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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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帰るという選択肢

 結果的に隠された資料などもなく、俺が燃やし尽くした物で全部ということで間違いなさそうだった。よって後はリリーがしばき倒した敵を縛って、それとなく騎士団へ報告する。夕刻くらいには騎士が駆けつけ、砦内にいた賊を全て連行していった。


「さて、それじゃあ行くか」

「うん」


 俺の言葉にリリーは静かに頷くと、歩き出す。そこでふと、


「なあリリー」

「何?」

「こうした盗賊団を征伐したことを、俺の手柄にしておけば、それなりに地位が向上するんじゃないか?」

「確かにそうかもしれないけど、地方の騎士に対して貢献しても、帝都には大して響かないよ」


 無情な話である。


「それに、資料を焼却したことを説明するのも面倒だし」

「ああ、それはあるな……ということは、引き続き『闇の王』については秘密裏に動くってことか」

「そういうことになるね」

「別にそれでいいけどさ……そういえばリリー、帝都に到着してから、父君……つまり現皇帝と話をするわけだが、どうやって話をするんだ?」

「それはまあ、適当に」


 考えていないのではないか……と思ったが、口には出さないことにした。


「なら、とっとと帝都へ向かい、城で謁見するところからか……問題は、そこで記憶を戻すのか?」

「状況に応じて考えることにしよっか」

「わかった。リリーの言葉通りに」


 うやうやしく一礼すると、リリーは微笑んだ……その後、彼女は少し俯き加減に目を伏せる。


「……あのさ、レイト」

「ん、どうした?」

「一つ、どうしても確認したいことがあるんだけど」


 何だろうか。急に改まった様子の彼女を見て俺は言葉を待つ。


「その、レイトは……私のことを考えて、この世界へ再び来た」

「そうだな」

「なら、帰るという可能性はあるの?」


 ――決して、ゼロというわけではない。リリーのことが心配だったし、戦いの結末を知りたかったからこそ、俺は再びこの世界へ戻ってきた。


 結果だけを見ると、俺はリリーという縁を伝って『前回』とは異なる隣の異世界へやって来た。そうして記憶を戻し……旅を始めたわけだ。そして現時点で旅の目的はおおよそ達成してしまっている。

 最大の障害である『闇の王』を討伐できたことにより、この世界は救われた。世界のほんの一部しかこの事実は知らないわけだが、それで良いとさえ思えた。俺としては満足のいくものだ。


 で、それだけのことをした以上、未練がなければ帰るという選択肢もある……元の世界へ強制送還されて、俺は奇跡をくぐり抜けてこの世界へ辿り着いた。元の世界へ帰れるのかどうかだが……たぶん、可能だと思う。この世界へ行くのには虚空をつかむような果てしない探査が必要だったが、元の世界は違う。俺が通ってきた道とでも言うべきものが残っているだろうし、そもそも俺の生まれた世界のことを、魔力を通して何となく理解している。だから、帰ろうと思えば帰ることができるだろう。


 俺としては、もう二度と元の世界へ帰らないという気持ちでこちらへ来たわけだが……俺がいなくなったことで、混乱もあるだろう。何かしら処置すべきだったと今振り返れば思うけれど、俺はこの世界を見つけた衝動で何もせず戻ってきた。

 まあ、そうだな……それに関する処置はすべきだろうな。


「……俺の思いは、帰ろうとは現時点で考えていない。ただ、向こうからは半ば衝動的にこちらへ来たからな。向こうの混乱を防ぐために、少し対応を行う必要性はあるかもしれない。今更という話だけど」

「具体的には?」

「俺のコピーを作るとか、かな?」

「無茶苦茶だけど、レイトならそれはできるの?」

「結構大変だけど、できなくはないと思う……ただまあ、やるには準備も必要だし、そもそも元の世界へは辿り着くことはできるけど、干渉する場合はそれなりに時間も要する。結局、資材とかがいるんだよな」

「ならそういう意味でも、帝都へ向かうってことだね」

「俺に援助してくれるのか?」

「お父様に記憶を戻せば、いくらでもできるんじゃない?」


 それはそれでどうなんだろう……確かに現皇帝なら事情を話せば「世界を救った礼を込めて」と言って俺に資材や資金を提供してくれそうな気配ではある。ただ、それなりの資金を動かせばバレるし、そうなれば反発もあるだろう。


「俺に何かしら援助を行う場合、他の人達に対する体裁が悪くなるだろ?」

「全員記憶を戻せばいいんじゃない?」

「おいおい……」

「元の世界をどうこうするだけの力があるのなら、多数の人の記憶を一気に戻す魔法とか作り上げてもおかしくないけど」

「簡単に言ってくれるなあ……でもまあ、そのくらいのことをしないと、目的を達成することは難しいのも事実か」


 なら、旅の道中で魔法を開発するか。厄介な問題ができたな、と思っているとリリーがさらに発言した。


「確認だけど、帰ることはない……で、いいんだよね?」

「そうだな」

「ならお父様に改めて紹介してもいいよね?」


 記憶が戻ったら、俺との関係性からあっさり認めそうだよな……俺としては彼女と共に歩むことは大変そうだと思うんだが、


「……どうなるかはわからない。もしリリー、自分が納得のいかない結論に至ったとしても、それは受け入れろよ」

「やだ」

「あのなあ」

「納得がいかなかったら、自分が頷ける結論を相手に出させる」


 強引である。というか、できるのか?


「世界を救った報酬なんだから、そのくらいはあってもいいよね?」

「俺に聞かれても……ま、記憶を戻した上で世界を救ったという功績まで引っさげているんだ。少しくらいわがままを言っても少なくとも聞き入れてはくれるだろうな。実際にやってもらうかは別問題として」

「むー」

「頬を膨らましても、俺は何も言えないぞ……」


 なんというか、いつもの調子に戻ったな。最後の相手がリリー自身であったというのは、彼女としても困惑したものだったとは思うが……この調子なら、精神的にも大丈夫そうだ。

 そんな安堵をしつつ、俺達は会話をしながら街道を進み続ける。帝都までの道のりは、あと少し。いよいよ俺の大きな旅が終わる……そんな予感さえ抱きながら、俺とリリーはひたすら歩み続けた。


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