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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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エルフの依頼

 一応、魔術師の痕跡について調べるため俺は屋敷の中を調べ回ってみる。ただ、手がかりはほとんどつかめなかった。


「この老魔術師が『闇の王』と関わっていたかどうかはわからないけど……いや、その可能性は低いけど、もしそんな展開になったら出会うかもしれないな」

「この魔術師が全ての元凶だったら……出来過ぎた話かな」


 リリーの感想に俺は「そうだな」と答えつつ、屋敷を出ることとなった。

 その後、俺達は真っ直ぐ冒険者ギルドのある町へと向かう。結果として夕刻前には辿り着き、彼女はギルドに入って報酬を受け取ることになった。


「ついでだから俺も登録しておくか」

「そうだね」


 リリーの同意も得たのでギルド登録を行っておくことに。まあ仕事を請け負うのはリリーがやるだろうから、俺自身登録してもあまり意味はないんだけど。

 とりあえず書類(当然異世界の文字だが、魔法を利用して文字の読み書きはできる)を記載して提出。その間にリリーは仕事が張り出されている掲示板とにらめっこしていたのだが、こちらが近づくと彼女は一点を指差した。


「レイト、あったよ」

「そうか……大騒動になる仕事だが、今の俺達ならどうにかできそうかな」


 内容は『森の王』が統治する森に魔物が出現したので、その討伐に協力して欲しいというもの。本来自分達のすみかの周辺はきちんと防衛しているはずなのだが、今回は対応に苦慮。そこで人間にも協力を要請した……そういった流れだったはず。


「これはきちんと存在しているんだな……差違があるのとないのでは何か違いがあるのか?」

「レイトに関わっているところだけ変わっているなんて可能性もありそうだね」


 ああ、確かに……この辺りは今後検証していければいいな。

 仕事そのものは見つかったのでリリーはこの依頼を受けることにする……さて、


「リリー、内容は憶えているか?」

「もちろん。相当しんどい仕事だったね」


 俺は頷く――『前回』仕事を受けた経緯としては、リリーが面白そうだと感じたため、というなんとも軽い動機だった。俺はこの仕事で魔法使いとしての初陣をやることになったのだが、不安もあった。エルフが対応に苦慮して人間に依頼をした……とくれば厄介な内容のようにも感じられるたのだが、依頼書に「数が多いので困っている」という記述もあったため、魔法が使える俺なら大丈夫だろうとリリーが押し切った形だ。


 その結果、どうなったか――俺の初陣にして、熾烈を極める戦いになった。


 森の中をいくらか進んだ時、思わぬ難敵が現われる。戦場になった森の主とでも言えばいいだろうか……そいつが率いる魔物の群れが突如、襲い掛かってきた。

 姿形は、元の世界で言えばケンタウロスだろうか。人馬一体の魔物で、しかし人間の体の部分は腕も頭部もあるが真っ黒に染まっていて、まるで「作られた生物」のような印象を受けた。


 その強さは凄まじく、森にも関わらず凄まじい突撃により名のある冒険者や傭兵が犠牲となり、果ては森の主によってエルフの里から派遣された魔法剣士――名をジェファ=ロウセンというのだが、彼もまた魔物の凶刃に倒れ伏した。


 ジェファは『森の王』が統治するエルフの里の最強剣士……いや、その武勇はエルフの中でも最強という位置づけだったらしい。そういった人物さえも打ち破った魔物。一人、また一人と倒されていく状況下で俺もリリーも生存は絶望的だった。

