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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
131/143

最初で最後

 ――俺達はそれこそ、幾度となく闇と向かい合ってきた。俺は最終決戦に参加してはいないけれど、そこに至るまでの戦いは非常に厳しく、また同時に極めて絶望的な戦いであったのは間違いない。

 多数の平行世界を滅し続けた存在……そんなのが相手である以上、勝つのが難しかったのは至極当然と言えるかもしれない……そして今回。俺達は『闇の王』を完全に顕現させないまま、決戦を迎えることができた。


 間違いなく俺達にとって千載一遇の好機――そして、相手の『リリー』は俺達のことを認識した以上、今度は同じようなことにならないよう対策を施すだろう。この世界のリリーに『前回』の記憶が戻ったのは俺という存在があったから……俺は間違いなくこの世界で極めて例外的な存在。異世界の人間である以上は当然だが……『リリー』は間違いなく俺を完膚なきまでに始末して、二度と『前回』の記憶など戻らないようにする。

 つまり、これが最初で最後のチャンス。なおかつ『闇の王』は完全体ではない……のだが、真正面にいる闇の化身は、最終決戦前に戦った巨大な闇を想起させるほどに、圧倒的な気配に満ちていた。


『確かにこうやって追い込まれるとは思っていなかったし、また同時にこんな形で決戦を行うことになるとは想定外』


 闇に飲み込まれ、声を響かせながら『リリー』は語る。


『でも、それでも私は力を持っている……この体の内には闇の王が確かに眠っている……世界を滅するため仕込みをして肥大化するのはあくまで、平行世界を移動するため。本来の私の力……闇は、世界を包む闇は、この身の内にある!』


 刹那、闇が『リリー』の立っていた場所に凝縮した。そして元の姿を見せ、その体の内に巨大な闇が覗き見える。


「力は健在、と言いたいわけか」


 俺は呟きながら相手を見据える――目の前の敵は『前回』と同様の巨大だと主張したいらしい。

 しかし、そう言われても不安はない……無論、前と比べれば戦力は薄い。そもそも四人であることに加え、アゼルについては『前回』のような力を持っていない。


 さらに言えばリリーだってそれは同じだ。前回使用していた『聖皇剣』は手元にない。それに比肩しうるだけの武器を今リリーは手にしているが、根本的に練度が違う。

 果たして、使いこなすことができるのか……俺はリリーの表情を見た。変わり果てた自分自身を見据え、それでもなお表情は崩さない。


 そればかりか、今回の戦いで全てを終わらせる――そういう気概が満ちていた。


「レイト」

「ああ」


 名を呼ばれ、俺は返事をしながら魔力を高める。最大最強の相手……とはいえ『前回』と異なることが一つ。

 最終決戦……そこに俺はいなかった。不利な状況であっても、この俺が、道を切り開く!


『始めましょう!』


 その声と共に、闇が弾け『リリー』が――いや『闇の王』が迫る。即座に俺達は散開し、立っていた場所に闇の塊が撃ち込まれた。

 爆音に加え、濃密な魔力……火球や光弾とは違う、触れたら吸い込まれ消え去ってしまうような、深淵の力。闇は弾けると炎のように広がるが、それに触れたらどうなるか……火の粉のように舞い散る黒に触れるのもまずいだろう。


 魔力によって体を覆っているとはいえ、相手は『闇の王』である以上は最大限の警戒をしたいところ……とはいえ目先の攻撃に注意しすぎては反撃もできなくなる。俺は呼吸を整え、挨拶代わりの魔法を行使する!


「これで……どうだ!」


 生み出したのは炎の不死鳥。刹那、至近距離にいた『闇の王』へ直撃し、火柱が天へと昇る。冬の領域が炎熱によって暖められ、地面に存在した雪の結晶を溶かしていく。

 俺達は全員一度様子を見るために後退した。さすがにこれでやられるとは思っていない。目の前にいる『闇の王』が『前回』と同じくらいの力を持っているのであれば、これで終わるはずがない。


 やがて火柱が消え始める。その中心に立っている『闇の王』は……外傷一つない状態で、俺を見据えた。


『……あなたの魔法は把握している。その力も、そして技術も』

「俺の魔法は全部受けきれるってことか?」

『ええ、そうね』


 事も無げに述べる闇。それに俺は杖をかざすことで応じた。


「本当に平気かどうかは……もう少し食らってみないとわからないだろ?」

『脅威であることは認めるわ。あなたのおかげで、私の攻勢が緩んだのは確か。けれど、止めることはできなかった』

「だから自分の方が上だと言いたいのか?」


 会話を行いながら俺は魔力を溜め始める。次の魔法を何にするか――思案していると、相手は思わぬ行動に出る。


『証明してみせましょうか。異世界の住人……魔法の王と呼ばれたあなたの攻撃でさえ、通用しないことを』


 闇は両手を左右に広げ、俺の攻撃を受け入れる所作を示した。


『一度だけ、無条件で受けてあげるわ』

「ずいぶんと余裕だな」

『私の方は温情のつもりなのだけれど。無為な戦いを行って絶望するより、さっさと力量の差を理解して逃げる算段を立てた方が、長生きできるわよ?』


 ……俺達の士気を挫くためのものか。そんなものでこちらの意志が揺らぐことは決して亡いのだが……他に何か狙いがあるのか?

 疑問ではあったが、俺は望み通り魔法をくれてやることにした。杖の先端に魔力を込めて『闇の王』へとかざす。


「後悔するなよ」

『安心して、絶対にしないから』


 刹那、魔法が発動した。それは光の槍――ひどくシンプルで、かつ全力を投入した、光魔法だった。


 対する『闇の王』は避ける素振りすら見せず、その魔法を身に受けた。途端、光が拡散して轟音と共に周囲を満たす――その間に、仲間が動く気配を感じ取る。視界を封じて次の攻撃準備……というわけだが、さすがに『闇の王』も気配をつかんでいるだろう。俺の魔法が爆散したことによって魔力が乱れ、仲間の動きを把握しにくくはなっているが……俺はさらに魔力を注ぐ。直撃した光は『闇の王』を中心に滞留し、先ほどの不死鳥と同様に天へと昇っていく。

 そこへ追い打ちを掛けるように魔力を与えることで、威力が増していく――刹那、光がさらに膨れあがり、闇へと凝縮し、視界全てを飲み込んだ――


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