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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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一刀両断

 破滅の竜が咆哮を上げる。どうやら動き出すつもりだと認識した直後、俺は地面を一度杖で叩いた。


 同時、地面が魔力を発し形を成す。生み出されたのは鎖。巨大化したイルバドを拘束した時にも同じような魔法を使用したが――それよりも遙かに巨大な物だ。

 鎖は一気に上空へと伸び戦闘態勢に入ろうとしていた破滅の竜の体へと巻き付いた。途端、甲高い咆哮が周囲に響く。こちらを威圧するどころか、その声によって鎖を引きちぎろうとする勢いだった。


 けれど俺は魔力を維持して難なく耐える。それならばと破滅の竜は魔力を高め強引に鎖をはね除けようとしたのだが……こちらはさらに魔力を注ぐ。結果、竜は鎖を破壊することはできず、空中で半ば止まった。

 傍から見れば人間が巨大な竜を拘束しているので、驚愕すべき状況だが……と、ここでリリーが駆けた。彼女は竜の真下へ到達すると、跳躍する。


 当然、魔力で強化しても人間が竜の所まで到達するのは難しい……のだが、彼女は突如何もない場所に足を付けると、さらに跳躍。ゲームで言えば二段ジャンプのような動き。それを繰り返し、竜へと迫る。

 空中戦などを想定して編み出した彼女の技法だ。とはいえ技を習得した時は『聖皇剣』を所持していた時だったが、先ほどの笑み――つまり、使えるというわけだ。


 一方でクレアとアゼルは地上にいる。アゼルはリリーの補助というか援護をすべく構えており、クレアはその護衛という形。その中で竜はこちらの動きを察知した。下から来るリリーの姿を捉えると、鎖で拘束された状態で――口を大きく開けた。

 ブレス攻撃だと悟った瞬間、口の中が突如真っ赤に染まった。それと同時に放たれたのは、巨大な火球――それはまさしく隕石と呼ぶべき巨大な塊。もし地面に着弾すれば、周囲の物を一切合切破壊し尽くす恐怖の象徴となっていたことだろう。


 火球に対し、まずリリーは避けることを選択。そして応じたのはアゼル。両手をかざすと同時に結界を構築。直後、炎とアゼルの魔力が激突した。直後、視界が赤く染まる。

 轟音が周囲に響くと巨大な炎が徐々に結界を押し通ろうとする――が、アゼルは堪える。大丈夫かと問い掛けようとした矢先――彼は俺を見て小さく笑った。


「ご安心を……確かに現段階で僕はまだ、力が戻っているわけではないです」


 そうアゼルは切り返す。そして、


「しかし、闇の眷属が残した残滓……それが破滅を呼ぶ竜だとしても、僕らの相手はその本体。なら、このくらいの障害は取り除けなければ――でしょう?」


 アゼルの結界が押し込まれていく……が、それはわざとたゆませているのだと俺は直感した。

 これはもしや――そう心の中で呟いたと同時、結界が突如跳ね上がった。それにより、魔力の塊である火球が見事に跳ね返り、破滅の竜へと突き進む。


 刹那、それが直撃した。上空で炎が噴き上がり、自分自身が発したはずの炎をその身に受け破滅の竜は雄叫びを上げる。


「効いているな」

「あれはあくまで仮初めの竜。炎に耐性があるとか、そういう能力を付与しなかったのでしょう」


 そうアゼルは解説する……と、


「アゼル、それらのことについてわかった上で跳ね返したのか?」

「おおよそ、ですけどね」

「なるほど……全盛期と比べればまだまだとはいえ、形は成したってことか」


 俺の言及にアゼルは小さく頷く。彼の能力――俺のような万能性を所持していた『前回』のアゼルだが、その力の一端をここで示すことができたわけだ。

 さて、問題は竜だが……体を震わせ炎を消した。そして双眸には明らかに怒りが。


「……竜族からすれば、憤怒の形相は絶望的なものに映っていることでしょう」


 そうアゼルが述べる。


「しかし、僕らからすれば……」

「ま、そういうことだな……それじゃあ、やるか」


 杖をかざす。そして魔法を行使――といっても攻撃魔法ではない。それは強化魔法。たった一度、瞬間的に強化できれば良いので、持続時間は極端に短く、その代わりに脅威的な力を与えるもの。

