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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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黒の騎士

 リリーたちの眼前に迫る最強の魔物――ここでは『黒騎士』と呼称しよう。そいつが森の中猛然と突撃する様は、周囲に満ちる気配も相まって味方側に畏怖を与えてくる。

 だがそれに動じない者もいた。その筆頭が、リリーだ。


「教えて上げるわ――どちらが上なのか!」


 宣言と共に黒騎士は右腕を振りかぶる。その手には長剣……といっても魔物の体格に合わせたものなので、人間からすれば実質大剣のような太さだ。『前回』の戦いであれが振られる度に犠牲者が出ていた。まさしく一撃必殺の攻撃だったのだが――

 リリーの剣と黒騎士の剣が、激突する。それにより発生した盛大な金属音は、戦場がクライマックスであることに加え、最大の脅威との交戦が始まったことを知らせる明確な合図となった。


 そして衝突の結果は……リリーは見事、相手の攻撃に耐えきる!


「はっ!」


 そして強引に押し返す。双方の刃が離れ、リリーは一歩だけ後退。すると、


「魔術師! 一斉攻撃!」


 周囲にいた騎士の一人が声を張り上げた。それと共に周囲にいた魔術師達が一斉に手をかざし、魔法の雨あられが降り注ぐ。


 ――この世界における魔術師というのは無論、騎士などと同様『魔装』を用いたもの。例えばリリーが今持っている剣は炎を扱うが、魔術師の場合は汎用性を高くするために炎以外にも雷や氷といった、複数の属性が扱えるような調整を施す。ただしこの場合は特化した威力を出すことは難しいため、決定打に欠けるのが難点。


 しかし、号令に従った魔術師は十数人はいた。精鋭クラスが十人ならば、並の魔物ならオーバーキルにも程がある威力になることは間違いない。

 そうした魔法が一つも外れることなく黒騎士へと直撃する……だが、のけぞるようなことさえなかった。


 ダメージはないにしても魔法を受けた衝撃は発生するのだが、黒騎士は我関せずといったところ。その耐久力がどれほどのものなのかを如実に語っている。


「こいつ……!?」


 魔術師の誰かが叫ぶ。黒騎士がそれに反応し反撃しようとしたが――そこにリリーが前に出て、斬撃を放った。

 豪快な横薙ぎであり、敵はすぐさま剣を盾にして防ぐ。直後、再び金属音が鳴り響いた。


 現状彼女だけが対抗できているのだが……魔法を受けても耐えきるため、魔術師達では力不足。ただそれがわかっても動く者がいた。この討伐隊の総大将であり、エルフ最強の剣士、ジェファだ。

 彼は黒騎士の横から突撃し、渾身の一撃を振り下ろす。研ぎ澄まされた剣戟は間違いなく彼が放つ斬撃において最高に違いなく、間違いなく決定打となるだけの威力を持つに違いなかった。


 それに黒騎士が即座に応じる。渾身の剣戟に対し、敵もまた相応の力を用いる――ジェファとしてはリリーでも打ち合えることから、彼自身対応できると思ったことだろう。

 しかし、予想外の展開になる――黒騎士が切り払った直後、ジェファの体が、浮いた。


 他の者達が目を丸くした直後、ジェファの体が吹き飛んだ。かなりの速度で横へすっ飛び、木に背中から激突した。


「かはっ……!」


 声を漏らし倒れるジェファ。その間に黒騎士は雄叫びを上げ、周囲の者達を蹂躙しようと大剣をかざす。

 だがそこへ間近に迫る存在――リリー。接近し、猛然と黒騎士へと挑む。


 周囲がジェファの結果に驚愕する中でほぼ唯一、リリーだけが黒騎士へ挑み続ける。そして再び剣が激突した矢先、ジェファとは異なり再びせめぎ合いになる。


「――彼女を、援護しろ!」


 そこで大木に背を預けるジェファの声が響いた。苦悶の表情を見せているが、それでも必死に声を張り上げ、指示を送る。

 彼自身、どうやらリリーだけが対抗できるという判断らしい。よって周囲のエルフ達、国の親衛隊。そして冒険者達が、黒騎士を取り囲むように動き始めた。


 そうした中で冒険者達はイルバドが指示を出して統制を行う。ジェファが挑んだ結果により恐慌が起きてもおかしくなかったのだが、リリーが黒騎士を抑えたこと。加え素早くジェファ達が指示を出したことで、どうにか戦線を維持することに成功した。

