妖精との計略
ついに目の当たりにした『仮面の女』を見据えながら……俺の魔法は真っ直ぐ闇の柱へと突き刺さる。途端、響き渡る轟音。光が一時闇を飲み込もうとするが……それ以上に闇が噴出し、光を逆に飲み込もうとする。
目の前に存在するのは紛れもない『闇の王』……問題は『仮面の女』が操っているのかどうか。もし多少なりとも使役しているのであれば、闇の力がこちらへ牙をむいてもおかしくはない。
とはいえ、向こうはまだ仕掛けてこない。ならば、今のうちにやれるだけのことはやっておく……! 俺は飲まれそうになる光を見据え、さらに魔力を高め、光を放つ。それが闇に着弾すると、広がりを見せて滅ぼそうとする。
闇は魔力が減っているにしろ健在……俺の魔法をいくつも叩き込んだが耐えている。この時点でどれほどの存在なのかは認識できる。
加え『仮面の女』は……俺の魔法によって飲み込まれたりするのだが、超然と黒い柱に立っている。悠長にしているのか、それとも幻術か何かでわざと見せているのか……仮にそうだとしたら計略の可能性もあるが。
「レイト、いける?」
魔法を叩き込んでも滅びない闇を見据え、リリーが問い掛けてくる。
「魔力は問題ない……が、これだけ魔法を使っても消えないんだ。内に抱える魔力量は甚大だな」
「私達にできることは……」
「攻撃に集中するため、援護を」
先ほどと同じ説明を行った後、
「加えて『仮面の女』の監視を頼む」
「わかった」
「いまだに動いていないのが不気味ね」
クレアが感想を述べる。確かに超然としている姿は、俺達に対しどういう感想を抱いているのか。
「闇を顕現させた以上、俺達に敵意を抱いているのは事実だろう。邪魔をする存在……そういう認識でいる」
「だとしても、やり方が容赦ないわね」
「ここでどれだけ暴れても、目撃した妖精達を全員始末すれば問題ない……って考えなのかもしれない」
できれば『仮面の女』を引きずり下ろしたいところだが……考えている間に突如黒い柱が膨張する。それはおそらく攻撃する所作。直後、闇が爆ぜて黒い炎が飛来する。
それをリリー達は先ほどと同じように迎撃する。魔力が少なくなり始めているせいなのか、威力についてはさっきよりも低い……といってもほんの少しではあるが。
黒い柱は地面に根付いた大樹のようにも見えるが、地面から魔力を吸収しようとはしていない様子。これは妖精達が妨害しているのかもしれないが……ともかく、削り続ければいつか滅び去るのは間違いない。
ただしここまでの戦いから、削り勝負となったら俺達の方が明らかに不利だろう。黒い柱は膨大な魔力を抱えている。それを一介の人間が――ただ俺の魔法はしっかりと効いている。もっとも俺の魔力量がもつのかは疑問ではあるのだが。
「……小細工は通用しない。正面突破しかないか」
「あれだけ巨大な存在です。無茶もいいところですけどね」
アゼルが述べる。まったくもってその通りだが、それでも勝つにはやるしかない。
ただ、他に援護が来ることがないのはかなり辛いが……エリテ達妖精達が手を貸してくれる可能性もあるが、果たして戦力になるかどうか。
黒い炎を全て迎撃した後、俺は再び魔法を行使。さらなる光が黒い柱を襲う……のだが、それでも破壊には至らない。魔力は確実に減っている。とはいえこれではこちらが消耗する方が先か――
「レイト」
リリーの声。見れば『仮面の女』の姿が消えていた。いや、これは、
「飛び降りたのか?」
「そうだね」
観察すると、黒い柱の根元にその人物はいた。先ほどの魔法が多少なりとも当たったはずなのだが、素知らぬ様子を見せ、闇を見上げている。
「何かしているのか……?」
俺は呟きながら少し方針を変更。黒い柱へ向かって魔法を放つのは同じだが、その狙いは根元……『仮面の女』を合わせて狙ってみる。
先ほどから繰り出している魔法を、俺は放つ……とはいえここまで幾度となく魔法に巻き込んできた。これが通用するとは思えないのだが――
光の塊が吸い込まれ、妖精郷の地面近くで爆ぜた。凄まじい轟音と振動。地面から発生する地鳴りを耳にしながら注視すると……魔法を直撃していながら平然と佇む『仮面の女』の姿があった。
「効いていない……というより、何らかの手段で回避していると解釈するのが妥当だな」
「もっと近づかないと、何をしているのかはわからないね」
リリーは剣を構えながら応じる。俺は小さく頷き同意しながら、続けざまに魔法を放った。
それが再び亜闇に直撃するわけだが……このままジリ貧だろうか? 目を細め次の一手を考えるべきかと思案しかけた時、ふいに気配がした。
それは黒い柱からではない。後方から。
「……凄まじいですね」
エリテだった。彼女は全てを理解しているように、
「根元にいる『仮面の女』についてはこちらが観察します。よって、皆さんはあの闇の塊に注力していただければ」
「それはありがたいですが……現状では俺以外に攻撃できる人間もいません」
「なるほど……では、妖精達が動くべきでしょうか」
「……どのように?」
問い掛けるとエリテは簡潔に説明をした。なるほど、それなら――
「そちらの方が効率よさそうね」
クレアが賛同。リリーやアゼルもまた、頷いている。そして俺も、
「俺達四人だけでは対処が難しいですし、ここは妖精達が動く方が良いかと。リリー達は……引き続き『仮面の女』の監視で良いかな」
「うん、それが無難だね」
「わかりました。すぐに準備をします。皆様はここで待機を――」
エリテが言い終えぬうちに、黒い柱から魔力を感じ取る。どうやら悠長にする暇はないらしい。
「私が来たことにより、変化が起きたのでしょうか……」
「その可能性が高そうですね……あなたはどうしますか?」
「一度ここを離脱します。時間稼ぎは――」
「無論、俺達が」
エリテは一度申し訳なさそうな顔をした……その後、
「すぐに準備を始めます。ご武運を」
エリテが立ち去る。それと同時に闇の炎が俺達へ向かってくる。
「まずは、耐えることだな」
そう言いながら俺は魔法を行使。リリー達は炎を迎撃するべく武器を構え――双方の魔力が、激突した。




