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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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自分達のために

「僕は、帰ろうと思います」


 アゼルの言葉。彼は小さく苦笑し、


「そもそもこの旅路も無理矢理理由をつけて同行していますしね……ただ、お二人の支援はしようと思います。情報などを集めるつもりですので、必要であれば遠慮なく仰ってください」

「それはありがたいな……今後も頼むよ、アゼル」

「はい!」


 良い返事だった。彼についてこれでいいとして、俺はクレアへ視線を向ける。


「そっちはどうだ?」

「そうね……私も少し、一人で剣を振りたい気分。リリーと手を組んだ方が強くなれるのかもしれないけど、それを心のどこかが拒否している」

「あくまで一人で、強くなりたいと」

「そうね……ま、リリーに対しては一度も負けていないし、そういう意味では一緒に旅をすることに意味はないのかもしれないわね」

「ぐぬぬ」


 なぜか唸るリリー。俺はそんな彼女に「抑えろよ」とたしなめ、


「だが、それでいいのか? 一人で……というのは納得できるが、もしかしたら俺達といた方がより強くなれるかもしれないぞ?」

「ここからは私が納得するかどうかの問題だから結局のところ。自分自身納得がいく形で強くなりたい……ずいぶんなワガママよね。けれど私はそうするべきだと思ってる。それで、数年後……あなたの下を訪れたら、再戦してくれるかしら?」

「ああ、いいよ」


 快諾するとクレアは「よし」と一言呟いた。


「なら、私はあてのない武者修行を……つまりレイト達と出会う前に戻るとするわ」

「それで良いと思うのなら、俺達は止めることなんてしないさ……山を下りたら、お別れだな」


 その言葉にクレアもアゼルも頷く――前回『闇の王』と戦った時と比べ、期間は短い。しかし、共に戦い続けた仲間であることは疑いの余地もない……どういう選択をとろうとも、強い絆で結ばれていることは、間違いなかった。






 そこから山を下りるまで、俺達は色んな話をした。戦いが終わり、ようやく自分達のために旅をすることができる……肩の荷が下りた感覚と共に、俺達は話をした。時に笑い、言い合いになり、はたまた白熱した議論になった。

 思えば『闇の王』との戦いは確かにそれはそれで内面に触れる機会のあることが多かった。そうやって強く結びつかないと、世界を覆う闇に対抗することができなかったのだ。けれど同時に、冗談を言い合い、茶化すようなことは少なかったように思える……もちろん戦いの中でそんな機会もあったけれど、心の隅で世界のために戦うという使命感があり、全てをさらけ出して話す、ということは少なかったかもしれない。


 だからある意味では貴重な時間……けれどそれもアゼルが住む屋敷へ近づき、終わりとなった。


「私達はこのまま町へ向かうよ」

「なら、ここでお別れですね……いつかまた、会える日まで」


 連絡態勢については既に構築している。ここへ辿り着く前に『山の王』とも話をしており、どのようにするか結論づけた。結局のところ『樹の王』とか『山の王』を介して連絡を取り合うことで落ち着いた……それが無難だったし、何より容易にできる方法だ。


 けれどこのやり方だと、アゼルと顔を合わせることはおそらくない……とはいえ、会おうと思えばいつでも会える。今生の別れというわけでもないから、俺達は手を振り清々しさと共に別れた。

 そうして三人となって町へ。そこでクレアもまた雑踏に紛れ去って行った。ひとまず大陸をぐるりと一周するつもりらしい。彼女とは次にいつ会えるのかわからないけれど……ま、クレアのことだ。そう心配はしていない。


 そして残されたのは俺とリリー……で、だ。


「それで、どうするんだ?」


 ここへ来るまでに俺は幾度か尋ねた。けれど彼女は「考え中」と答えていたのだが。

 ちなみに俺はリリーに従うつもりでいる。というか、俺はこの世界で世間に広まる形で功を立てているわけでもない。魔法使いとしての力は持っているから、一人になってもこの世界で生きていく手段はいくらでもあるだろう。


 けれど、一人になることはしなかった。というより、他ならぬリリーがどうするのか気になった。何せ彼女は俺にプロポーズしているわけだし。

 その返答については、有耶無耶になってはいるけど今なら……と思いたいところだが、今回の戦いを通して俺のことは何一つ広まっていない。ここから周囲に認められるようになるまで、どうするか……その辺りも悩みどころだ。


「……リリー?」


 いつまで経っても返答が来なかったので問い掛けたら、彼女は意を決したかのように。


「うん、これしかないよね」

「何か思いついたのか?」

「レイトのことを認めてもらうために」


 と、彼女は前置きをする……そこについて俺も考えたけど、ひとまずやるべきことは、


「まずはお父様の記憶を戻す」


 うん、俺と同じ考えである――元々『闇の王』がどういう存在なのかわからなかったが故に、俺達は下手に記憶を戻すのはリスクがあるとした。首謀者が貴族とかを取り込んでいる可能性もあったからだ。実際のところ、そうした懸念は必要なかったわけだが、俺達は注意を払っていた。

 『闇の王』が消え去った今、記憶を戻すことについては問題ない。むしろリリーの父親……現皇帝の記憶を戻すことで、庇護下に置いてもらうという方法もある。


 リリーとしては、俺との関係を認めてもらうには味方を増やすしかないので、必然的に最初のターゲットは父親になるわけだ。こちらが頷くとリリーはニヤリとして、


「そうと決まれば目指すは帝都……レイト、それでいい?」

「異存はないよ」

「なら、出発!」


 クレアが去った逆方向へ、俺達は足を伸ばす……戦いも終わったけれど、俺の戦いはこれからと言っても良い。なぜなら俺はこの世界で生きていく決意をして、舞い戻ってきた。

 だからまあ、腰を落ち着かせる場所を得るまで、旅は続くわけだ……そうした中で、俺はリリーに対してどういう答えを出すのか。


 彼女が先導して歩く中、俺はただひたすらに追随する。帝都までの道のりは遠いが、俺とリリーならば普通の旅程よりは早く到達できるだろう。ま、急ぐ必要はない。ゆっくりと進めばいい。

 そんな風に思っているのだが……当のリリーは急かすような視線を投げる。どうやら彼女は少し違うようだ……そんな姿に苦笑しつつ、俺は彼女の後を追い続けることとなった。


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