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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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漆黒の存在

 葬儀の後、エリテはこれまで以上に精力的に活動を始めた。死因が不明であるため、何者かが管理者を殺めたかもしれない……そんな可能性を危惧したため、警備などをさらに厳重にやることとなった。

 最初、俺達の存在に言及した妖精もいたらしいのだが、他ならぬエリテが説得した。そもそも俺達は秋の領域を訪れていない。その事実については多数の妖精が証言したので俺達は関係がない。もっと別の存在がいる……そういう結論に至ったようだ。


 彼女の行動から考えても、エリテ自身が『仮面の女』と協力関係である可能性はかなり低いと考えてよさそうだ。

 ある意味では俺達の活動について認められたことにもなるので、今後捜索活動はやりやすくなった……と思うのだが、ここで一つ問題が。


「……冬の管理者が同意しない?」


 中央にあるエリテの屋敷で、彼女に呼ばれ話をする。その内容が、先のものだった。


「はい。葬儀によりバタバタしたこともあり、少し時間をくれと」

「……どう思うんですか?」


 俺の問い掛けにエリテは沈黙した後、


「怪しい者がいないかなどの調査の必要性はきちんと説明しています。しかし彼女は時間をくれと言った……ひいき目に見ても、怪しいと感じています」

「強引に調査に入ることは?」

「可能ですが、私としては他の妖精達のことが気掛かりです。ここで私の権限により強引に行動を起こせば、冬の領域に暮らす者達から反発があるでしょう」


 なるほど……とはいえ怪しい行動なのは間違いないので、


「出入りについてはしっかり観察していますので、もし『仮面の女』がいても大丈夫だとは思います」

「それならいいですが……しばらくは交渉ですか?」

「はい、そうなりますね」

「もし『仮面の女』と繋がっているとして」


 リリーが口元に手を当て、話し始める。


「何かするとしたら……隠蔽工作かな?」

「だと思います。ただ『仮面の女』がいるとするなら、正直現状で脱出させることは難しいと思うのですが」

「もしかすると当事者は不在で『闇の王』を研究していた場所でもあるのかもしれない」


 俺の指摘。エリテは「なるほど」と同意し、


「しかし、そうなるとかなりまずいことになるかもしれませんね。冬の管理者が強引に証拠を隠滅しようとして、暴走……となったら、目も当てられない事態となる」

「そこまでの愚は犯さないと思いますが……」

「人と同様、追い込まれればどうなるかわかりません」


 ぴしゃりとエリテは答えた。彼女としても懸念を抱いているようだ。

 仮に暴走させたらどうなってしまうのか……さすがに『前回』のような顕現には至らないと思う。とはいえ妖精郷を飲み込むような規模に発展する可能性はゼロではないため、もしそうなった場合でもすぐに対応できる準備をしておかなければならないな。


「……もしもの場合に備え、俺達は用意をしておきます」


 その言葉にエリテは「お願いします」と告げ、話し合いは終了した。


「今の妖精郷にいないかもしれないよね」


 エリテが去ってからリリーが口を開く。俺は首肯し、


「そうだな……けど、それはそれで好機ではある。研究内容を破壊することが可能だからな」

「もしそれを実行したら……」

「可能性の一つだけど、『前回』のような悲劇を生まずに済むかもしれない」


 全員の表情が引き締まる。悲劇を生まない結果となるのか……それがいよいよ決しようとしているのかもしれない。


「ただ、俺達はあくまで『仮面の女』がいるという前提を行動していくからな、石橋を叩いて慎重かつ、絶対に逃がさないように……こうやってトラブルが生じたということは、敵側にも何かしら動きがあると考えていい。こういう時こそ、こちらは冷静にならないと」

「そうだね」

「できることを粛々とやるのが一番ですね」


 リリーとアゼルが相次いで同意する。そしてクレアが、


「そうね……じゃあ今から何をする?」

「冬の領域以外について、もう少し調べてみようか。特に秋の領域……葬儀の間とかに調べはしたけど、夏の領域と比べて綿密に、とはいっていない」

「なるほど、そうね……ただ、誰に許可を取ればいいのかしら?」

「この話し合いが始まるより前に『樹の王』から許可はもらっている」

「お、それなら問題はないか。それじゃあ行くとしましょうか」


 クレアの言葉に頷き、俺が歩き始めようとした――その時だった。

 ズグン。形容するならそういう音。何か……妖精郷では聞き慣れないような重い音が、俺の耳に入ってきた。


「何だ……?」


 明らかにおかしい気配。リリー達も気付いた様子で周囲を見回し始める。


「レイト、今のは――」

「どうやら異変があったみたいだな……どうする?」

「報告を聞いて動くかどうか――」

「二人とも」


 クレアが何かに気付いた。彼女は窓の外を指差す。視線を転じると――


「……あれは」

「まずいのでは?」


 アゼルが呟く。それと同時、俺達は走り出す。

 その道中でエリテと遭遇。彼女はすぐさま、


「私はすぐに準備をして向かいます! 皆様は――」

「急行します! しかし許可は――」

「通れるように指示は出しておきます!」


 ならば、問題はない……俺達は全速力で屋敷の外へ。

 中央の領域から、冬の領域が存在する場所へ目を向ける。そこに、黒い柱のようなものが出現していた。


「大当たり、みたいね」


 クレアが声を発しながら一度ブルッと震える。武者震いというやつだろう。

 リリーやアゼルは黒を見据え息を飲む。ここへ来た理由が目の前に現われたわけだが……こんな形とは予想していなかったし、さらに言えば頭のどこかでこう思っていたかもしれない――調べても成果が上がらなかった。よって、ここに手がかりなどは存在しないのではないか。


 しかし、それらを覆して現われた。あの黒い柱は間違いなく『闇の王』だ。もっとも、俺達が目の当たりにした絶望ではない。その大きさは、小さいかもしれない。


「……冬の管理者が暴走させたのか、あるいは『仮面の女』が何かをしでかしたのか」


 俺は声を発しながら、目前に現われた脅威を見据え続ける。


「だが、確実に言えるのは……ついに見つけた。絶望の未来を変えることが、これでできる――」


 俺達は一斉に走り出す。目指すは冬の領域。今度こそ、未来を救うために。


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