 けれどそれを打開したのが、俺の魔法だった。死の淵に立たされ、全身全霊の魔法を起動。未熟ながら無我夢中で放った渾身の魔法――それにより、魔物は消し飛んだのだ。


 そこから俺は魔法使いとしてこの異世界でリリーと共に冒険を始めた。結果国にも認められ、やがて『闇の王』との戦いへと突き進んでいく――


「参加者はイマイチ憶えていないけど、少なくとも剣士ジェファがいるのは確定だね」


 リリーが述べる。俺は「そうだな」と返事をして、


「そうだな。最初の仕事……その目標は、全員生存だ」

「いけると思う?」

「俺達が実力通りの動きができれば、いけるさ……ただ戦場の範囲が広いから、全員生存を目指すなら俺は魔法で味方を援護し続ける必要がある……つまり――」

「魔物の主は私が仕留める、ってわけね」

「その方がいい。リリーも目標がわかりやすくていいだろ?」

「そうだね」


 明瞭に返事。リリーの性格はそれこそ出会いそのままであり、猪突猛進の一言。よって目標を見定める方が彼女も動きやすくなる。

 それに、彼女は攻守どちらに向いているかと言えば、間違いなく攻……ちなみに俺は魔法でなんとでもなるのでオールラウンダーといった感じた。


 ただ――気になることもある。


「リリー、一つ確認だが魔物の主に勝てると思うか?」

「私が?」

「記憶は戻ったにしても年齢は遡っているだろ? 技両面はともかくとして身体能力なんかは落ちているだろ。加え『聖皇剣』も持っていない」

「そこについては、魔物の主が出る前……その動きを見て判断してもらえればいいよ」


 と、リリーは返答した。


「もし勝つのが難しそうだと判断したら、レイトには少しばかり頑張ってもらって援護してもらう。大丈夫そうなら全員生存に注力すればいいよ」

「俺頼みかよ……」

「そりゃあ私は全盛期と比べれば弱いしね。しっかり技量を維持してるレイトに頼るのは当然」

「……わかったよ。ともあれ俺達二人の動きによって戦況が変わる。何しろ歴戦の猛者達があっさりと負けるような相手だからな」


 そういう敵に果たして目の前のリリーが立ち向かえるのか……と思った矢先、彼女は心を読むように、


「闇との戦いを、またその時の技法を思い出した……今の私はこの仕事に参加した戦士の誰よりも強いよ」

「なら、それを示してもらおうか」


 こちらの言葉にリリーは不敵な笑みを浮かべ、


「うん、これでレイトに惚れ直してもらうんだから」


 ……ああ、うん。俺は内心の照れをどうにか抑え、頷くことに。

 ん、とここで俺は一つ思い出す。そういえば――


「それと、もう一つ。着替えたいんだけど」

「着替え?」

「現在幻術で姿を誤魔化しているけど、実際は元の世界の格好だから」

「あー、なるほど……それは目立つね。よし、なら早速買いに行こう」

「金は今回の仕事から俺の分を差し引いてもらえばいいから」

「別にいいよ。これから世界を救うのにそんな細かいこと言ってられないし」


 そんなやり取りを交わしながら、俺達はギルドを出ることとなった。






 作戦会議の翌朝、俺達は依頼場所であるエルフの住まう森へと向かう。町からおよそ二日程度。このままトラブルもなければ問題なく辿り着く距離だ。

 俺も装備は新たに新調した。フード付きの地味な青い法衣に杖と完全に魔術師スタイル。部屋着については魔法により縮小させて懐に入れている……この魔法が結構便利なのだ。


 そうして俺とリリーは進んでいるわけだが……ふと彼女から声が。


「森の王様と話をしたら、情報もらえるかな?」

「それは『闇の王』についてか?」

「そうそう」

「たぶん大丈夫だろ……今回の作戦を成功して一定の評価を受けることになれば。そして目を合わせて記憶を取り戻せば……」


 問題はリリーのようにできるのか、ということに加えもし成功しても俺もリリーも面識がないからな。事情説明が上手くいくかどうか。


「まあそこは今から心配しても始まらない。とにかく全員生存を目指して頑張ろうじゃないか」

「頼りにしてるからね、レイト」


 無邪気に笑うリリー。完璧に乗せられた形ではあるけれど、悪い気はまったくしないので俺は「任せとけ」と明瞭に返事をするのだった。


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