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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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驚愕の謁見

 入った店は小綺麗かつオシャレなカフェで、雰囲気も良くここだったらまた来ても良いかなと思えるくらいだった。で、リリーがどういう理由でここを訪れたのか……俺は店内にいる見知った顔を発見した。


「……なるほどな」


 その人物は、ルナ――本来、リリーの従者をやっている騎士である。まずは彼女と顔を合わせようってことか。


「私が一人で行くから、外で待っていて」

「……彼女、びっくり仰天して名前を叫びそうじゃないか?」

「その辺りは上手くやってみせるから」


 ……俺にできることは何もないし、指示通り外へ出る。待っていると店内からガチャガチャと食器を鳴らす音が聞こえ得た。たぶん騎士ルナがリリーに驚いて食器などを落としそうになったのだろう。

 本当に大丈夫なのかと不安になりつつ、外で待っていると……やがてリリーがルナを伴って出てきた。


「お待たせ」

「……どうも」


 ルナは俺へ小さく会釈する。試しにこのタイミングで瞳の奥を覗き込んで記憶を戻せないかやってみるが……駄目だった。さすがに無理か。


「あなたが、リリー様を?」

「ああ、まあ、そうだな」


 頷くとルナは綺麗に一礼をする。


「では、まずお礼を。ここまでリリー様をお連れ頂き、ありがとうございました」


 ……内心、色々思うところはあるんだろうけど、それを押し殺して彼女は言う。

 多少なりとも本心が混ざっているとは思うけど、だからといって信頼とまではいかない。リリーがどのように説明したのかわからないが……ま、この辺りは聞かない方がいいだろうか。それとも、後ですりあわせを行っておくか?


 これについては後だな……さて、ルナはどういった行動をとるのか。


「で、俺だけど……」

「一度挨拶を」


 リリーが述べる。ここで言う挨拶とは、たぶん皇帝陛下のことを指しているのだろう。


 そこでルナは大丈夫なのかとリリーを見た。俺も内心同意見である。というのも、単なる冒険者に連れてこられて、というのは皇女という立場からしたら結構なダメージではなかろうか。その辺り、当のリリーはどのように考えているのか。

 だがリリーは俺やルナを先導するように歩き出す。このまま城へ向かうらしい。


 真正面から突っ込んでいくのは変わりがないようだ。俺としてはそもそも城門を訪れて入れてくれるのか疑問なんだけど……ルナもいるから説得が容易いってことなのか?

 もしかするとリリー自身は「とりあえず城に入ればどうにかなる」とか思っていそうだな……彼女にとっては城はいえ同然だし、軽い気持ちになってしまうのは理解できるのだが。


 ……仕方がない。覚悟を決めるか。いざとなったら窓から逃げ出すくらいのことはしよう。それをしたら輪を掛けて面倒なことになるのは確定なのだが。針のむしろのような場内に居続けるのもいたたまれない。リリーには悪いが、もしもの場合……そういった選択肢をとることも考えようと結論を出しつつ、俺はルナと共にリリーの背を追い続けた。






 さて、城門に到達してまず門番はリリーの存在に驚いた。で、俺は少し後方でリリーやルナが話をする光景を眺める。さすがに会話は聞こえない……というか、聞かない方がよいかもしれない。胃が痛くなりそうだし。

 やがて門番の一人で城内へと入る。皇帝に報告をしに行ったのかな? とはいえ、果たして上層部にリリーが帰ってきたことが伝わるのかどうか。ルナがいることもそこについては意味がない。俺は穏便にと心の中で祈りつつ……というか、騒動に陥ったらむしろ城の中に入らない方がいい。まずそうな雰囲気だったらこの場で逃げ出すことにしよう。


 やがて、門番が戻ってくる。そこでリリーは俺を手招きした。


「……えっと、どうなるんだ?」

「入っていいって。それと、謁見とかもするって」


 どうやって説得したらそんな風になるのだろう……『森の王』とか『山の王』を引き合いに出したのだろうか? 疑問に思ったが、とりあえず口を挟むことはなく、俺達は城門を抜けた。

 荘厳かつ、華麗な通路が俺の目の前に入ってくる。真っ直ぐ進めば玉座に辿り着くのだが……この景色は、俺にとって見慣れたものだ。


 それこそ『前回』の戦いでは、城内で暮らしていたからな。一通り城の中は見て回ったし、この通路を歩きながら考え事をしたこともあった。長い通路の先に両開きの大扉が一つある。その先に玉座があり、リリーは迷いなく進んでいく。

 俺の方は少し不安を抱きつつ……周囲に人影はない。リリーが戻ってきたとしても、さすがに歓待というわけにもいかないだろう。というか家出みたいな形で城を出たはずだしなあ。ならばどういう理屈で謁見するのか……まあ、皇帝としては穏当に対応はするだろうし、変なことを言わなければ問題はないと思うけど。


 俺達は両開きの扉まで到着。するとゆっくりと扉が開き……玉座が見えた。そこには紛れもなく、皇帝陛下――つまりリリーの父親が座っている。傍らには『前回』の戦いでお世話になった大臣の姿も。俺にとっては馴染みの人物達ではあるが、今回は初対面だ。口調などを含め、注意しなければならないだろう。

 リリーがなおも先導する形で玉座の間へと入室する。玉座の手前には三段ほどの階段が存在しているのだが、最初の階段前でリリーは立ち止まった。


 俺はその場でひざまずこうとしたのだが、それを他ならぬ皇帝が止めた。


「そのままで良い、客人。放蕩娘をここまで連れてきてもらったこと、心より感謝する」


 思わず吹き出しそうになった。けれど俺は頭を垂れて、どうにか最悪の事態は回避した。


「事情はリリーから多少聞いたが……まあ間違いなく脚色、あるいは誇張表現が多々あるだろう。私としては娘の声はしっかりと耳を傾けたいが、何分色々と騒動を巻き起こしていたからな。全面的に信用するというのは難しいが、少なくとも貴殿が色々と骨を折って同行していたことは予想される。それだけでありがたい」


 ……本当、どれだけリリーに手を焼いていたのかわかる言動である。俺はリリーの表情とか態度とか気になったけど、ここで下手にそちらへ視線を向けると面倒なことになりかねないし、我慢する……というか、我慢するのに必死であった。


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