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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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未来の行き先

「さて、肝心の手段ではあるのだが……とにかくレイト殿については知名度がないため、周囲に認めてもらうには、それなりに頑張ってもらわなければならない」


 皇帝は俺へそう語る……それは同意だけど、具体的にはどうするのか。


「リリーと共に同行したことから、仕事を提供するという体で便宜を図ろう。少しずつレイト殿のことを浸透させていく……時間は掛かるかもしれないが、それが一番確実だ」

「ですね……その間、リリーを制御していくのは大変そうですけど」


 俺の言葉に皇帝は苦笑する。


「うむ、まさしく。しかし投げ出すつもりはない。年単位の歳月を必要とするかもしれないが、そこは我慢してくれ」


 我慢してくれも何も、そのくらいは必要な時間だろうと俺は思う。そもそも『前回』だって俺が認められるようになったのは『闇の王』という存在があったからだ。ああいう例外的な敵がいたからこそ、リリーと対等な位置にいられたわけで。異常な状況でない限り、地道にコツコツやっていくしかないだろう。


「そこで、だ。レイト殿には一つ頼みがある」

「頼み、ですか?」

「そうは言っても大した話ではない。単にレイト殿の技量の程を、城内のものにわからせる……もっとも、最初から魔法使いであることをひけらかす必要はない。それにリリーのことについても色々と処置が必要だからな」


 リリーのことも? 首を傾げていると皇帝から説明が入る。


「私を含め、事情を全て知っている人間は城内の極一部だけだが、何やらリリーが功績を成した、程度のことを知っている人間はいる。実際に外へ出て、成果はあったのか……それを示す必要性があるし、同時にレイト殿のアピールにもなる」


 なるほどね。それで、具体的に何をやるのかというと、


「明日、昼前くらいに訓練場で体を動かしてもらおうか。魔法使いであるレイト殿であれば、リリーと戦うこともさして難しくはないだろう――?」






 ということで翌日、俺は騎士や兵士が訓練をしている中で、リリーと向かい合うこととなった。傍らにはリリーの従者であるルナの姿もある。

 で、リリーも話は聞いているにしても……なんだか不平不満が溜まっているのか、面白くない顔をしていた。


「そういう顔をするなよ……」

「だってさあ」


 頬を膨らませる中、彼女は述べる。


「もっと手っ取り早いやり方だってあると思わない?」

「例えば記憶を戻す、とかか?」


 ルナがいるので小声で尋ねる。そういえば彼女についても、いずれ記憶を戻した方が良いだろう。とはいえ、まだ信頼関係が皆無なので、時間は掛かりそうだけど……共通する話題であるリリーの話をうまくすれば、どうにかできるかな?


「そうそう」

「まずは信頼を得ないといけないし、それをやるのに効果的なのは、これからやる訓練とか……言わば地道な活動だぞ」

「むー」


 とことん唸るリリー。俺はそこで手をパタパタと振り、


「むくれても仕方がないだろ? ほら、まずは第一歩だ」


 不承不承、という様子でリリーは剣を構える。で、俺は杖……ここでルナが横から一言、


「拝見する限り、戦士ではないようですが?」

「ああ、大丈夫」


 それだけ返答。ま、今日は別に本気を出さなくてもいい……というより、魔法使いとしての本分を見せる必要性はない。

 まずは、リリーと互角の実力があることを示せれば、城の人間も一定の評価をしてくれるだろう。その過程で皇帝から仕事をもらう。貴族からすれば、リリーを利用して皇帝からお目こぼしをもらっているみたいな感じだろうけど、そうした仕事によって功績を成せば、評価も改まるに違いない。


 面白くないと考える人間だっているだろうけど……味方を増やすために、記憶を戻す人間を出していけばいいかな。皇族を始めとして『前回』俺に対し全幅の信頼をしていた人間がこの城内には多数いる。仕事を行い信頼を勝ち取ることで、記憶を戻しやすくできるだろう。そうして味方を増やし、いずれ――


「……リリー」


 俺はパートナーの名を呼ぶ。それと同時にある予感を抱きつつ、


「ちなみに、どの程度の力を出せばいい?」

「……当然――」


 リリーが踏み込んだ。電光石火。俺に対する遠慮など一切ない、全力の一撃。

 もちろん武器の性能などをフル活用しているわけではないが、それでも模擬戦闘とは思えない攻撃。だが俺は杖で防ぐ。魔力がわずかに衝撃波を拡散し、ルナが目を見張り、周囲で訓練をしていた騎士や兵士。さらに教官なども目に留めた。


 全員がリリーの力に驚き、なおかつそれを受けた俺に対しても……といったところか。すかさず杖で彼女の剣を打ち払う。だがリリーは執拗に剣戟を放つ。

 刹那、俺はリリーと目が合った。次はどういう風に仕掛けるのか……目線で何かを伝えているわけではなかったが、俺はそれを半ば理解する。杖で剣を防ぎ、切り返すと想定した通りの軌跡を描き、リリーは追撃を寄越した。


 それは、傍から見ればとても模擬戦闘とは思えない戦いぶりだった。ここに至り騎士達や、偶然廊下を歩いていた高官なども注目し、横にいるルナは呆然と立ち尽くしている様子だった。

 感触としては最高だが……俺達の力はこんなものではない。それこそ『闇の王』を打ち破った力は――杖でなおも剣を防ぎ、反撃に転じる。だがリリーはそれを予期していたかのように、最小限の動きでかわして見せた。


 それは戦いではなく、言うなれば舞踏。まるで始めから決められた演目のように、互いが互いを理解し、あうんの呼吸で剣と杖を斬り結ぶ。

 周囲は驚愕しているし、第一歩は成功したようだ……そう思うと同時、俺は先ほど抱いた予感を思い返す。


 きっと、一年……いや、数年後にリリーの隣には俺が確固たるものとして存在しているだろう。彼女もこの世界では皇帝になる必要はどこにもない。リリーは間違いなく、自らが望むものを手にすることになる。

 俺はそれを受け入れ、この世界でずっと……口の端に、周囲の人間にはわからない程度に笑みを浮かべる。どうやらリリーはそれに気付いた。どう受け取ったのかわからないが……彼女は笑みで応じた。


 同時に俺達は距離を置く。再び応酬が始まろうという時、どこからか拍手が鳴り響いた。

 それは、紛れもなく戦闘を称賛するもの。これからこうして、少しずつ俺という存在を認識させていく。その未来の先に、間違いなくリリーが待っている。


 俺とリリーは構えを崩し、互いに視線を交わす。拍手が鳴り止まぬ中で、俺はリリーと共に歩く未来へ思いを馳せた――


完結となります。お読み頂きありがとうございました。

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