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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章

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もう一つの刃

「私達は勝つ……勝てる」

『何を根拠に言っているのか、理解に苦しむわね』


 やれやれといった様子で、闇をまとう『リリー』は語る。


『あなたと共にいる仲間……異世界から来た客人は、力をそのまま持っているようね。けれど所詮それだけよ。今の私は彼の攻撃を防いだ。その事実は変わらない』


 次いで『リリー』はクレアやアゼルへ目を向ける。


『そこの二人は、技量云々よりも装備で追いついていない。妖精郷からいくらか武器を拝借したとしても、この差は埋めようがないはずよ』

「確かに、あなたの言う通り」


 闇の声を遮るように、リリーは告げる。


「でも、それでも……私達は勝てる」

『正直、酔っ払いの戯言のようにしか聞こえないわよ?』

「……レイト、クレア、アゼル。信じてついてきてくれる?」


 彼女の問い掛けに、俺達は全員武具を構えることで応じた。聞かなくとも――そうした意思表示に対して、リリーは満足げな笑みを浮かべ、


「なら、いくよ!」


 声と共にリリーは仕掛ける。目前にいる最大最強の存在へ向かって。懐から切り札を取り出し、それを長剣へと変化させ、肉薄する。


『妖精達の武具……けれどそれも通用しないわ!』


 澄んだ声で『リリー』が叫ぶ。それと同時に闇が拡散した。

 リリーだけでなく、俺達すら飲み込もうという勢いの攻撃だった。それを俺は魔法で、クレアは剣術で。そしてアゼルは持てるだけの魔装を生かして、防ぎきる。


 クレアとアゼルについては、防戦に徹するだけで精一杯……ただ、俺はなんとなく理解できた。おそらく『リリー』は広範囲に攻撃を仕掛けることで逃げられなくした。それは俺達を含めてのことで、こちらの動きを縫い止める意味合いだってあっただろう。

 ただ、先ほどリリーは俺達へ呼び掛けた。たぶんだが、リリーは今の攻撃を予測して、声を放ったのではないだろうか。


 つまり目の前の状況は想定内……リリーの魔力が一際高まる。妖精郷、冬の領域……そこに存在する魔力を覆い尽くそうとする『闇の王』に対し、まばゆいほどの力を解放する!


『それが全力ならば、大したものね!』


 一方で『リリー』の方は称賛する。ただそれは、教え子が良い成績をとった時のような、対等な関係とは程遠い意味合いのものだった。


『私を滅ぼすために、それだけの力を引き出す……驚異的ではあるけれど、同時に限界も感じるわ。その程度の光で、この闇を打ち消せるとでも――』


 心を挫こうとした『リリー』の言葉に対し、リリーは斬撃で応じた。間近に迫った闇をザシュ、という音と共に切り裂いていく。妖精の力によるものなのか、それとも本来の力なのか……闇は光に当たることで打ち払われ、闇をまとう自分自身への道を作り出す。

 その動きに対し、当の『リリー』は一時沈黙。それをリリーは見逃すはずもなかった。


「無言になったわね!」


 さらに迫ろうとする。だがその間に闇が再び彼女へ迫る。けれどそれを、二撃、三撃と剣戟を加えることで、弾き飛ばしていく。

 その時、俺は直感する……これは『前回』の再現だ。周囲から迫り来る闇の塊。それを仲間達が食い止め、切り札たるリリーは闇の核へと迫った。現状、俺とクレアやアゼルは周囲にある闇を留める役目を果たし、リリーだけが闇へと突っ込んでいる。


 もし『リリー』の視点ならば……闇を仲間が食い止め走り来る自分自身の姿が映っていることだろう。


「あの最終決戦は、確かに私達の負けだった。けれど、あなたに何かしら傷を負わせることはできていたようね――」

『黙れ!』


 咆哮。それと共に闇がリリーを覆い尽くそうとする。だがそれをはね除ける彼女の魔力と斬撃。俺も魔法でどうにか援護して、闇を消していく。


「あの時、私に迫られてあなたはどう思った? 仲間を犠牲にしてでも、突き進んでくる私を見て……それは、恐怖だったんじゃない?」

『――恐怖、か。それはとうの昔に克服している!』

「それならさっきみたいにやんわりと否定すればいいじゃない。それに、あなたは私のことを認めた部分もあった……ならばそれと同じように認めると表明して、さっさと話を切り上げればいい。けれどあなたはそうしなかった。それは私の指摘が正解だから、抉られたくないんでしょう?」


 それに対する『リリー』の返答は、無言で闇を動かすことだった。言葉――もう一つの刃と呼ぶべきか。剣を振るだけでなく、リリーは精神的に攻撃を仕掛けている。本来圧倒的な力を持つ『リリー』ならば、逆上する必要性などどこにもない。むしろ冷静に、近寄ってきた羽虫を叩きつぶすように処理すればいいだけの話だ。けれど『リリー』はそれができない。いや、リリーがそうさせないと言うのが正しいか。


 とはいえ現状は相変わらず『闇の王』が有利であることに変わりはない。冷静さを取り戻し、俺達への攻撃を的確にすれば現状はあっさりとひっくり返る。

 ただ――そうはならないだろうと予想できた。理由は明白。リリーに散々指摘されて憤怒の形相すら見せる『リリー』に冷静な対応ができるとは思えなかった。


 それは間違いなくブラフではない――今まで圧倒的な力で滅ぼせば良かっただけの存在。それはもはや戦いではない。一方的な蹂躙であることに違いはないが……逆に言えば、彼女は蹂躙しかしてこなかったとも言える。

 つまり戦いの経験などないのだ。あるとすれば『前回』の最終決戦……仲間と共に剣を振るった皇帝リリーの戦い以外にない。これが二度目――その経験のなさが、今まさに露呈し始めている。


「あなたは何もわかっていない。あなたはただ、偶然手に入れた力に溺れ、ここまで来た。あなたは何一つ成し得ていない! ただ闇に操られているだけ!」

『だから……どうしたというのだ!?』


 再び咆哮。だがリリーは見事に迫る闇をさばききってみせる。


『貴様が矮小な存在であることに変わりはない! 闇の中にちっぽけに浮かぶ光が貴様だ! どれだけ私を否定しようと、どれだけ私を罵倒しようと! 私に勝てなければ無為と化す!』

「そうね。なら決着をつけましょう」


 冷厳に――闇の言葉通りちっぽけに浮かぶ光が、圧倒的な闇を前にして告げる。


「教えてあげる、私。こんな光で……あなたは、負けるの」

『――アアアアアア!』


 もはやそれは声ではなかった。怒りに任せて闇を振るう『リリー』。だが、次の瞬間――リリーは剣を閃かせ、自分自身へと疾駆した。


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