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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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明瞭な敵

 その日は、以降何事もなく朝を迎えた……攻撃が来るかもと警戒していたが、杞憂に終わった。

 俺は日の出から少しして目覚めると、支度をして彼女の様子を見るべく部屋へ向かう。


「リリー、起きてるか?」

「うん」


 ノックと共に呼び掛けると返事があった。入ると一言告げて部屋の扉を開ける。

 既に彼女は準備を終えていた。顔つきはしっかりしたもので、少なくとも混乱しているという様子はない。


「大丈夫そうだな」

「そうだね」


 肩をすくめ、リリーは答える。

 眠る前、昨夜の内にクレアやアゼルへ事情などを説明した。二人も色々と考えるところはあったみたいだが、結局のところリリー自身の問題と直結するし、深くは追求してこなかった。


 結局『リリー』と話をした後、俺は目の前の彼女に何も尋ねなかった……どう答えを投げかけたら良いのかわからなかった、というのもある。ただ、今のリリーはどうやら答えを出した様子……ならば、俺がとやかく言う必要性はない。

 ひとまず全員で集合してから朝食をとる。食事中は終始無言だったが、俺もリリーも、そしてクレアもアゼルも落ち着いていた。


 その後、最終決戦へ赴くということでエリテに挨拶を行う。彼女は妖精達のとりまとめに奔走しているようで、参戦は厳しいとのことだった。


「首謀者が現われた以上、私としては妖精達の保護を優先するしかありません」

「それは極めて当然の話なので、こちらもわかっています」

「……その代わりと言って良いかどうかはわかりませんが」


 エリテはリリーへ何かを差し出す。それは――この妖精郷が持つ、最強の武器。俺達が本来この場所を訪れた目的である、『樹の王』が所有する短剣だった。

「少なくともあなたは使える……よって、これをお使いください」

「ええ、ありがとう」


 リリーはそれを手に取ると、形状が短剣から長剣に変わった。そこから多少感触を確かめた後、彼女は短剣に戻した。


「鞘はありますか?」

「ええ、どうぞ」


 差し出された鞘を受け取ると、リリーは短剣を鞘に収めて懐にしまいこんだ。


「リリー、最初から使わないのか?」

「私にとってこの剣は間違いなく切り札。使い方次第で、おそらく戦いの行く末が変わると思う。だから、隠し持っておく」

「持っている予測はしていると思うけれど」


 クレアからの提言。それにリリーは頷き、


「かもしれない。でも、軽々に切っていいカードじゃない」

「何か考えがあるってことかしら?」

「そういうこと……レイト、それでいい?」

「リリーの判断に任せるよ」

「……私は、妖精達を守ることに終始します」


 俺達の会話が終わるのを見計らって、エリテが語り出す。


「危険な戦いに参加できないのは心苦しいですが……皆様、よろしくお願いします」

「ええ、大丈夫」


 リリーが笑みを浮かべながら応じる。それにエリテは最初驚いた様子を見せていたが……やがて、微笑に変わった。

 リリーにとって、政治的な意味合いでも妖精郷を訪れたことは大きい収穫だろうな。ただ彼女は妖精郷とコネクションを得たとか話す気はなさそうだけど。


「さて、それじゃあ行こうか」


 リリーが告げ、俺達は歩き出す。去り際に振り返ることもせず、黙したまま俺達は館を出た。

 既に『リリー』がどこにいるのかは把握済み。冬の領域であり、俺達のことを待っている様子だ。


「……今回戦う相手は、俺達が挑んでいた『闇の王』よりは、弱いかもしれない」


 そう俺は述べる。ただ、仲間達の表情は硬い。


「けど、俺達の方だって『前回』の時みたいなパフォーマンスを持っているわけじゃない。リリーは幸いながら、現在手に入れることができる中で最強の武器を有しているけど……果たして『聖皇剣』と比べてどうかと言われると……」

「不安がないわけじゃないよ。でも、勝機は十分にあると思う」


 リリーは自身の手のひらを見つめながら、語る。


「『闇の王』との決戦……私の手には、確かに手応えがあった。あの時は仕留めることができなかった。でも、今度こそ……」

「……要なのは、当然ながらレイトさんとリリー王女ですね」


 アゼルが述べる。俺は即座に頷き、


「クレアとアゼル。二人はサポートに回ってくれ。例えば俺とリリーに生じてしまった隙を埋めてくれるとか、あるいは攻撃により敵を牽制するとか。やり方は任せる……というか、相手がどういう手段で攻撃してくるかわからないから、適宜対応するしかない」

「無茶言うわね……けど、それしかないから仕方がないか」


 あきらめたようにクレアは告げる。


「私は死なない程度に頑張るとするわ。それでいい?」

「ああ、構わないよ。アゼルも同じでいい。この面子の中で一番力を発揮できていないのは、アゼルだ。まずいと判断したら逃げてもいいからな」

「できる限り、そうならないよう立ち回ります……どこまでやれるかわかりませんが」


 少なくとも、闇を目の前にして臆しているというわけではない。むしろ決戦だからこそ、気合いを入れている。

 クレアもアゼルも、大丈夫そうだな……では俺自身はどうか。


 リリーと同じ顔を持つ存在が敵なのだ。色々と不安もあるんだけど……いや、考えを改めなければならないか。

 あの『リリー』は、明瞭な敵。いくつもの世界を滅してきた存在であり、もはや闇そのものと断言していい。


 昨夜彼女は昔話を語るように、闇を手にした経緯を語った。記憶は保持している。けれどおそらく、心優しく顔も知らない夫に愛されていたリリーテアルは、消えているのだ。俺達の目の前に姿を現したのは、リリーという器を持った闇だけ。

 俺は自分に思考を切り替えろと告げる……そこでリリーを見た。彼女は前を向いて歩いている。その姿に迷いは皆無だった。


「……あの『リリー』に一言くれてやるのか?」


 なんとなくそういう疑問を投げかけた。すると、


「うん、そうだね」


 明瞭な返答が来た。なるほど、だから迷いのない表情をしているのか。


「昨日、彼女は全てを語った。なら私も……思いの丈を、しっかりとぶつけなければいけない。そう思っただけ」

「そういうことか……なら存分にやれとしか言いようがないな」

「ま、それで改心してくれるなんて思わないけど……私も、きちんと言いたいことは言わないと」


 その言葉に、負の感情はまったくない。真正面から自分自身と向き合う。その覚悟は、完璧にできているようだった。


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