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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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森の戦い

 森は太陽光が所々で差し込む程度には明るく、歩くには不便はない。しかし結構な大所帯なので進みは遅く、前の人にぶつからないよう注意する必要があった。

 なおかつ森の中ということで視界の確保も大変……よって俺は一つ策を講じることにした。


「ほっ」


 掛け声と共に俺は手のひらにリスを生み出す。一種の使い魔であり、森なので違和感ないのはこれかなーと思い作成した。

 少し意識すればこのリスが見ている視点を頭の中に浮かべることができる。木の上などを走らせて俺の視点からは見えない場所を確認する……戦況の把握にはうってつけだ。


 それを複数体……リスの視点を覗くには意識を傾ける必要はあるので制御は面倒だが、まあなんとかなるだろう。

 で、戦闘が始まる前まで慣れようと思いリスを走らせてみる。森の中を駆け巡るリス……うん、上手くいきそうだ。


 そうして色々試していると、戦士達の先頭を進むイルバドを発見。周囲の面々と積極的に話をしており、まとめ役としては非常に良い存在なのだとわかる。

 少しの間観察してみると……あ、目が合った。なおかつ小さく手まで振ったぞ。


「……すごいな、あの人」

「どうしたの?」


 横からリリーが問い掛けてくる。それに俺は、


「イルバドって人、俺が放った使い魔に気付いて手まで振った」

「気配察知能力は高いってことか。そういえば『前回』の時、魔物を最初に気付いたのはあの人だったかな」

「実力的には、戦士達の中で一番上、かな」

「そうかもしれないね……あ、もちろん私達を含めたらレイトが一番だよ」

「はいはい」


 満面の笑みを浮かべる彼女。それに俺は苦笑を返しつつ、周囲の状況を観察。


 今のところはまだ平和。確かもうしばらくするとエルフ達が「森の様子がおかしい」と言って立ち止まるはず。

 そこでイルバドなんかが前に出る……確かリリーもついていって、程なくして戦闘は始まった。


「リリー、そろそろじゃないか?」

「うん、そうだね――」


 その時、前方がザワザワし始めた。お、噂をすれば。


「どうする?」

「私は前に出るよ。レイトは後方をよろしく」

「ああ」


 イルバドも動き始める。それに対しリリーもまた歩き始めた。

 さて……俺は周囲を見回しながらリスを用いて敵の気配を探る。


 犠牲者が多くなった大きな理由は敵の総大将が恐ろしいほどの強さだったこともあるが、それ以外にも敵の攻勢により士気が下がったこともある。

 森の主と呼称すべき敵以外……強くはあったがこれだけの精鋭を引き連れた俺達ならば対処は十分可能だったはず。けれど敵は森の中で奇襲同然に仕掛けてきたこと。さらに俺達を囲むように襲い掛かってきたことで被害拡大に繋がった。


 逆を言えば、奇襲を防ぐことで犠牲者をなくすことができるはず……程なくして俺は敵の気配を感知。


「……敵だ」


 小さな声。それに周囲の冒険者達は辺りを見回し始める。

 そこで他の者達も気付いた。敵が迫っている――


「魔物だ! 迎撃態勢へ!」


 すかさず冒険者達が叫ぶ。それに呼応するように、兵士や騎士。さらにエルフ達も動き出した。


 たぶんだが、前線にいる魔物の気配に注目した結果、周囲から迫る敵に気付くのが遅れた……それが『前回』における敗因と言えるかもしれない。俺は使い魔のリスを使って部隊の状況を逐一把握しながら、交戦に入ることにする。


「さて、頑張るか」


 といっても魔法を全開で使うわけではない。今回の敵はこちらの状況を窺って戦術を変えてくるような形をとっていた。こちらに魔法を自在に扱える人間がいるとわかれば、最大限に警戒される可能性が高い。