 その対象は――竜の頭上をとったリリーだ。


「派手に――ぶちかませ!」


 俺の声が届いたのかわからないが、リリーは竜の頭上へ真っ直ぐ飛来する。剣を上段に構え、落下しながら……その剣を振り下ろすのが、小さいながらはっきりと見えた。

 それと同時に生じたのは、まず閃光。次いでザアアア、という竜の体を駆け抜ける斬撃の音。それを聞いた瞬間にクレアは指をパチンと鳴らした。成功だ、と言いたげなものだった。


 俺は鎖の拘束をさらに強める。それは破滅の竜の動きを制限するのではなく――ドオン、と爆発音にも似た重い音が大気を震わせた。それと同時に生じたのは、破滅の竜の体に亀裂が走り、体が半分ずつに分かれていく光景だった。


「……最後の最後まで竜族ロックは抵抗したが」


 俺は鎖で竜の巨体が地面に落ちないようにしながら、告げる。


「無事に、作戦を遂行できたな」

「そうですね」

「竜族からすれば、あれだけの存在を一撃で、と思うところかもしれないけれど」


 クレアが小さく呟くと、俺は肩をすくめる。


「俺達の最終目標は、あんなものじゃない……それこそ、アイツを一撃で倒せるくらいの力がなければどうにもならない……現時点でそのくらいのことはできないと、戦う資格すらない……そんなようにも思える」


 俺が語る間に、人影が近づいてくる。見ればゴルエンの姿が。


「さすが、だな」

「見た感じ、そう強い魔力を放っているようには見えなかった。もちろん竜族にとっても脅威だとは思うが」

「……あの修羅場をくぐった者達だ。その強大さを考えれば、如何ほどのこともないということか」


 苦笑するゴルエン。次いで周囲を見回し、


「被害は奇跡的にゼロだ。これについては深く感謝する」

「きちんと報酬は頼むぞ」

「わかっている」

「それと今回は……『前回』と違って、帝国の方にも顔を出してくれ」


 俺の要求に、ゴルエンはキョトンとなる。


「どういうことだ?」

「闇による被害が拡大した要因は、情報取得の遅さもあった。各種族間で満足に連絡を取り合うこともできなかった……そのことが間違いなく被害を拡大させた一因だ。『前回』の戦いにおいて、全てを飲み込むほどに肥大した『闇の王』……あれも、初動で動いていれば、対処できたかもしれない」


 『仮面の女』が間違いなく種を蒔いている。それを早期に摘み取ることができれば、確実に『前回』とは異なる結末になる。


「今回の一件、さすがにリリーのことも帝都に知られるだろう……アゼルも動いたことだからな。よって、リリーの立場をよくする意味でも、ゴルエンの方から予め話を通して欲しい面もある」

「なるほどな。ま、『闇の王』に関する情報を共有するのは賛成だ。そちらは確か『森の王』と連絡を取れるらしいが……それを通じてこちらから話をしてもいいか?」

「ああ、構わない」

「なら、事後処理が終わり次第、今後の方針を決めよう。その中で、報酬についてもしっかりと説明する」


 ゴルエンが語る間にリリーが戻ってきた、怪我もなく、軽い足取りの様子を見て俺は内心安堵する。


「終わったけど、これから私達は?」

「後のことはゴルエン達がやってくれる。もう出番はないだろ」

「そうだな。長い一日だったが……ゆっくりと休んでくれ」


 俺達は一斉に頷く――ひとまず『仮面の女』の目論見を潰すことができた。今回もまた、勝利と言ってよさそうだった。


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