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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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樹の王

「ようこそ、客人の方々」


 部屋に入った瞬間、女性らしき声が俺達へ呼び掛けてきた。見ればそこは書斎のような空間で、机に向かって椅子に座り何か仕事をしていた様子の妖精がいた。

 女性が立ち上がる。腰まで届く栗色の髪に格好はローブ姿。見栄えもよく顔つきもパーツ全てが整っている美人で、出で立ちから高貴な存在であると確信させられた。


「竜族の王ゴルエンの書状に従い、通させていただきました。私の名はエリテ=シェルマ。エリテとお呼びください」


 にこやかに――その笑みは人の心を射抜くほどの強烈な美麗さを誇っており、何がなくともひざまずきそうな感覚に囚われる。


「初めまして、私の名は――」

「ゴルエンの書状に記載されていました。自己紹介は不要ですよ、リリーテアル皇女」


 そうエリテはリリーへ返した。ゴルエンは気を揉んで書状の内容を上手くやってくれたらしい。


「彼の友人であることに加え、書状の内容……これについてすぐにでも協議しなければならないでしょう」

「ちなみに内容はどの程度書かれていましたか?」


 こちらが問い掛けるとエリテは、


「あなた達についてのことや、何より『闇の王』に関すること……ゴルエンの書状であれば信用に足るものでしょう。ともあれ、私としては記憶を保持しているわけではないので……」

「まずは記憶を取り戻すところから、でしょうか?」


 俺のさらなる質問にエリテは頷く。


「成功するかわかりませんが、まず必要な情報についてはそれで手に入れることができるかもしれませんね……お願いします」


 成功するのかどうか……俺は軽く手順を説明した後、エリテと目を合わせた。吸い込まれるような黒い瞳を持っており、なんだかこちらが緊張してしまうくらいだったのだが……やがてパチリと音がした。成功のようだ。

 エリテはしばし目をゆっくりと閉じたり開いたりしていたのだが……やがて、


「なるほど、興味深い現象ですね。ともあれこれを検証する暇はないでしょう……さて、あなた方の、ひいてはゴルエンの見立てについてですが」


 まずは核心部分について。言葉を待っていると、


「――ええ、そちらの推測通りですね。この妖精郷から、『闇の王』は顕現した」


 俺達はどうやらゴールに行き着いたらしい。ただこの場所が本拠地であるのかは……、


「しかし、だからといって『仮面の女』という存在がこの妖精郷に出入りしているのかは不明ですね。少なくとも『前回』の記憶にそのような存在を見つけたことは皆無でした」

「なら、考えられるのは二つか」


 リリーが口を開く。この時点で既にエリテへ臆することなく話し始めている。大丈夫かなあと一瞬考えたけど、当のエリテは気にしていない様子だ。


「一つはこの妖精郷内に出入りできる道具や魔法を所持している」

「結界の魔力を解析することができればすり抜けることは可能……ですが、この結界に入った時点で私達は感知することができる」

「あなたが領域全体を感知できるの?」

「可能ですよ。他の妖精……この屋敷で私の手足となっている者についても可能です」


 すり抜けることができたとしても、妖精郷内で気付くことはできるわけだ。それならば、


「じゃあ二つ目の可能性ね。それは――」

「妖精郷内に『仮面の女』へ手を貸す者がいる……ですね」


 リリーの発言に対しエリテは先んずるように話し始めた。


「ただこの場合、私もその対象に入ってしまいますが」

「もしそうなら、ゴルエンの書状を読んだ段階で何かに理由を付けて入らせないとかするんじゃない?」


 ……仮にエリテが『仮面の女』と関わりがあるのなら、ゴルエンの書状を呼んだ時点でかなり面倒なことになるんだけど……ゴルエンとしては「それはない」と考えて全て語ったと考えるべきか。

 まあここでいきなりエリテが奇襲を仕掛けてくる可能性もゼロではないので、最低限の警戒はしているけど。


「……ともあれ、あなた方としては警戒していることでしょう。それについてはとやかく言いません」


 エリテは俺達へそう述べた。


「この妖精郷は外からの侵入者に対して最大限の警戒を払っていますが、内側に一歩入れば無防備に近い……それは外部からの影響を遮断するだけの力を結界が持っており、平和が保たれているからですが……有事の際は脆くも崩れるような場所です。『前回』においても闇が出現して、妖精郷内は食い荒らされて崩壊しました。抵抗なども、ほとんどできませんでしたね」


 ……妖精は魔法などを扱える個体もいるみたいだが、戦闘能力はあるにしても戦闘経験が皆無だ。膨れあがる闇に対してどうするかなんて……まあおたおたする間に勝負がつきそうだな。


「よって、この場所に『仮面の女』が滞在している可能性はゼロではありません。仮に露見しても妖精郷の内側について把握している存在は多種族に存在していませんので、結局はバレても世間的に影響は皆無です」


 妖精郷における閉鎖的な空間が、滞在するのに適しているというわけか。ここを拠点に置いて活動しているとしたら、確かに絶対に露見することはないな。

 内側には入れた時点で俺達に『仮面の女』を討つ絶好の機会を得ることができたわけだが……さて、どうやって見つけるのか。


「……私達が入ってきたこと、それについては相手もわかっているのかしら」


 クレアが疑問を呈する。ああ、確かにそこは重要か。


「滞在している場所によるでしょう。外観から見れば四季が存在するこの妖精郷ですが……私はこの中央と春を管理している。他の季節については別の妖精が管理している。滞在している場所が私の管轄内であれば、肉眼であなた方のことを捉えておかしくありませんね」

「視線らしきものは確認できませんでしたが」


 アゼルが告げる。ふむ、魔装によって調べていたのか。


「ならば、他の季節……その外周部から入り込むことは可能なので、三つの季節のどこかにいる可能性は高いです。私については……そうですね、まずはあなた達が立ち会いし、この中央と春の場所について調べ回るのはどうでしょうか?」

「私達が動いて相手にバレない?」


 リリーからの質問だがエリテは、


「他の季節の場所からは見えないように配慮はしますよ。それに、外からは見にくいですが境界線は物理的な物で覆われています。上から観察するなどしない限り、露見する危険性は低いかと」


 ……『樹の王』は協力的だし、ひとまずこれに従ってもよさそうか。


「レイト、どうする?」


 リリーの問い掛け。そこで俺は、


「ならそうしよう……ただ、エリテ女王。こちらは『仮面の女』以外にもここを訪れた理由があります」

「武具についてですね。では初めにそれを見に行きましょうか……ただ、あなた方に扱える物なのかはわかりませんが」

「使用するのに資格がいるんですか?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ」


 と、エリテは難しい顔をして、


「内に抱える膨大な魔力……それにより、妖精でさえも扱えた者はほんのわずか……そういった物なので――」


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