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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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動機の考察

 食事そのものは何事もなく終了。建物の中はクーラーでも効いているかのように涼しく、ひとまず暑さを忘れることもできた。


「……そういえば、一つ聞きたいのだけれど」


 食器も片付けられた時、クレアが口を開く。ちなみに場所だが、ここはどうやら来客用の部屋らしく、円卓のようなテーブルを囲み食事を行った。こういう一室が必要なのか疑問ではあるのだけれど……まあそこについては特に突っ込むことはしない。


「現在、エリテさんが『樹の王』と呼ばれているけれど……それはどうやってなるのかしら?」

「特段、必要なものはありませんよ。中央の大樹との結びつきを強くして、管理を行う……私の場合は王となるより前に春の領域を管理していたため、中央に加え春もまた私自身が管理を行っています」

「もし春の領域を管理していなかったとしたら、今頃は中央だけ支配していたということ?」

「歴史的に管理者でなければ中央を統治するケースがないので、その質問の前提はあり得ませんね」


 そんな風に説明を行うエリテ。クレアとしては何が聞きたいのか。


「なるほど……では、一体の妖精がこの妖精郷全ての領域を管理する可能性はあるのかしら?」

「それは……よほど能力が高ければ不可能ではありませんが、正直なところ確率は低いかと。少なくとも、今いる妖精達の中にそのような存在はいませんね」

「そう……なら例えば『闇の王』の力みたいなものがあれば、妖精郷全体を統治する力が得られるかしら?」

「不可能ではないかと」

「動機を探ろうとしているのか?」


 なんとなく俺は疑問を寄せる。どうもクレアは『仮面の女』に協力する妖精に対し考察しようとしているみたいだが。

「まあそうね。そもそも『仮面の女』がどういった存在なのか不明瞭な部分はあるけれど……これまでの話から考えて人間である可能性は結構高い。なら妖精が引き入れるメリットはどこにあるのかな、と」

「目的が妖精郷全体の支配だと?」

「あり得ない動機ではないと思うのよね。だって力を求める妖精……その最終目標というのは、この妖精郷が狭いコミュニティであるのなら、限定されるわよね?」

「確かに支配が目的になり得ますか。野心的な妖精であれば考えられなくはないですね」


 と、エリテが告げた時、今度はリリーから質問が飛んだ。


「あ、私からも一つ。確認だけど、この妖精郷全体を統括する存在……あなたのようになる場合、中央部分を管理するようになればいいってことなのよね?」

「そういう解釈で問題ないかと」

「なら、その中央部分を誰が統治するのかは、どうやって決めるの?」

「そうですね……私が中央へ入る前の方は、寿命で亡くなられました。かなり長い統治であり、他の妖精達に慕われていました」


 告げた後、エリテの顔には先代の顔が浮かんだのか、懐かしむような面持ちを見せた。


「そうして次の統治者を決めなければなりませんでしたが……戦いなどという物騒なことにはなりませんでしたよ。とはいえ、春夏秋冬全ての妖精の意見を聞き入れていたらまとまるものもまとまらない。妖精達は自分が暮らす場所を管理する妖精に就任して欲しいと思うわけですから」

「ちなみに、前回の統治者はどの区域だったの?」

「秋ですね。結果的に魔力の多寡を鑑みて、私が皆さんの言う『樹の王』に就任しました」


 ――例えば、そういう経緯に納得がいかず、力を得ようと『仮面の女』を引き入れた……とかも一応考えられるのか?


「それと私が就任して以降も季節の管理者は変わっています。ジェーンはつい最近就任したばかりの者ですね。ただ、秋と冬は私とほぼ同じくらいに誕生した者達です」

「私だけ新参なんだよね―」


 と、どこか陽気に告げるジェーン。そこで俺は、


「ちなみに就任してどのくらいに?」

「数ヶ月かな」


 ずいぶん最近だな……ということは、『仮面の女』と関わっている可能性は低くなっただろうか。

 さすがに『仮面の女』も『闇の王』に関する研究がすぐにできるとは思えない。闇の顕現は今から数年後だけど、世界を壊滅させるだけの力を得ているわけだし、数年程度では時間が足らないはず。


 とすれば候補になりそうなのは秋か冬か……クレアやリリーが質問したことについては記憶に留めていた方が良いかもしれない。


「昼食後も見て回る方向で良いですか?」


 エリテが尋ねる。俺達が相次いで首肯したのを見て、


「では、先ほどと同じ形で回ることにしましょう」


 よって、俺達は外に出て夏の領域を歩き回ることに。ジェーンはなおも陽気で、俺達に話し掛けながら一緒に行動する。


「ふと、思ったんだけど」


 と、リリーは何気なく俺へ告げる。


「この妖精郷では、どうやら野心的な妖精もいる……加え、世代交代なども存在している。でも、そういった事情については内部に入り込まないとわからないよね?」

「そうだな」

「この辺りのことを『仮面の女』は知っていたのかな?」

「どうだろう。何かしら妖精郷を訪れることができる方法があって、潜伏先に選んだ。で、政争的なものがあるとわかったからそれを利用しよう……というのがたぶん理屈としては一番無難だろうな。事前に知ることができるというのは……それこそ妖精じゃなければ無理だ」

「ふーむ」


 リリーは唸り始める。『仮面の女』が何者なのかを考察しようとしているみたいだけど、とにかく情報が少なすぎるからな。

 ともあれ、今は地道に調べて回るしかない……午後も暑い中、ひたすら俺達は足を使って夏の領域を回る。成果としては……まあなかったのだが。


 秋と冬の領域については今回の件、どう考えているのだろうか。ジェーンについては特段気にしている様子もなく受け入れた。しかし突然『樹の王』の妖精により人間を入れて見回らせてくれ、などと言えば反発を招く危険性だってあるわけで……エリテはその辺り考慮しているはずだけど、ここで騒動が起きれば余計話がこじれることになる。

 ただ俺達としては彼女の動向に従うしかないわけだが……不測の事態に陥っても動けるように心構えはしておくか。


 そんな結論を胸に抱きながら、俺はリリーと共に歩き回る――しかし結局、『仮面の女』にまつわる何かを得ることはできず、最終的に夏の領域については問題ないということになったのであった。


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