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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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歪んだ願望

 俺の魔法によって、一時視界が白で覆い尽くされる。とはいえ気配だけはつかんでいる……現在『闇の王』は超然と立つだけで、宣言通り俺の魔法を受けた形だ。

 さて、どうなるか……今のは間違いなく全力だ。内に存在する魔力をありったけ注いだ結果、光が『闇の王』を包み込んだ。その結果は――


 視界がクリアになる。真正面にいたのは、炎の不死鳥を食らわせた時と同様、無傷の『闇の王』だった。


『ほら、言った通りでしょう?』


 攻撃を受けきり、どこか誇らしげに闇は語る。


『今のはおそらく、あなたにとって最高の一撃だったはず。けれどそれを用いても、私を傷つけることすらできない……絶望的な状況であることは間違いない。今ならまだ、見逃してあげるわよ?』

「そうまでして退却させたいのは、理由があるのか?」

『先ほど私自身と会話をして、証明したいと願った……そう思っているのは事実。けれど闇に溶け込んで少し思案した……このまま怯えて逃げ帰る自分自身を見てみたいと』

「またずいぶんと、歪んだ願望だな」

『これは私自身との戦い。私が上であり、自分が正しいと証明するためなら、その方が有意義でしょう?』

「矛盾しているようにも思えるな。先ほどは決着をつけようなどと主張していたはずなのに」

『もちろん私自身とは決着をつけるわよ。けれど、他の人には猶予を与えたいと思ってね』


 ……正直、意味のある行為ではないのだろう。自分の溜飲を下げるために、俺達の動揺を誘う……方針としてはそんなところか。

 闇に溶け込んでいる以上、理屈に適ったやり方とはまた違うのだろうと予想できる。それはある意味こちらをもてあそんでいるとも読み取れるが……たぶん真実は違う。どんな形にしろ、証明したいのだ。自分こそが正しいと。


 仲間であるリリーの全てを……仲間である俺達でさえも踏みにじって、世界に証明したい……まさしく妄執。闇が生み出したバケモノだ。


「なるほど、やりたいことは理解できたよ……ただ、一つ注意した方がいい」

『何かしら?』

「俺ばっかりに注目していると、足下をすくわれるぞ」


 刹那、『闇の王』の横手からリリーが仕掛けた。握り締める剣は今まで使っていた剣。まだ切り札を使うには至らないか。

 会話に気を取られ『闇の王』は完全に虚を衝かれた形となるが……『リリー』は即応した。迫る剣戟に対し腕をかざす。


 素手で、というのは予想はしていた。俺の魔法を受けても無傷であった以上、その体で攻撃を防ぐことなど、容易い。

 リリーの剣が、闇へと触れる――ガアン、と金属音がこだました。刃は弾かれ、リリーは一歩後退を余儀なくされる。


『それも無駄よ。あなたの攻撃が通用するはずもない』


 攻撃を受け『リリー』はこの世界の自分自身へと視線を向けながら、語る。


『もし対抗するなら、皇帝となって継承される剣を持ってこなければ無理よ……ただまあ、この場所にはあれに比肩しうる力を持つ武具が存在する。最終決戦である以上、それを懐に携えていてもおかしくはないわね』


 クレアが事前に指摘した通り、予測はしているか。ならばそれを警戒して、動向を窺うか――と思ったのだが、相手は予想外の言動をとった。


『ならば試してみればいいわ。この私に、あなたの切り札を。それすら通用しないことを、証明してあげる』


 ……先ほどの言動を踏まえれば、そんなことを言い出す可能性も十二分にあった。間違いなく『リリー』はリリーの全てを受け止め、心を折る気でいる。この場所で決着をつけるのであれば、ここでどうあがいても勝てないと思い知らせる……というわけだ。

 相手の顔には笑みが浮かんでいる。どこまでも余裕。そしてどこまでも傲慢……というより、闇の力に溺れてなお、勝てると確信している。


 それは闇を身に宿したからこその自負か。この世界に、自分を討てる可能性のあるものは存在していないと……俺の魔法も通用しなかった。ならば他に決定打を与えられるものは、


「……全てを受け入れ、それでなお示すというわけ?」


 リリーは剣を構え直しながら尋ねる。


「切り札……それを使ったら、滅びるかもしれないのに?」

『そんなことはあり得ないわ。あなたの剣戟をこの身に受けて確信した。絶対に、私は滅びない』


 彼女を中心に闇が轟く。その力は、まさしくこの世の物とは思えない……俺達の『前回』を飲み込んだ、闇そのものだった。


『ふふ、あなたは相応の対策と心構え……そして何より、あなた自身の経験。それらを手に入れたことにより、勝機を見出そうとしている。けれどこうは思わなかった? 私の方も、眼前に迫られた事実があるのに、漫然とこの世界を滅しようと動いていたのか』


 リリーは何も答えない。すると『リリー』は口の端を歪める。それが笑みであるとかろうじて認識できるが……俺と共にいた彼女が見せない、醜悪な表情だった。


『この世界へ辿り着いた直後、私は確かに危なかったと思った。そこは認めましょう。もし異世界からやって来た人物も決戦に加わっていたなら、正直わからなかった……まあ、あれだけ肥大した闇は私という核を消しても残っていただろうから、あなた達は飲み込まれる……実質相打ちに近かったでしょうけれど……ともかく、死の予感を抱いた』


 するとここで『リリー』は両手を左右に広げる。


『異世界からの人間はいない……さらに、この世界の私自身が皇帝となるような事態でなければ、同じように肉薄されるようなことはない……けれど、万全を期すべきだと判断した。私は闇によって私自身を強化している。世界を飲み込む闇を宿した時と比べれば、確かに力は低いかもしれない。けれど、あなた達だって力を落としている。私の核へ肉薄した技術も、力もあなた達にはない。そして私は対策を施した……もう油断だってしない。なら、答えは一つでしょう?』


 悠然と――闇と同化した彼女は語る。相手もまた完璧ではないが、『前回』と同じ轍を踏まないように対策を行った……力そのものは『前回』と比べれば低いだろう。しかし、俺達もまた力を落としている。

 相対的に差が広がっている……そんな風に言いたいのかもしれない。それは紛れもなく事実だと思う。


 けれど、


「……それでも」


 リリーは、不敵な笑みを浮かべながら応じた。


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