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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
139/143

帝国の象徴

 イファルダ帝国の首都は、間違いなくこの大陸においてもっとも栄え、そして人の多い場所である。俺は『前回』ここを訪れた経験があるし、人の多さに慣れてはいるのだが……目前に見える人だかりに対し、うんざりするようにため息をついた。


「相変わらず人が多いな……」

「当然ね」


 端的にリリーが答える。さすがにここでは彼女の顔を知る人物もいるためか、フード付きのマントを着ており、顔を見せないようにしている。


「さて、一応確認だけど目的地は?」

「お城」

「だよなあ。問題は、俺を入れてくれるのか?」

「私がいれば」

「……信用ならないんだけど」


 『前回』様々な功績を上げて帰還したのならいざ知らず、現時点で俺達は世間に公表できるような功績は持っていない。全て秘密裏に……言うなれば世界の裏側で戦っていた。最終的に『闇の王』を打倒できたのだから、結果として公表せずに戦ったことは正解だったと言えるはずだが、皇帝陛下に会おうとするような状況の場合、功績のなさから門前払いされる可能性だって十分ある。


 リリーだって功績なんてものはゼロなので、この世界だと完全に「城を脱けだして好き勝手やっている皇女」という、はっきり言って城側は頭を痛めるような身分だし……そういえば、本来リリーの従者をやっている騎士ルナはどうしているんだろうか……結局旅を終えるまで顔を合わせることすらなかった。今頃顔面蒼白どころかストレスで臨終していてもおかしくはないぞ。


 本当に大丈夫なのかと再三視線を向けると、彼女は小さく肩をすくめ、


「大丈夫だって。信用して」

「……そうやって言う時、大抵想定とは異なる結果になったんだよなあ」

「うっ……ま、まあお城相手だから、私の口八丁でなんとか」

「お前は一度、今自分がどういう立場なのかをきちんと理解すべきじゃないか?」


 問い掛けに手をパタパタと振って大丈夫だと告げるリリー。信用できない……。

 まあ首都まで来てしまったわけだし、もうここからは出たとこ勝負みたいな部分も大きいのだが……どうなるかと内心でハラハラしつつ、俺は彼女の後を追う。


 ふと町並みを見回す。初めてここを訪れた時も同じように盛況だった。前回と大きく違うのは、俺達にまったく功績がないことと、今回は間違いなく、何事も……厄介事が起きる可能性がないことだ。


 前回訪れた際は、色々と旅の成果を上げたため、文句なしに歓待された。俺についても厚遇して、色々労ってくれた。ただ、そこから先はかなり大変だった。『闇の王』の影響はなかったのだが、どうも『リリー』とは違う別の誰かからそそのかされた人間がいたらしく、いくつも騒動が巻き起こった。その正体が『闇の王』であるとわかった時には、巨大な闇が降臨しようとしていた。そして俺とリリーは闇との戦いに身を投じたのだ。


 正直、政争的な意味合いもあったし、魔法使いという存在により俺はいいように使われた感もあった。今回は『闇の王』を事前に倒しているし、なおかつ『前回』の記憶を皇帝から引き出すことができれば混乱もないだろう。最大の難関は、城に入って皇帝と顔を合わすことができるのかどうかである。

 さて、本当に大丈夫なのか……自信満々なリリーをよそに、俺は胸の内に不安を抱きながら歩んでいく。少しずつ城が近づいていくのだが……その姿は、堅牢な純白の城である。


 清廉潔白なイメージを与える城は、民衆からも好評であの城を誇りに思っている人も少なくない。俺も闇との戦いが進んでいくにつれて、あの城を守ろうという気を抱くようになったのは確かだ。まさしく帝国の象徴的存在であり、普段皇帝の姿を見ることができない一般の人からすれば、あの城こそ帝国の真髄と言っても過言ではない。

 城は建造物としてかなりの高さもあり、広く大小様々な建物がある首都でもっとも高い。だからこそ、あの上階から見下ろせる町並みは美しい……その景色が今も思い出される。


 そして往来する人々からは様々な声が聞こえる。呼び掛けをする露天商や宿の女主人。通行人に警告を発する馬車。何かあったのか、ワイワイと騒がしい声も聞こえてくる。この活気がまさしく大陸の中心の姿であり、これがもう滅びることはないのだと思ったら、なんだか胸のすく思いだった。


「……どうしたの?」


 リリーから問い掛けがやってくる。そこで俺は、


「今までのことを思い出して……この景色を救うことができたんだなって」

「そうだね。でもこれから毎日、飽きるほど見ることになるよ?」

「……もう少し、物思いに更けさせてくれてもよくないか?」

「戦いが終わったから、感傷に浸るのも結構だけどね……現実逃避とかじゃないよね?」


 実はちょっとだけその要素もある。俺の不安をまったく気にしていない能天気なリリーを見て、過去を思い起こして頭の中を誤魔化していた。


「……今、能天気だって思ったでしょ」


 心を読まれた。


「私だってそのくらいわかるよ。だから心配いらないって」

「……なら、お手並み拝見させてもらうぞ。俺は何もしないからな」

「オッケー」


 あっさりと了承。本当に大丈夫なのかとため息をつきたくなるが、ぐっと堪えることにする。

 果たして、どういう結果になるのか……いよいよ城が近づいてくる。城門前だと城は見上げるくらいになるのだが……ここでリリーは立ち止まる。


「さて、と」

「どうした? 行かないのか?」

「何も私達二人で城門を抜けようとは思ってないよ。真正面から突撃して、あっさり入れてくれる可能性もあるけど、確実性を求めるなら少し工夫をしないと」

「……どうするんだ?」


 リリーはそれに対し一度空を見た。太陽の位置を確認しているようだ。現在時刻は、たぶん正午くらいかな。


「うん、この時間ならドンピシャだね」


 何が? 疑問に思ったが口には挟まず、リリーに黙ってついていくことにする。城に近づくにつれて少しずつ人が少なくなってくるのだが、飲食店などが存在するため、まだまだ人の往来は多い。

 で、どうやらリリーは店に入るらしい。まずは腹ごしらえ……という感じにも見えるのだが、果たしてどういうことなのか。


 無言で店に入っていく彼女に続く。そこで、俺はリリーがどういう目的で訪れたのか理解できた。


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