 よって、方針としては魔装であるように装いながらそれとなーく魔法を使って味方を援護する。奇襲は防ぎこちらの戦力は整っているので、多少の援護さえあれば対処できるはずだ。それでも問題があれば、俺が出力を上げればいい。


 前線も交戦を開始したようだが、まだ大ボスは前に出ていない。よって観察だけしてこちらは周囲を受け持とう。


「抑え込め!」


 冒険者達が叫ぶ。それと同時に俺は密かに杖に魔力を込め――魔法を発動させた。

 それと同時、魔物と交戦が始まる。まずは近くにいた剣士が魔物と肉薄し、一閃。


 魔物はそれに防御の構えをとったが……剣士の刃が魔物の腕ごとぶったぎった。


「いけるぞ!」


 声を上げる剣士。次いで他の面々も魔物と交戦を開始し……撃破していく。

 魔物はやはり人馬一体のような魔物であり、この森の中でも機動力を活かして『前回』は襲い掛かってきたのだが、まずは奇襲を潰したことで優位をなくした。そして俺の魔法……簡単に言えば支援魔法の類いだ。後方にいる面々の攻撃力と防御力を一定時間上昇させるというのがその効果だ。


 さすがに限界まで引き上げると冒険者達の能力に追いつかなくなってしまうので、抑えめではあるのだが……それでも全方位から仕掛けてくる魔物に有効な様子。歴戦の戦士達が集うこの場では奇襲を失敗させるだけで十分過ぎたのかもしれない。結果的に魔物はこちらに犠牲を生み出すことなく、倒されていく。


「まだ来るぞ!」


 ここで騎士の声。第二波というわけだが、これも問題はなさそうだ。

 魔力の質についてはリーダー格の魔物以外は特筆して高いわけではないし……と思ったら少しばかり強い個体を発見。周囲の戦士達で問題はなさそうだけど、一応俺が片付けておくか。


 俺は目立たないようスルリと移動を開始する。部隊は縦に伸びる形で交戦したが、目標とする魔物は真ん中を食い破ろうとしていた。見た目は他の個体と変わらないが、腕に握る剣に他とは異なる強い魔力が発せられているのが俺にはわかった。


「奇襲で士気を下げ、こうした魔物で戦士達を仕留めていたわけか」


 つまり二段構え……もっとも、今ではほぼ意味はないけど。

 該当する魔物の正面に回る。それに対し敵は反応し、向かってきた。


 杖を構え俺は相手を見据える。刹那剣が振り下ろされたが、それを俺は杖で防ぐ。

 途端、鳴り響く金属音。結果は……俺が剣を弾き飛ばす!


「終わりだ」


 短く声を発すると同時、杖を魔物の頭部へかざす。それと共に生み出されたのは風。ただし刃ではなく、言わば風の塊……触れたら一瞬で魔物を消し飛ばすような、圧縮された風だ。

 それが弾丸のように魔物の顔へと放たれ――直撃。パン! と弾けるような音を上げて首から上が消滅。倒れ伏した。


 見た目は決して派手ではないが、リーダー格の魔物に通用するくらいの威力が備わっている……別に派手でもいいけど、森の中だし周囲に被害を及ぼさないよう配慮する必要があったので、こういう形になった。


「やるじゃねえか」


 近くにいた戦士が声を掛けてくる。こっちは「どうも」とだけ答え、戦況を確認。

 犠牲もなく、完全にこちらが優位となっている……うん、これなら後方部隊は問題無さそうだ。


 そうなると、残るはエルフ最強の剣士であるジェファすら破った魔物の存在……前線も一気に魔物を蹴散らし、どうやら交戦に入る様子。

 その中には当然、リリーの姿もある。『聖皇剣』がない状態だが、果たして勝てるのか……胸中で呟く間にリリーは不敵な笑みを浮かべる。


「さあ、今度は私の手で片付けましょう」


 小さな声を発すると同時、彼女が握る剣に魔力が注がれた。それにより反応する魔物。相手は突撃を開始し……この戦いにおける最大の戦闘が、始まった。


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