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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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滅ぼすために

 都には当然のように平行世界の自分がいるはずだった。しかし、今回の世界にその姿がなかったため、リリーは戸惑いながらも情報を集める。その結果、旅をしていることがわかった。

 これまでにないほどの劇的な変化だった。どういうことなのかと首を傾げながら探し始め――とうとう出会った。剣を握り、自由奔放に生きる自分自身の姿を。


 その中で、異世界から召喚された少年と遭遇し、彼と共に旅をする姿を見た。そして同時に、今までにないほどの憎悪が、胸の内からわき上がった。

 それは、どういう理屈で生まれるものなのかリリーには理解できなかった。ただひたすらに憎かった。それは自分が持っていないものを所持しているからなのか。あるいは自分の理想に出会ったからなのか。


 色々と考えた末に、とうとうリリーは認めることになった。そうだ、剣を握り、戦う姿――そんな存在に憧れていた。自分には何もない。皇女という身分しかない。

 今まではただ幸せな姿を見て、憎しみを抱いていた。だが今回は違う。この世界の自分は自らの力によって、未来を切り開ける。力を高め、強くなり、色々と人から、様々な種族から認められる存在となる。


 そんな姿が、たまらなく憎かった。今までの自分とは違う。与えられるだけの幸せではなく、自分自身が思うがままに進んでいける。

 ああ、そうだ――リリーは自覚する。自分は、このリリーを滅ぼすために、ここまで来たのだ。


 そう自覚した直後、憎悪は際限なく膨らみ、それはやがて闇そのものとなって世界に襲い掛かる。『闇の王』を利用した一派との戦い。けれど彼女は臆することなど一切なかった。戦いの中で兄弟が倒れ、最終的に皇帝に即位した。それは他ならぬ闇を抱える自分自身によって生まれた結果。だがそれ以外でも――剣を握り戦う道を選んだからこそ、玉座に座ることができたのだ。


 世界を滅ぼせば、それも全て消える。だからリリーは襲い掛かった。しかし敵である自分自身は前線に立ち続けた。隣には異世界からやって来た人間。彼と共に自分と戦う姿は――妬みと同時に、羨望のような感情を抱いた。

 やはりこうして戦う姿こそ、自分が追い求めていたものかもしれない――心のどこかでそんなことを思いながらも、全てを否定するべくリリーは闇と一つになる。最終的に異世界からやって来た人間を送還した自分自身は、多数の犠牲を伴いながらも闇と一つになったリリーに迫った。そして一撃を加えた時――






「そうね、私はあの時、しかと一撃もらった。けれど、刃は私を完全に潰すには至らなかった」


 俺達の目の前にいる『リリー』はそう告げた。


「結果、私はあなたのいた世界を潰すことができた……そうして再び平行世界へと移動を果たした。あなたはまた剣を握り旅をしていた。だから同じように……今までと同じように滅ぼしてやろうと考えた。けれど、送還されていた異世界からの人間が舞い戻ってきていた」


 俺のことだ……結局のところ、俺達が『前回』守ろうとしていた世界は、消え失せてしまっているというわけか。

 しかし、俺という存在が突破口となり、今こうして『リリー』を追い詰めることができている。


「……そうまでして、なぜ」


 リリーが自分自身に問い掛ける。理由を尋ねているわけだが、それが無意味であることを俺は心のどこかで理解していた。


「理由……ね。私は既に『闇の王』に取り込まれている。そうである以上、まともな理由を語るのは難しいわよ」

「結局全て、闇のせいにするということ?」

「少なくとも最初は、私の意思で世界を壊したわけじゃない……ただ理不尽に巻き込まれた結果。そこから先も、果たして自分の考えなのかよくわからないのよ。闇を完全に取り払ってしまえば、自分の罪の重さを自覚して死を選択するかもしれない」

「……そう」


 リリーは短く返事をする。


「少なくとも『闇の王』を取り込むことが、どれだけ危険なのか……身をもって証明してくれているわけだね」

「ええ、そうよ……今回私としては、とにかく誤算だった。この妖精郷を根城にしていたことも災いした。情報を得るのが、とにかく遅かった。闇の力を与えた者が、突如消え失せている……それが判明したのは、あなた達が行動を起こしたずいぶん後だった。慌ててどうすべきか情報を集め……どうやら私のことを知っていると推測した」


 一度『リリー』は俺達のことを見据える。怒りも悲しみも嫉妬もなく、ただ俺達の姿を観察している。


「最終的にこの場所に辿り着くのは難しいと判断して、しばらくこもることにした。けれどあなた達はやって来た。異世界から来た人間を伴っていることから、すぐに察した。あなたは『前回』の記憶を持っている」

「そうだね」


 剣を抜き放とうとしているのか、殺気が滲み出る。ここでリリーとしては決着を付けるつもりなのか。


「ふふ、恨みがあるのは理解できるわ……さて、ここで一つ疑問が生じるわね? なぜ異世界からの人物が私と同じ世界へやってこれたのか」


 確かに、俺という存在がなぜこの平行世界――しかも『闇の王』が顕現したのと同じ世界へ辿り着いているのか。


「まあこれは、そう難しい話でもないわ。単に私とあなたに縁ができてしまい、私がいる世界へやってきた……そういうことなんでしょうね」

「そうか……どういう理屈にせよ、俺がいたから全てを終わらせることができるってことだ」

「ええ、そこは認めるわ……さて、ずいぶんと長話をしてしまったからそろそろ消えるとしましょう」

「……待ちなさい。もう一つだけ」


 リリーが自分へと、口を開く。


「もし私を殺したら、隣の世界へ行くのかしら?」

「そうね。一つの目標が達成できたなら、後は淡々と次の世界であなたを探す……同じように剣を振るっていたら、同様に潰す。異世界からの救援がなければ、いくらあなたでも対応はできないでしょう?」

「なら、この戦いで決着を付ける」


 リリーが明言する。それを聞いて『リリー』は、


「もちろんよ。今のあなたは私にとって特別な存在となった。二度目もこの私があなたを滅ぼす」


 次の瞬間、俺達の目の前から『リリー』は消え去った。残ったのは穏やかな夜の世界。風が吹き抜け、俺達の体を撫でる。

 その間、リリーは一言も発しなかったが……やがてこちらへ首を向けると「戻ろう」と一言告げ、彼女は淡々と歩き始めた。


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