 俺達が体験した『前回』とは異なり犠牲者が出ていないことに加え、リリーが完全に黒騎士と互角であることも大きい。


 この調子でいけば……と、勢いそのままに攻めたいところだろうけど、リリーは無理に踏み込まない。どうやら彼女も理解できている。すなわち、現状はまだ紙一重だと。


「はああっ!」


 掛け声と共に幾度かの斬撃を黒騎士目掛け叩き込む。とはいえ敵も剣戟に応じ一歩も退かない様子。全力の一撃を敵は上手くさばいている様子から、もしリリーが疲弊して剣筋が鈍れば、今の状況が覆ることは明白だった。

 加え、黒騎士を一撃で倒せるかについても疑問が残る。今のリリーは『前回』と比べて技術は洗練されているが、肝心の出力については全盛期とは程遠い。仮に剣術勝負で黒騎士に勝って斬撃を叩き込んだとしても、それで終わりかどうかは微妙なところだ。


 ならば味方の援護に期待……なのだが、魔術師達の魔法は当たっても怯むことすらしない。騎士や傭兵達はリリーと黒騎士の応酬についていくことができないのか割って入るようなこともせず実質一騎打ち。このままではリリーは疲労して……なのだが、彼女も決して無策なまま斬り結んでいるわけではない。

 彼女はこの戦場において、俺以外にもう一人黒騎士に対抗できる存在がいるとわかっている。それは、


「まったく……やってくれたな、魔物が」


 どうにか回復したジェファだ。彼は刀身に魔力を込めると同時、闘気を隠すことなく噴出し、猛然と黒騎士へ向け走った。

 エルフは根が温和な性格で、また魔法を駆使して優雅に戦うようなイメージをこの世界の人間は持っている。けれど今ジェファが見せるのは真逆だ。歴戦の猛者を想起させる突撃に加え、怒りにも似た気配を発し、敵へと迫る。


 先ほど吹き飛ばされたが策はあるのかと、周囲の人間は思ったかもしれない。だが心配は杞憂だった。リリーと打ち合う所へ横から割って入ったかと思うと、その斬撃が黒騎士の腕に狙いを定め、一閃。それによって、敵の腕が硬直し、また動きを止めた。


 ――たぶん、黒騎士は魔力をできる限り発しないようにしていたため、ジェファとしては力量をつかむことができなかった結果、吹き飛ばされたのだろう。この魔物を作った存在はそれこそが狙いであり、『前回』は油断し隙を晒したジェファへ剣を突き立て、一瞬で仕留めた。けれど油断など一切ない本気のジェファならば、リリー達の動きについていくことが可能であり、また敵の膂力に応じることができる。


 隙が生まれた直後、リリーとジェファはまったく同じタイミングで黒騎士に狙いを定め、一閃した。相手は防御する暇もなく、二筋の斬撃をその身に受ける。リリーの剣は胸部を狙い、ジェファの刃は黒騎士の左前足へと入った。

 直後、獣の雄叫びのような声が発せられる。傭兵の中には思わず顔をしかめる者もいるくらいだったが、リリー達は一切怯むことなく、追撃のために剣を放つ。


 彼女とジェファが肩を並べて戦うような状況。これで決まると俺は直感しながら、周囲の敵を迎撃しつつ意識を二人の戦いに集中していった。


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