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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第四章
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妖精郷

 妖精、と聞けばどのようなイメージを抱くだろうか。俺としては手のひらに乗るくらいの大きさで、キラキラの羽根を持つ少女のような存在、というのを元の世界では抱いていた。


 この世界における妖精というのは、そういう者もいるにはいるらしい。けれどそれ以外にも小さくはなく、人と同じような背丈を持つ妖精だっている……『樹の王』というのは、そうした存在らしい。


 俺もこの世界の妖精は見たことがないからな……元々閉鎖的な種族で、竜達と多少の交流があるくらいで人間との関わりはほぼ皆無に近い。そうした存在がいる場所に、俺達が目標としている存在がいるかもしれない……なおかつ『闇の王』が最初に顕現した場所かもしれないとのこと。さらにリリーの求める武具があるかもしれない……三重の意味でそこへ向かわなければならないことに。


『現在、首謀者がいるのかはわからない』


 俺達を見送る際、『山の王』であるゴルエンはそう告げた。


『だが、妖精郷を隠れ蓑にしていたら……人間で見つけられないのは確かだ。仮面の女というのが果たして人間なのか不明だが、妖精郷は例え人間でも受け入れることがある。そして一度中に入ってしまえば後はやりたい放題できる……そういう場所だ。だからまあ、妖精郷だから首謀者は妖精だと安易に決めつけることはできない。ただ、レイト殿達が来た時点で相手がいたら何かしら行動を起こすだろう。気をつけろよ』


 そう言われた……俺達は下手すると『仮面の女』の本拠地へ行くかもしれないのだ。しかし多少のリスクはあれど、絶対に野放しにすることもできない……最悪完全に準備ができていない状況下で戦闘になるが、もしかすると今回の戦いで決着がつくかもしれない……そうした思惑を抱きながら、俺達は山を進み続ける。


 俺は仲間の状況を確認。まずリリーは登山をどこか楽しんでいるようで、明るい顔をしている。それはクレアも同じであり、二人は並びながら雑談に興じている。

 一方でアゼルについては、かなり疲労している様子だった。これを見越して体力を回復する薬などを用意してはいるのだが、それでもかなりシンドイようだ。まあ山道を進むといっても結構険しい道なので、体力があまりない彼にはキツイか。


 とはいえ、それでも弱音を吐かずついてくる……彼については竜の都で竜族ロックについて懸念がないかを調べる数日の間に同行することを父親に説得した。どのような経緯なのかは俺にもわからないのだが、ひとまず「長旅でも問題はないという」形にしているようだ。事情を聞いてはいないけどおそらくゴルエンと絡めて何かしら説明したのだろう。他ならぬ『山の王』からの頼み……とかであれば、領主である彼の父親としても頷かざるを得ない。


 今後、俺達は四人で行動することになる……ひとまず仲間は集まった。四人だけと限定しているわけではないので必要に迫られれば戦力を増やす予定ではあるけれど……当面はこの面子で動くことになるだろう。


「……妖精郷かあ」


 そんな折、リリーがふいに呟いた。ゴルエンから簡単な話しか聞いていないので、俺はここぞとばかりに質問をしてみた。


「リリー、妖精郷について何か情報は?」

「ないよ。『前回』に至っては竜族とも政治的な交流があまりなかったし、その奥にいる妖精達なんて、『闇の王』と対峙する際に協力者として候補にも入らなかったくらい」

「妖精という種族は、今から行く妖精郷以外にいないのか?」

「ゼロ、というわけではないと思う。以前私達が訪れたルーガ山脈にだって、妖精の住む場所は存在していると思う。大陸各所に目撃例があるから」

「目撃……というレベルだと、人間と交流しているわけではないのか」

「山に近い村であれば迷い込んだ妖精が現われるケースもあるけど、基本的に人里には近づかないから」

「何か事情があるのか?」


 そんな疑問にリリーは小さく苦笑した。


「過去、妖精達のことを調べるべく捕獲作戦とかやった歴史があるくらいだし」

「ああ、なるほど」


 後ろ暗い何かがあると。


「ただまあ、そういったことがあって人間と妖精は過去に対立していた……けれど、帝国の法律では妖精を脅かしたら重罪と決めているし、もし何かあれば徹底的に調べる仕組みはできてる……帝国側としても、妖精達と波風を起こしたくないから」

「それは……どうしてだ?」

「見た目に騙されやすいけれど、妖精達はそれこそ竜族と比肩しうるだけの力を持っている。小さな妖精が大きな雷を放つなんて普通にある……それだけ卓越した魔法技術を持っている」


 下手に対立したら危ないのはこちら、ということか。


「そうした技術があるからこそ、ゴルエンは今回私達に良い武具があるとして紹介したわけだね」

「なるほどな……俺は妖精と出会った経験は皆無なんだけど、他の皆は?」

「あるわけないでしょう」


 と、クレアが首を振る。


「そもそも私はこんな山奥には来なかったし」

「例えば山奥で修行をしている剣士を訪ねたりとかは……?」

「どういう状況なの? それ。私が求めているのは実戦的な剣術。毎日素振りだけしている技術に興味はないわ。そういうのって、得てして私の剣に対抗できなかったし」


 大した自信だなあ、と思いながらも口は挟まずにおく。実際、彼女は無敗だからな。


「リリーはどうだ? 例えば俺と出会う前とか」

「妖精を偶然平地で見かけるならともかく、能動的に会おうとしたらこんな山奥にでも潜り込まなければいけないから。私としては仕事くらいしかこんな場所を訪れる理由もないし、出会う機会はなかった」

「そっか……アゼルは?」

「竜族との話し合いで妖精の話題が上ったことはありますが、見たことはありませんね」


 ということは、完全初対面か。


「妖精郷、というのは? 俺はゴルエンからさわりしか聞いていないけど」

「私も似たようなものだよ。書物で読んだ程度」


 そうリリーは俺へと返す。


「この山脈の奥深く……山同士が交差した盆地に、隠れ住むように存在している。ただ、この盆地は結構大きいらしくて、不思議な光景が広がっていると言われてる」

「不思議な光景……ま、これは実際に目で見ればいいか」

「そして『樹の王』……妖精というのは、物に宿って成長するという特性がある。物から離れればその成長が止まるのだけど……別に死んだりはしない」

「物、というのは植物?」

「ほとんどの場合がそれだね。生き物だと動き回るから宿るのも難しいでしょう? 植物ならば根を張り生育することで魔力を常に得ることができるし、定住することができる。うってつけってこと」


 なるほど……。


「それで『樹の王』は……」

「妖精郷は、結界に覆われ隔絶とした空間になっているらしいんだけど、その結界や内側の環境を維持するために樹木を用いる。最初に妖精郷を生み出した存在が、盆地に大きな植物と結界を魔法で生み出した……それが長い年月を掛けて魔法ではなく本物の植物となり、妖精郷の維持をしている」

「すごい世界だな……俺達はすんなり入れてくれるんだろうか?」

「どうなんだろう。ひとまず妖精郷を訪れて、話を聞いてもらうよう頑張るしかないかな」


 そうリリーは応じた……予定では今日中に到着する。妖精の住まう土地……どのようなものか興味を持っている自分がいた。


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