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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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妖精のしがらみ

 俺達はその後もエリテと共に調べ周り、結局成果を上げることはできず休むことになった。気配を長時間探っているためか疲労も結構ある。妖精郷自体、高い場所からなら見渡せるくらいの規模だが、さすがに歩き回るのであればかなり大変だ。よって綿密に調べるのであれば、一つの季節を丸一日くらいかける心づもりの方が良いかもしれない。


 俺達は中央の屋敷へ入ってその日は休むことに。男女で部屋を分けられたが、男子部屋の方に集まって作戦会議を行うことにする。


「率直に訊きたいんだが……『樹の王』は信用できると思うか?」

「大丈夫だと思うけど」


 そんなリリーの意見。続いてアゼルが発言。


「言動から嘘を語っているようには思えませんでしたし、魔力を精査しても異常はありませんでした。問題ないかと」

「……確か『前回』は相手が嘘を言っているのかどうか判別する術式を構築していたが、それが完成したのか?」

「はい。どこに敵がいるかもわからない状況。交渉相手の素性を確認するのは優先すべきだと思ったので」


 こちらは何も言っていないのが、良いアシストである。アゼルは『前回』魔装により多種多様な能力を所持していて、それに助けられたことも多かった。今回もそれと同じ形だ。


「……明日はまず、夏の季節を訪れて調査をしよう。ただ『樹の王』の支配区域ではないため、許可が出て調べるにしても色々と時間が掛かる……今日は中央と春の季節、二ヶ所を調べることができたけど、明日以降は一日一ヶ所になると思う」

「その間に『仮面の女』がいたとしたら、動くと思う?」


 尋ねたのはクレア。俺は一考し、


「いれば何かしら動きがある……まあ色々と用心深そうな『仮面の女』が妖精郷だからといって油断するとかはなさそうだし……そもそも俺達がここを訪れたことだって、現時点で気付いているだろ。よってここからは、決戦になる可能性を考慮しながら行動しなければならない」


 現在、結界の外では見張りに加え俺も魔法を使って監視の目を光らせている。姿を消す能力くらいなら、こちらは看破できるし……、


「アゼル、結界の外側で何かやってるか?」

「周囲を観察する魔物は配置していますよ」

「わかった。俺も似たようなことをやっているし、二人で異常がないかを確認しよう」

「わかりました」


 ひとまずやれることはやったかな……というわけで休むことにしたのだが、夜の景色とか気になって俺は外へと出た。

 空には満天の星空。そして周囲には気持ちの良い静寂……標高の高い山中なので、ずいぶんと星が綺麗に見える。道中は高山病とかに注意しなければならなかったけど、ここではそういう心配もなく、ただ綺麗な姿だけを目に映すことができる。


 この景色が『闇の王』によって一変するとなれば、エリテとしては必死になるのはむしろ当然と言える……と、ここで背後から足音。振り返ると、


「お邪魔でしたか?」


 エリテだった。俺は「いえ」と首を振る。


「散歩していただけですので」

「そうですか……隣、いいでしょうか?」

「どうぞ」


 肩を並べて立つ。何か訊きたいことでもあるのかと思いながら沈黙していると、


「……私達は、闇が顕現してから早々に滅び去りました」


 エリテは口を開く。どうやら『前回』の話みたいだ。


「出現してから一日も経っていないでしょう。閉鎖的な場所なので、他の種族に気付かれることもなく……そうしている内に竜の都へと襲い掛かった。おそらくそれが真実です」

「……闇の首謀者がここにいるという事実を聞いて、どう思いましたか?」

「潜伏場所にここを選んだというのは、相手にとってかなり都合が良かった、と私は思います。妖精に縁があったのか、それとも闇の力を目の当たりにした同胞が招き寄せたのかはわかりませんが……ともかく、あなた方のような存在がいなければ、看破されるようなことはない場所であることは間違いありません」

「気付いたとしても、場所が場所なのでどうあがいても多種族が援護できませんしね……あなたも闇に飲まれた?」

「はい、まさしく。闇の前に無力だったのを、今更ながら痛感しています……しかし、樹の傍にあるあの剣を用いたとしても、対抗は不可能だったでしょう」


 そう断じるエリテ。


「闇の膨張は一瞬の出来事でした。私達に反撃できる機会すら与えなかった」

「それまでにしっかりと準備をしていたということですね……もしかすると、現段階でもある程度段取りは進んでいるかもしれない」

「ならば、絶対に見つけ出さないといけません……同胞を守るためにも」

「……仮に、ここへ誰かが招き寄せたと仮定します。その場合、妖精郷の中へ誘ったあなたの同胞は、力を得たかったため、と解釈するのが妥当でしょうか?」

「おそらくは。とはいえ『仮面の女』が生み出す『闇の王』については無知だったでしょう。力を得ることができる……ただそれだけで協力したのかもしれません。結果としては、闇の権限により巻き込まれて滅んだ」


 まあ『仮面の女』としては用済みってことだよな……エリテはここで悲しい顔をして、


「先にも語りましたが、ここにも政争は存在します。よって、野心欲に目をつけた『仮面の女』がここへ入り込めるように上手くやった……といったところでしょうか。さすがに妖精郷へ誰にも見咎められず入る方法はないでしょうし」

「そうですね……そんなことをしでかす妖精について、候補は?」

「詳しくは語りませんが……秋と冬。この二つの季節の管理者は、可能性があります。私に対し敵愾心を抱いていますので」


 なんだか嫌な話だな。妖精であっても、色んなしがらみに縛られている。


「もし戦闘になるのであれば、私の全面的に協力します。明日以降も私はあなた方に協力するべく帯同しますし……身内のことである以上、こちらでできれば片付けたいという思いもあります」

「俺達は納得がいくまで調べる気なので、それだけは了承をお願いします」

「はい、わかっています……この妖精郷の平和を守るため、是非協力をお願い致します」


 その言葉はずいぶんと熱がこもったものであり、また同時に悲痛なものを含んでいた。

 きっと、『前回』の悲惨さを思い返している……それを二度と繰り返さないために、彼女は同胞と戦う道を選んだのだ。


 俺は「はい」と返事をして、話は終了した。明日から忙しくなる……そう確信しながら、その日は休むこととなった。


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