王の決断
俺達が警戒を強める間に、秋の管理者に対する葬儀が行われた。死因などは不明のままであるため非常に不気味だが、一つの季節を背負い居続けた存在だ。誰もがその死を悼み、妖精郷は静寂に包まれる。
その中で俺達だけが注意している……見張りを行っている妖精については一応任務にあたっているけど、管理者が亡くなったことで動揺はしているはず。何かあったとしても気付かない可能性だってあるし、俺達が気張らないといけない。
ただ、使い魔などを用いて周囲を探ってはみるものの、変化というのは皆無だった。
これが『仮面の女』の仕業であったとしたら、もしかして他の場所に潜伏している状況を誤魔化すためにこのような行動を……? そんな可能性も垣間見られる。まあどちらにせよ秋の領域について警戒を強めることは明白なので、相手にとってみれば悪手だと思うのだが。
ちなみに俺達はエリテの許可を得て秋の領域に踏み込んで行動もしている。気配を探った結果から言えば怪しい場所などはなかったのだが……こうなると冬の領域? ただ、ここで疑問が生じる。
「仮に冬の領域に『仮面の女』がいるとして、秋の管理者を殺めた……こうなると秋の管理者は関係ないって話になるけど、それで何一つ情報が出てこないのは変だ」
葬儀を遠巻きに見ながら俺は考察する。
「冬から秋へ訪れた者がいるのなら……しかもそれが妖精ではない存在とくれば、何かしら痕跡が残ってもおかしくないはず。そもそも妖精達だって怪しい存在は見ていないらしいし」
「考えられる可能性は……」
リリーは腕組みをしながら言及する。さらに地面に落ちる木の葉を眺めながら、
「一つは秋と冬が共謀する形で『仮面の女』を匿っていて、何かしらトラブルが生じ秋の管理者を殺した」
「……トラブルか。その原因俺達じゃないか? 『前回』においてこんな騒動は存在しなかったみたいだし」
「それに、今ここで行動を起こすのは悪手ですよね」
と、リリーの意見に対しアゼルが考察する。
「僕達は管理者同士が手を組んでいるという可能性は低いと考えていました。政争的なものがあると『樹の王』から言われていましたし、力を得て妖精郷全体を統括する管理者になりたければ、単独で匿っているだろうと推察していたわけですから」
うん、確かに。失念していたというより考慮には入れていなかったな。
「この状態であれば、私達の調査を容易にすり抜けることができます。秋の領域を調査する間は冬の領域に閉じこもり、冬を調査するなら秋へ……と移動することができるためです。それをあえて崩してこんな騒動を起こすというのは『仮面の女』としてはメリットがない」
「私達の目から逃れようとするだけなら、今回の騒動は変よね」
クレアもアゼルの意見に賛同する様子だ。
「むしろ騒動を拡大させたと言えるわ。私達が来訪して調査をしている……これだけなら私達を悪者にするとか、あるいは『樹の王』の権威を落とす方向に話をもっていくこともできたはずよ。政争という意味ならそれがベスト……でも、秋の管理者が亡くなった。これで火種が妖精郷全体に広がり妖精達に対しても警戒心を強めてしまった」
「……支離滅裂な行動に見えるのは確かだ」
クレアに続くように、俺は口を開く。
「ただ、絶対に『仮面の女』の仕業だと断言できるわけでもない……それとは関係なく俺達が来訪したことが呼び水となって……例えば秋と冬の管理者が小競り合いを始め、結果として片方が倒れた……なんて可能性もある」
「うーん、難しいなあ」
リリーが渋い顔をする。そんな態度に俺は、
「とにかく情報が少ない。加え、妖精郷そのものを把握できているわけでもない……わかっていることはこの場所が最初に『闇の王』顕現したことだけだ。調査が実を結ぶかどうかはわからないが……粛々と調べるしかない」
「秋にもいなかったし、そうすると冬で確定かしら?」
クレアの疑問に俺は「わからない」と答え、
「場合によっては、調査方法を改めないといけないかもしれないな……もし冬でも見つからなければ、俺達や『樹の王』の力を欺くだけの何かを持っているわけだから」
「僕らは引き続き警戒ですね」
アゼルの言葉に俺は首肯。
「ただ、こうなると冬の領域を調査できるのは当面先になるかもしれないけど」
「その間は冬の領域以外を強く警戒、ですか。冬の領域周辺を特に注意すると」
「俺達の調査の目を誤魔化している可能性もゼロではないから、他の季節も警戒だな。仕事量が多くなるわけだが、そこは頑張らないといけない」
「本当に大変ねえ」
「他人事みたいに言っているけど、クレアもやるんだからな?」
「わかっているわよ」
果たして敵はどのように動くのか……とにかく今は妖精達が動けない状況なので、俺達がどうにかしなければ。
やがて葬儀も一段落つき、エリテが俺達の所へやってくる。
「皆様、警護ありがとうございます……私は調べることができていなかったのですが、どうでしたか?」
「秋の領域については、それらしい場所はありませんでした……今回のこと、どう思いますか?」
「管理者が自殺するような真似はしないでしょう。かといって状況的に事故とも考えにくい。ただ、他殺となる場合……管理者を殺めることができる存在は限られます」
「他の季節の管理者か、この妖精郷に入り込んだ部外者か」
俺の指摘にエリテは小さく頷いた。
「現在、管理者が亡くなったことで指揮系統なども混乱していますが、調査をする理由もできた……秋の管理者に不審な点があったのかなど調査すべきという流れにして、妖精郷全体をもう一度調査しましょう」
「そこに俺達の出番は?」
「あなた方を疑う意見が出るかもしれませんが、アリバイなども成立していますので問題になることはないと思います。よって、帯同という形に」
少なからずトラブルになりそうな気配もあるが……現状夏の管理者であるジェーンはエリテの意向に従う様子だし、反対意見を述べるとすれば冬の管理者……意見が対立した場合に多数決をとるなら有利だし、少し強引でも押し通すという気持ちなのかもしれない。
「皆様がご納得いただけるような形にしてみせます。少しだけ時間をください」
エリテの言葉に俺達は頷く……彼女としても切羽詰まっているということか。なら、信じて待とう……そう心の中で思った。
 




