歴戦の戦士
その後、俺達は依頼の指定場所へと足を向ける。旅程としては数日。特に障害もなく、俺達は森へと到着した……のだが、
「改めて見ると、壮観だな」
そんな呟きが口から自然と漏れる。その理由は人の多さ……しかもそれらが例外なく、猛者達であるためだ。
「以前は緊張で周りが見えていなかったらわからなかったけど、相当な使い手ばかりがいるな」
顔を知っているわけではないが、体にまとう魔力の濃さによって誰もが相当な力を持つ戦士であることがわかる。
「逆を言うと、これだけの面子が集まって多大な犠牲者が出たのか……あの魔物は無茶苦茶な強さだったというわけだな」
ここで俺はリリーへ視線を送る。何やらブツブツ言っているので耳を澄ませてみると、
「……雷光の剣士、竜の槍、白の魔術師。それに原野の英雄……」
「おーい、リリー。どうした?」
声を掛けてみると彼女はこちらを向き、
「ああごめん。異名を持っている人がどのくらいいるのかを確認していたんだけど」
「異名……リリーがわかる範囲でも結構いるのか」
「そうね。ちなみに私の異名は知ってたっけ?」
「暁の女剣士だろ? 知ってるよ」
本人はあんまり言いたがらなかったのも憶えている。
「そうそうたる面々、ということだな」
「そうだねー。これだけの人達が一堂に会するなんて、『闇の王』との総力戦以外にはなかったし」
「あれは集ったというより、集まらなければどうにもならなかったから結束したって感じだからなあ」
返答しながら俺は冒険者や傭兵以外に目を向ける。他にも国へ依頼したのか、騎士や兵士の姿もある。
「……そういえばリリー、国の騎士や兵士とかは大丈夫なのか? バレないのか?」
帝国の騎士なのだが……そう思っていると彼女は胸を張り、
「大丈夫大丈夫。国の騎士といっても帝都にいる騎士団……つまり近衛騎士団でもなければ私の顔は知らないし」
そう言いながら彼女はパッと騎士団を見回し、
「けど、なかなか強いね。さすがに冒険者面子と比べれば見劣りするけど」
「どういった騎士団なのかリリーは知っているのか?」
「所属は胸元の印章を見ればわかるよ。あそこにいるのはこの地方における精鋭部隊」
ほお、なるほど。国側も『森の王』からの依頼というわけで、精鋭を用意したわけか。
「そして、エルフ側も……」
俺は森の入口へ視線を移す。そこに弓や剣で武装するエルフの面々がいた。
――元の世界におけるエルフは小説とか漫画とかで色々設定が違っていたりもするのだが、この世界におけるエルフの特徴としては人間と同じ身長かつ、耳が尖っているところ。ちなみに髪は金髪以外にも黒や茶髪など多種多様だ。
そうした中で、俺は特に目立つ存在を発見。ここへやってきた人々をまとめるために動き回るエルフの中に、厳しい表情で周囲を見回す存在が。
ジェファ=ロウセン――金髪碧眼に加え絵に描いたような美形の男性エルフ。肩に掛かる程度まで髪が伸びていることもあってどこか中性的な印象すら与えてくるエルフではあるが、その実力はこの場にいる歴戦の戦士達と比べても遜色ない……いや、それどころか俺やリリーを除けば最強まであるかもしれない。
なおかつ、周囲にいるエルフ達……つまり彼の部下だが、確か『森の王』に仕える最精鋭の部隊だったはず。エルフは人間と異なり魔法を使う者もいるけど、俺のようにありとあらゆる魔法を自在というレベルまでに達している存在は『森の王』くらいしかいない。ただし並ならぬ力を持っていることは相違なく、特に秀でた者達を選抜魔法戦士団として編成しているのだ。
「相当な戦力が結集しているのは事実だな」
ジェファを見据えながら俺は小さく呟く。
「ただ、一つ疑問があるんだけど」
「どうしたの?」
「騎士やエルフが精鋭を引き連れてくるのはまあわかるよ。今回のことを相当重く見ているんだなと理解はできる……ただ、異名を持つ冒険者達が多いってことは納得がいかない。それこそ誰かが手引きしたくらいじゃないと――」
「それは俺だよ」
聞き慣れない男性の声が聞こえてきた。俺とリリーが同時に横へ首を向けると、こちらに歩み寄ってくる長身の男性が。
「よおリリー、久しぶりだな」
どうやらリリーの顔を見て挨拶をしに来たらしい――髪は短くて黒く上背は俺を越え、なおかつ剣を背負い全身を鎧で固めた二十代後半ばくらいの男性剣士だ。顔つきは「厳つい」とまではいかないがなかなか圧を与えてくる。顔にいくらか刀傷があるのも、そうした印象を増幅させている。
「あれ、今回は仲間と一緒か?」
「うん。久しぶり、イルバド」
イルバド――その名は聞いたことがあった。というか帝国内では有名人であり、帝国中枢の者達でさえ一目置くような存在だった。
本名はイルバド=アルガス。活動を開始してからおよそ十数年ほどだが、その間ずっと冒険者のトップをひた走る、まさしく冒険者最強の剣士。
「さっきの質問だが、エルフの話を聞いて俺が人を集めたんだよ」
そして俺の呟きに対し律儀に答えるイルバド。
「リリーは誘ってなかったが、偶然見つけてここに来たのか?」
「依頼料が結構良かったからね」
「そうか。リリーならわかると思うが相当なメンバーがここにいる。仕事はもうもらったようなもんだ。ま、頑張ろうぜ」
ニカッと一度笑ってから彼は立ち去る……ふむ、
「あの人クラスになると『森の王』とも話をしたことがありそうだよな」
「実際あったはず。私は聞いたことがある」
となると『森の王』の危機に対し準備をしたってことか……しかし彼も、あれだけ被害が出るとは思わなかっただろうな。
「ちなみにリリー、『前回』の戦いでイルバドって人がどうなったのかは知っているか?」
「この戦いで少ない生存者であることは知ってるけど、以降の足跡は知らないよ。『闇の王』との戦いにも加わらなかったし……もし生きていれば私達の戦いにはせ参じていたはずだし、どこかのタイミングで闇に飲み込まれたんじゃない?」
最終決戦の時にいなかったからな。
「ともかく、この場所にいる者達を全員生存させることが目的……頑張らないといけないな」
「そうだね」
「リリー、本命の魔物は任せるからな」
「了解」
返事の後、ジェファから号令が掛かった。いよいよ仕事の始まりらしい。
先へ森へと入っていくのはエルフ達。案内役も兼ねていると予想できる。次いで帝国の騎士団。魔術師など物々しい様相を呈しており、今回の戦いが大変なものであると予想しているようだ。
そして最後尾にイルバドを中心として猛者達が……後方を守るという形だろうか。
俺達も彼らに追随する形で森へと歩む。後ろにいた方がたぶん動きやすいと思うので、ひとまずこれでいい。
「俺は全体を見て戦況を探るから、リリーはもしもの場合、前線を頼むぞ」
「任せて」
打ち合わせを行いながら俺達は進む……異世界に再訪してまだ数日だが、早速山場の戦いを迎えようとしていた。




