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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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復讐と嫉妬

 まさしく衝撃的な遭遇から、俺達は妖精郷の中央に戻った。ただ余波から屋敷で体を休める段階になっても、まだ混乱している有様だった。

 一番精神的なダメージがでかかったのは、間違いなくリリーだろうけど……話を聞こうかと部屋をノックしてみたが、いなかった。外に出ているのか?


「あ、レイト」


 そこでクレアの声。見れば廊下を歩む姿が。


「リリーなら外で空を見てるわよ」

「……さすがに堪えたか」

「相手が自分自身だったからね……ただ、リリーの場合は衝撃的すぎて頭の中が整理できていないって感じだろうけど」


 俺へ返答した後、クレアはこちらの顔を覗き込むように、


「励ましに行くの?」

「どう考えているのか、尋ねるべきだと思ったんだよ……行ってくる」


 屋敷の外へ。時刻は夜で、妖精達が夜通し警戒をしているようだが、非常に穏やかな夜だった。

 肝心のリリーについてだが……すぐに見つけることができた。草むらに座り込んで星を見上げている。近寄ってみると足音で気付いたらしく、


「ん……レイトか……」

「調子はどうだ?」

「体調は問題ないよ。ま、レイトが懸念している通り、精神的に参っているけど」


 苦笑しながら彼女は応じる。


「仮面の奥にあった素顔を見た瞬間から、どうして彼女はああなったのか……気になって仕方がなくて」

「……その前に、一つ聞きたいことがある。リリーとしては、あの存在をどう捉えている?」

「彼女が目の前に現われたことにより、おぼろげに状況を理解することができるよね」


 リリーはそう返答。次いで、俺へ回答を提示する。


「彼女は初めましてと、この世界の私と告げていた……あのリリーは闇の力を得て、私達にとって『前回』生じた戦い……あれを、幾多の世界で行っているってこと」

「つまり俺達が元いた世界は、もう彼女の手によって滅んだ、と」

「そういうこと。なぜそんなことを、という理由についてはわからないから省くとして、そんなことができるってことは、闇の力により平行世界を行き来できるようになっているということかな」

「だとすれば、次元に干渉してなんて技法を操れてもおかしくはない……やれやれ、本当に面倒な敵だ」

「うん……そして、私達についてだけど……本当なら、記憶なんて戻らないはずだった。そして『前回』と同じように闇によって蹂躙される未来が待っていた」

「けれど、俺がいた……」

「そう。レイトはきっと、特別な存在……私達の世界とはかけ離れた場所にいる存在だからこそ、私達に記憶を戻すことができた」

「俺のことは、当然把握しているよな……」

「私達がここを訪れたのは、レイトの存在によるものだ、というのは気付いているだろうね。加え、私達には『前回』の記憶があるというのも、会話から認識できているわけで」

「だとするなら、次は厳しい戦いになるな」


 呟きながら考える。リリーの語るように数多の平行世界へ移動し、世界を滅ぼしている……けれど、唯一俺だけがそれに抗う術を持っていた。

 結果的に、俺が『前回』の最終決戦の際に戻されていたから、今回の戦いは敵の正体まで判明できたと言えなくもない。まあ唐突に送還されたことは根に持っているけれど……俺達の現状は決して悪くない。犠牲など出すことなく、戦いを終わらせることができるかもしれないから。


「……ここからは、私の勝手な推測。でも、相手は私だから……なんとなく、わかる」


 リリーは続きを語る。


「化粧をしていたことからもたぶん、あのリリーは私とは考え方なんかも違う……もしかすると私が皇女らしく……剣など握らない選択をしたのかもしれない」

「破天荒な皇女様ではなく、誰からも認められる皇女、ってところかな」

「そういうこと。けれど、彼女は闇を手にした……きっとそれは望んだものではなかったはず。偶発的かもしれない。その中で、闇に心を侵食されて……そんな感じかなと」


 空を見上げながら彼女はなおも続ける。


「そして闇で世界を滅ぼすのは、きっと復讐……それと、嫉妬とかかもしれない」

「復讐と、嫉妬? 復讐は、なんというか想像できるけど……嫉妬というのは?」

「まず復讐は、世界に対する復讐。彼女は何の因果か力を得てしまった。そうしたことをしでかした者達は既に滅ぼした……だから、こんな技術を作ってしまった世界を憎んでいる。そこに『闇の王』が持つ破壊願望が混ざり合い、平行世界を標的にしている。そして嫉妬だけど……なんとなく、考えた。もし私が、平行世界の先で求めていたものを手にしていたら、どう思うのだろうか、って」

「求めていた……力、か?」

「そうだね。私は力が欲しくて旅をしていた。それは正解の道かどうかもわからないけれど……それこそ、私がやるべきことだと思っていた。でもね、もし平行世界で望んだ力を得ていたのなら……私は間違いなく、嫉妬している。その感情により、彼女は闇の力を振るうのではないか……なんというか、身も蓋もない言い方をすると、これは世界に対する復讐であり、私に対する復讐なのかもしれない」

「自分自身に対する……」

「そう。別のリリーテアルに対する復讐……笑ってしまうような話だけど」


 確かに、荒唐無稽に思ってしまうかもしれない……また『闇の王』を手にしたあちらのリリーに対し考察するのは馬鹿げているのかもしれない。だが決して、的外れの答えではないように思える。


「……彼女に、同情したりはするか?」


 なんとなく疑問を寄せる。それにリリーは首を左右に振り、


「まさか。どんな理不尽であれ、世界を壊すようなことは許されてはいけない……そして彼女はここに来るまでに多数の世界を壊している。容赦はできないし、この場所で決着を付けないといけない」

「……そうだな」

「でもね、同時に思う……もし、自分が『闇の王』の力に触れる機会があったら……世界を破滅させるような力だと知らなかったら、私はもしかすると自分の意思で闇に触れていたかもしれない……あれはきっと、私がなっていたかもしれない未来だ」

「でも、そうはなっていない」


 俺はリリーへ告げる。思いの外力強い言葉だったせいなのか、リリーはキョトンとなる。


「後ろ暗い道だけは、絶対にリリーは歩まなかった……仮面を被る彼女とは、違う」

「……そう、だね。そうだったら、いいね」


 リリーは微笑する。その表情は、どことなく弱々しく見えた。


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