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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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夏の領域

 翌朝、俺は起床してから夏の領域へ入るために準備を行う。といっても何かやるというわけではなく、エリテが夏の領域を管理する妖精と話を付けるまでに支度をするくらいなのだが。

 そういえばエリテからどの季節の管理者と相性が悪いのかは聞いていなかったのだが……まあ別に尋ねなくてもいいか。そのうちわかりそうなものだし。


 ということで屋敷から出て待っていると、エリテが夏の領域から戻ってくる姿が見えた。既に話をしていたらしい。


「お待たせしました。話はしましたので入れますよ」

「その様子だと、特段問題はなかった……仲が良い管理者だった?」


 リリーが問う。エリテは小さく頷き、


「そうですね……それでは参りましょう。ただ、その格好だと暑いかもしれませんよ」

「冷却するので問題はないです」


 俺は魔法で、他の仲間達は魔装の効果だ。自分の周囲に冷気を張り巡らせて、涼むというもの。魔装は魔力の塊とも呼べるものなので、武具の特性に入っていなくとも、簡単な術式などを構築して利用は可能だ。まあそのくらいの便利さはないとね。

 よって俺達は装備などを変えることなく夏の領域に足を踏み入れる……次の瞬間、俺達の体に熱気がまとわりついた。


「これは……とんでもない変化ね」


 クレアがそんな感想を述べる。


「結界一枚を隔ててこれほど気候が変わるなんて」

「薄い結界ですが、決して脆いものではありませんからね。この妖精郷を成り立たせている重要なものです。非常に強力なのですよ」


 エリテは答えながら進んでいく。彼女もまた冷却魔法でも使っているのか汗などかいていない。

 夏の領域についてだが、気候はカラッとした陽気に包まれているもの。頭上に存在する太陽の光は今までと同じものであるはずなのに、ここを訪れた瞬間に幾分日差しが強くなったようにさえ思えた。


 そして夏については湿気などは少なく、そういう意味では過ごしやすい。まあジメジメとした暑さだったら他の仲間達も嫌な顔をしていそうだ。ともあれ気温が高いだけだし、体を冷却している俺達からすればひとまず動けるレベルだ。

 そして歩きながら周囲を気配を探る。先日に引き続きエリテから気配を捉える技法を得ているため、妖精達がどこにいるのかや、小屋などの建造物に関する位置などが把握できる。


「まずは管理者と会いますか?」


 俺の疑問にエリテは小さく首を振る。


「話を通した時点で歩き回っても問題ないようにしてあるそうなので、このまま調査を開始しましょう」


 それでいいのか……まあ他ならぬ『樹の王』が語っているのだ。ここは、


「わかりました。くまなく探す以上、時間は掛かりますが」

「覚悟の上ですよ」


 ――よって、俺達は夏の領域を調べることに。途中で妨害などがあるわけでもなく、中を調べ回ることができている。

 管理者に会うことも考慮にすべきか……と思っていたら、俺達の前にエリテと同じ身長を持つ妖精が。


 黒く短い髪を持つ妖精で、夏らしい薄着かつ今の気温に合わせるかのようにニコニコと俺達へ笑顔を向けている。気配で他の妖精とは違うことはわかったので、管理者なのだろうと推測できた。


「やっほー、みなさん」


 そして能天気な挨拶。エリテへ目を向けると彼女は妖精を手で示し、


「彼女が夏の領域を管理する妖精です。名はジェーン=フィッティ」

「ジェーンと呼んでね―」


 なんというか、良い意味で距離が近いな……満点の笑顔はこっちが疑うことも馬鹿らしいように思えてしまう。


「事情は聞いたよ。怪しい存在が入り込んでいるかもしれないって?」

「あるいは、そういう形跡があるかも、という話ですね」


 俺が返答するとジェーンは「なるほどー」と間延びした返事を行い、


「あたしは特に何も感じないけどなー。まあ調べられて困るものもないし、自由に歩き回っていいよ。あ、でも妖精達には気を遣ってね。無理に尋ねたりしないように」

「わかりました」


 返事をした後、俺達は少しばかり協議をして二手に分かれることにした。俺とリリーとジェーンの三人。そしてエリテとクレア、アゼルという組み合わせだ。俺とリリーは戦力的に分けた方がいいのではと思ったのだが、何かあればすぐに呼びに来るということだし、ひとまずそういう形で分かれることに。


「それじゃあ行こうかー」


 どこまでも間延びするような声と共に、ジェーンは俺達を案内し始める。周囲を見回すと平原には青々とした草が生い茂り、少し離れた場所にヒマワリ畑が見える。


「花の手入れとかは妖精達が?」

「そうだね。草花に宿る精霊達が管理している。ま、私達にとって樹木や草花は家みたいなものだから。人だって家の中は掃除するでしょ? それと一緒で住み心地をよくするには色々しないといけないってわけ」


 なるほど、納得できた。家の手入れをするのは当然だからな。綺麗な景観とかは、そうした手入れの副産物というわけだ。

 この景色がどういう経緯で生み出されているのか理解したところで、俺達は作業を続ける。本当ならもっとゆっくり観光気分で回りたいものだけど……まあ、そういう経緯ならここには来なかっただろうし、そもそも入れてくれるのかもわからないけど。


「これから秋と冬も調べるの?」


 そんな疑問がジェーンからもたらされた。俺は「そうだな」と同意し、


「そういえば秋と冬の管理者については詳しく聞いていないんですが……仲とかはどうですか?」

「うーん、あたしは交流があるわけじゃないからなあ」

「妖精同士、領域が違うと顔を合わせることもないの?」


 リリーからの問い。それにジェーンは「うん」と返事をして、


「管理者になったら、区域を維持するのに集中するからねー。ここにいる妖精達が行き来するのはあるけど、友達の所に遊びに行くくらいで、引っ越したりもないし」

「管理者となったら……役目を終えるまではずっとここにいると?」

「そうだね」


 彼女達としてはそれについて不満不平はなさそうだけど、よくよく考えるとずっと同じ場所に居続ける……というのは、結構大変だな。

 国の王様なんかと同じように、統治する必要があるからってことかな……ただ、彼女からの情報で一つ推測できたことが。領域間でもあまり行き来がないとすれば、妖精郷の閉鎖性は思った以上に高い……これなら確かに『仮面の女』が入り込む隙がありそうだなとは思った。


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