士の動きを縫い止めるような攻撃に終始している。リリーは火を噴くような攻めで、ジェファはアシストする形。彼女の力量からそうした方がいいという彼の判断なのだろう。


 その連携は非常に的確であり、リリーの前のめりな攻勢に時折黒騎士は反撃すべく動くのだが、そうさせまいとジェファの剣が的確に防ぎ、リリーがさらに剣を差し込む。初めての連携であるはずだが、それを感じさせない見事なフォローだった。


 と、ふいに黒騎士の体がグラリと大きく傾いた。いよいよ敵も疲弊し、畳み掛ければ……この場にいた多くがそう思ったかもしれない。


 しかし、


「――残念だったわね」


 リリーはそう告げた。そして頭部を狙った突きを放つと、黒騎士は即座に対応し防御に転じた。演技――とまではいかないが余力があったらしい。


「人間みたいな動きをするのは面白いけど、それじゃあ私を騙すことはできないわ」


 まあこれも『前回』の経験なんだけどな――ジェファが倒れた後、エルフ達は仇討ちと言わんばかりに大量の魔法を注いだ。それによって黒騎士は今みたいに体を大きく傾けたのだが、それは演技でトドメを刺そう近づいた騎士達を一蹴したのだ。

 よってリリーには通用しない……その時、ジェファの剣が黒騎士の右前足を捉えた。相当な魔力を加えた必殺の刃は、当たった瞬間にパキンと乾いた音を上げ黒騎士の足を破壊する。


 倒れそうになったが、魔物はどうにかバランスを取ろうとする。それは紛れもなく演技ではなく、リリーは今度こそ好機だとして一気に踏み込んだ。


「強かったわよ」


 彼女は告げると同時、渾身の一撃を黒騎士へ向け放った。刃は頭部から腹部まで駆け抜け、その胴体を――砕いた。

 まるで石像と戦っていたかのような崩れ方だった。黒騎士が力をなくし地面に倒れると、体の至るところがひび割れ、砕けていく。


 その時には周囲の魔物達も殲滅が済み、傭兵達も森の中を警戒するだけの状態となっていた。そうした中でリリーとジェファが魔物を打ち破った。途端、周囲に歓声が湧き上がる。


「ひとまず、目標は達成だな」


 全員生存はできた。なおかつリリーの技量も最終決戦と比べれば劣っているにしろ、十分過ぎるくらいのものだとわかった。

 俺はリリーやジェファを称える声を聞きながら周囲を見回す……その中で、俺はイルバドが目に入った。


 彼だけは、リリー達のいる方向を見ながら口元に手を当て、何か思案しているような様子だった。視線の先にはもしかすると黒騎士の残骸があるのかもしれない。驚異的な魔物に何かしら懸念を抱いているのか。

 それはきっと正解だろう。今後『闇の王』との厳しい戦いが待っている……彼自身そんなことを予想できるはずもないが、何かしら予感めいたものを抱いたのかもしれなかった。






 戦いが終わって色々と後処理をする間、リリーはひたすら声を掛けられっぱなしだった。とはいえ皇女という身分である以上、人に囲まれるのは慣れているのか彼女は常にニコニコと対応を行っていた。

 ……なんとなく、破天荒な皇女様なのに人が近寄ってきたののだろうかと野暮なことを考えたのだが、口には出さないでおく。で、しばらくすると傭兵達は解散となり、その多くがこの場を離れた。


「よお、そっちも頑張ったみたいだな」


 ふいに俺を呼び掛ける声。イルバドであり、彼は俺を見据えると陽気な笑みを浮かべた。


「魔物について的確に仕留めていたな。さすがリリーと手を組んだ人間ってわけだ」

「どうも……ともあれ全員無事で良かったよ。下手すれば多大な犠牲が出ていたかもしれない」

「まったくだ。人を呼んだ俺としても肝を冷やしたぜ。まさかエルフ最強の戦士が吹き飛ばされる光景を見ることになるとは」


 彼の目線がジェファへと向く。木に打ち付けられたダメージについてはもう残っていないようで、キビキビ部下に指示を送る姿が見えた。


「ともかく世の中にはヤバいやつがまだまだいるってわけだな……この魔物がどういう経緯で出現したのかわからないが、当面エルフ達は警戒するだろうな」

「かもしれない……そっちはこれからどうするんだ?」

「仕事は終わったし、また根無し草を続けるさ」


 エルフと組んで仕事をするとかはしないみたいだな。


「ま、元気で。リリーのことを知っている身からすれば振り回されそうな未来も見えるが」

「それは俺もなんとなく思ってた……無理しない程度に頑張るよ」

「おう。それじゃあな。リリーにもよろしく言っておいてくれ」


 そう述べて彼は去る。あっさりとした別れ方だな。

 やがてリリーが俺の所へ。当初の目的は達成できたし、今回の戦いでエルフに対しある程度信用を勝ち取ったのは明白。これからどうするかだが――


「そこの二人」


 話し合おうとした矢先、俺達を呼び止める存在……ジェファだ。


「今回の戦い、非常に助かった。特に戦士リリー。あなたがいなければ戦線は崩壊していたことだろう」

「いえ、当然のことをしただけだから」


 笑いながら応じるリリー。次いでジェファは俺達に一つ提案をした。


「戦士リリーの活躍で厄介な魔物を倒すことができた。そして後方は戦士レイトが上手く補助してくれたと聞いている。よって双方には何か特別な礼をしようという話になった。ここまで貢献してくれた以上、エルフ側としても何かしたい思ったのだ」


 報酬はギルドで支払われるけど、それ以外にエルフからお礼がしたいと。


「要求があればできる限り応えよう」


 そうジェファは言うけど……うーん、ここで『森の王』に合わせて欲しいと提案したら、受け入れてくれるのだろうか?

 今回の戦いの貢献度から考えれば可能性はありそうだけど、どうすべきか……思案していると、先んじてリリーが口を開いた。


「ねえ、今回の魔物……あれがどういう存在だと推測しているの?」

「君が戦った魔物か。恐ろしい強さを持っていたことは明白であり、その出所については今後調査する。少なくとも自然発生したものではないだろう」

「その情報が欲しいと言ったら?」


 ジェファは目を丸くした。さすがに魔物について情報が欲しい、なんて要求は予想外だったか。


「魔物の調査はエルフが独自で行うが……関わるつもりなのか?」

「私も気になったからね。それに今後も協力することをほのめかしたら私達の目的が達成しやすくなるかなー、と思って」

「目的とは?」


 問い掛けにリリーは少し間を置く。ちょっとだけ話すのに決心がいる……そんな様子を見せた。たぶん演技だろうけど。


「――私達には、旅の目的がある。その情報を得たいと思っていたのだけれど……もしかしたら『森の王』が持っているかもしれない」

「つまり我らが王に会いたいと?」

「そうね。単純に王様と話をしたいの。その代わり、今後何かあったら協力させてもらう……今回のお礼と合わせて、この要求はどう?」


 これからのことと報酬とを合わせて要求か……うん、いけそうだな。

 ジェファは少しばかり俯き考え込んだ。さすがにエルフ最強戦士であっても、王様に会いたいという願いを「わかった」と即断はできないだろうけど、無下にもできないはず。


 果たして――時間にして十秒ほどだろうか。沈黙の後、ジェファは口を開いた。


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