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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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春がある領域

 春の季節が巡る場所は、とても過ごしやすくまた同時に葉擦れの音が心地よく聞こえる。全てが快適で、このまま草むらの上で寝転がって昼寝をしたい気分に駆られる。


「なんというか、やる気をなくさせる気候よね」


 そんな感想がクレアからもたらされた。俺と同じ考えらしい。


「一年中こんな気候なのかしら?」

「はい、そうですよ」


 エリテが律儀に答える。ふむ、これが一年中……というとなんだか羨ましくもあり、また同時になんだか恐ろしいことのようにも思える。

 元の世界で四季が存在する俺としては、一年通して変わらない気候の場所、というのは不思議な感覚だ。そして同時に延々と同じ環境が続くというのは、変な気分にさせられる。


 イファルア帝国も四季は存在するので、リリーも似たようなことを思っているのかエリテの返答を聞いてちょっとばかり眉をひそめている。アゼルとかクレアは特に気に掛かっているわけではなさそうだけど。


「春の季節については、一番妖精が多い場所です」


 そう言いながらエリテは森へ視線を移す。方角的にそちらは夏の季節が存在する場所だ。


「木々の生育状況によって、宿ることができる妖精の数なども違いますからね。深緑が生い茂る春か夏……そこが特に多いですね」

「秋とか冬とかは、少ないと?」


 俺の疑問に彼女は小さく頷き、


「木が活性化していなければ、妖精も住み心地が良くありませんからね。かといって妖精は春だけにいるわけではありませんので、このように四つの季節に分かれているのです」

「さっき、春と中央についてはあなたが管理していると言ったはず」


 今度はリリーが問う。


「他の季節については別に管理者がいる……で、いいんだよね?」

「そうですね」

「中央を陣取っているあなたとしては、他の場所に権限がありそうだけど」

「妖精郷全体における最終決定権を持つのは私で間違いありません。しかし、各季節の自治についてはそれぞれの妖精に任せています。管理というのは、実のところ結構時間を使うものでして、私自身が全てを管理するのは時間的にも余裕がないんですね」

「なるほど。もう一つ質問だけど、その管理者とあなたは仲が良いの?」

「私としてはそうありたいと思うのですが……」

「あんまり良くない妖精もいると」

「……こういう閉鎖的な空間なので、意外かもしれませんが……この妖精郷も権力争いなどが存在します。言ってみれば次に中央に行くのか……あるいは、誰がこの妖精郷を統括するのかなど、野心的な考えを持つ妖精もいるのです」

「そこは驚かないよ。例えば帝国だって、政治を行う人間は出世レースがあるし」


 リリーがどこか面倒そうに語る。彼女としてはドロドロとした世界も皇帝になったことで知っているのだろう。

 俺としてはそういう物事にあまり関わることはしなかった。というか、政治的な闘争なんてぶっちゃけ俺には無理だ。魔法によって戦える相手とは違うし、触れるべき場所でもなかった。


 妖精郷についても、そういうのがある……か。リリーが考えるシナリオとしては、どこかの管理者が『仮面の女』を引き入れて中央にいるエリテを倒すという、下克上的なことを狙っているのでは、ってことだろう。権力闘争が存在するのであれば、あり得ない話ではないし人間を受け入れるだけの動機になる。


「それとさらに質問が。例えば妖精達はそれぞれの季節で暮らしているわけだけど、相互にやり取りとかはあるの?」

「それはありますよ。例えば春の妖精が冬の妖精の所で暮らす、というような状況には至りませんが……交流するものは存在します。ただ、管理者については誰が入ってきたのかなどの気配はわかります」

「それじゃあ仮に怪しい存在がウロウロとしていたなら……」

「あなた方にもその能力を渡しました。そういう存在がいれば、すぐにわかるかと思います」


 俺はエリテの言葉に従い意識を集中させてみる。うん、妖精などの存在を認識できることに加え、彼女の言う通り往来についても判断ができそうだ。

 さらに春の季節……この範囲について調べるのだが、どうやら妖精の類いしかいないらしい。


「レイト、もし『仮面の女』がこちらのことを見つけたとしたら、どう動くかな?」


 リリーからの疑問。それに対し俺は、


「まず、俺達のことを知っているかどうかによるな。そもそも人間が何の目的でここに来たのか……それについて疑問はあるだろう。俺達が竜の都で闇の眷属とでも呼べる存在と戦ったことを把握しているかどうか……それによって立ち回り方が変わるだろう」

「もし把握していたら……」

「俺達がゴルエンと親交があったことは、戦いぶりを見ればわかるはずだ。となれば俺達が妖精郷を訪れエリテさんを頼るのは自明の理……捜索を始めるとすれば、ほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠すか、あるいは露見しないように妖精郷を出るか」

「出入りについては屋敷を出る際に警戒度合いを上げるよう忠告しておきました。気配を察知できなくとも、肉眼で移動を見ることはできるかと思います」


 エリテからの心強い言葉。そうであれば、


「どこかの季節で身を隠しているか……確認ですがエリテさん。例えば夏の季節の領域を訪れて、俺達が捜索活動を行う……これ、管理者からどう思われますか?」

「事前に連絡しておけば問題はないですね。ただ、抜き打ちでとなれば相応の理由説明が必要になると思います」


 うーん、あんまり波風立てたくはないよなあ。


「ま、事前に告知してでいいんじゃない?」


 そこでリリーが声を上げる。


「予め告知をして、私達は色々と調べる。もし『仮面の女』がいるのなら、何かしら行動をするだろうし、その動きは把握できるでしょ」

「確かに、事前に告知した段階で動きがないかを網を張る……というのであれば、問題はなさそうだな」

「ではそのように取りはからいましょう」


 エリテは乗ってくれるらしい。話が早くて助かる。


「一通り春の区域を調べた後、今日はお休みください。屋敷に部屋は用意しますし、夜間については……警戒し、見張りも出します。もし皆様の方でもそうした方を選抜されるのであれば、私はそれに従うことにしますので、よろしくお願いします――」


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