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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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皇帝と英雄

 夏の領域の管理者であるジェーンと俺達は別れ、一度中央へ戻ることにした。結界を通り抜けた直後、俺達は涼しい空間に息をついた。


「汗を流したいわね」

「そう言うだろうと思いまして、屋敷で湯浴みの準備をしてあります」


 エリテからの言葉に俺は心底ありがたいと思った。


 さて、俺達はエリテの屋敷へ戻ったのだがその時点で時間は夕刻。さすがにこれ以上の調査は明日以降ということで、俺達は湯浴みをして休むことにする。

 とはいえ、男女混浴というわけにもいかないのでくじでどちらが先に入るか決めることにする。結果は、女性陣がまず入ることに。


「明日は秋や冬ですか」


 と、アゼルが呟く。二人揃って部屋で待つことになった。


「問題は、もし手がかりを見つけられなかったら――」

「妖精の力まで借りているんだ。何としても情報を手に入れる……しかないよな」


 少なくともこの場所で『闇の王』が顕現した以上、ここには何かがある。


「俺達だけが世界の崩壊を止めることができる立場にある……絶対に、防がないと」

「そうですね」


 会話の後、少しばかり沈黙。アゼルは何か聞きたそうな表情をしていたのだが、


「何か疑問があれば答えるけど」

「それなら……あの、レイトさんは皇女のことをどのように考えているんですか? おおよそクレアさんから事情は聞いたのですが」


 ――うーん、どう答えたものか。


「俺について、か……大切な存在であることは間違いないよ」

「でもそれは戦友的な意味で、ですよね?」

「そういう面もある。ただまあ『前回』共に戦い続けて、何も思わないほど無感情というわけではないさ」


 肩をすくめながら答える。俺だってリリーに対し思うところはある。だから、


「それに、彼女のことについて何一つ感情がないのなら、もう一度この世界へ舞い戻るなんてことはしなかった」

「それもそうですね……いつか答えを出さなければならない難しい話ですが……」

「アゼルが気を揉まなくてもいいさ。俺だって理解している。ただ『前回』ほどややこしい事態にはならないだろ。今回の戦いの結果がどのような流れだろうと、リリーが皇帝になることはないわけだし」


 様々な例外があったからこそ、リリーが皇帝になるという結末に至った。けれど今回はそういう展開になることはないだろう。

 少なくとも『闇の王』が現われなければ彼女が皇位継承権を手にすることもないからな。


「リリーは間違いなく皇女様だし、色々と制約も多いけど……俺と出会う前に無茶な旅をしているくらいの自由はあった。だから俺とのことについてもさして問題にはならないさ」

「そうだといいのですが……」

「この辺りの心配は、全ての戦いが終わってからだな。戦いの生き末で俺の立場がどうなるのか。あるいはリリーはどうするのかなど、変わってしまうわけだから」

「悪い結末には、なりませんよね?」


 確認するようにアゼルが問う。それについては、


「俺とリリーが納得いく形で……とは思っているさ」

「それなら僕がこれ以上言及することはありませんね……」

「というか、なぜアゼルが気にするんだ?」

「帝国の人間であるためというのは関係しています。ただリリー皇女の場合はそれ以上に特別で、共に戦った同士だから、でしょうか」


 あの戦いで一緒に『闇の王』と戦った者達は、大なり小なり絆が生まれていた……強大な相手であるからこそ、禍根なども忘れて戦った。

 世界が滅び去ってしまう状況を鑑みれば仕方のない話だったし、状況が状況だけに美談にするつもりもないが……あの時の戦いは、大陸の者達が集ったあの激戦は、間違いなく輝いていた。


 ただ戦いの結末はこちらの敗北だったわけだけど……と、思考する間にリリー達が俺達を呼びに来る。


「どーぞ」

「ありがとう。それじゃあアゼル、さっさと入って……って、どうした?」


 リリーが訝しげな視線を送ってくるのを見て、俺は尋ねる。


「いや、こういう状況だし、何かイベントの一つでもないのかなー、と思って」

「イベントって何だ……? 俺が覗きでもやればいいのか?」

「そうそう」


 なぜそこで同意するのか。そもそも俺がそういうことをやる人間だと認識されているのか?

 エリテもいるだろうし、何を言っているのか……などと内心で様々なツッコミを入れた後、


「悪いけど疲れているし、そういう話は勘弁してくれ。アゼル、行こうか」

「つまらなそうな顔をしているわね、リリー」


 クレアから指摘が入る。見ればリリーは首を傾げていた。


「いやあ、もうちょっと進展というものが……」

「覗きなんかした日には進展どころか逆効果だと思うんだが……」

「ははは……」


 アゼルが思わず苦笑する。俺達のやり取りによる反応だが、


「アゼル、言っておくが前々からこんな感じだぞ」

「わかっていますよ。なんというかお二人とも、変わっていませんね。皇帝と英雄になった、あの時から」


 俺とリリーは互いに目を合わせる。変わっていない、か。


「それは良い意味で? 悪い意味で?」

「もちろん良い意味ですよ。お二方とも立場が変わっても何一つ変わらない……その事実で色々と安心できました」


 安心、ね……アゼルとしては俺達の関係がギクシャクすることで、戦いに支障が出ることを懸念したのだろうか。

 実際のところ、皇帝と英雄になったことで多少なりとも関係に変化があったのは事実だろう。リリーは想いを俺に伝えることをあきらめ、俺はリリーのことを理解はしながらも英雄として闇と戦い続けるつもりだった。今一度やり直すことになってリリーは爆発してしまったわけだけど、それ以外は関係性が変わっていない。


 まあこれは俺がリリーを説得している面も大きいし、他ならぬ彼女自身が自覚しているのもあるだろう。もし関係を無理矢理変えてしまったら、戦いに問題が出てしまうと。だからリリーはあまり追及してこない。

 ふと、もし俺がこの世界に来なければどうなっていたのだろうかと想像する。俺がいなくともいずれ『闇の王』は顕現していただろう。そうなれば世界は崩壊してしまう結末を迎え、この星そのものが滅んでいたのかもしれないけど……その前に、俺のような存在が現われたのだろうか?


 もしものことなんて考えても意味はないのだけれど……色々と想像しながら、湯浴みをすることとなった。


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