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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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災厄の獣

 階段の先には壊れた両開きの扉が一つ。そしてその奥からずいぶんと濃い魔力を感じ取れた。


「地下室は石造りの大きな研究室だったはず……そこの魔物が暴走して、肥大化したっていうのが顛末かな」

「魔術師は制御に失敗したと」

「そうだと思うけど……魔術師自身が本当に死んだのかわからないし、断定的なことは言えないな」


 そこで俺はリリーに告げる。


「俺にやらせてくれ」

「手出しはするなってこと?」

「ああ。俺は前回、あの魔術師に引導を渡せなかった。今回は屋敷にいないようけど、せめて魔物くらいは自分の手で片付けたい」

「わかった。いいよ」


 こちらの言及に従うリリー。それと共に俺達は扉を抜ける。

 明かりで照らすと、真正面に魔物が見えた。なおかつその姿は――


「……デカいな」

「うん」


 感想に対し淡泊に答えるリリー。そして魔物は、明かりに反応したか唸り声を上げた。

 その姿は、巨大な獣……頭部は一言で表すならば獅子だろうか。四足歩行する獣だが、その大きさは天井のかなり高いこの地下空間が狭く感じてしまうくらいのものだ。


「これを放置しておくのは、さすがにまずいだろ」

「レイトがいなかったら、それこそ騎士が百人くらいは必要だろうね」


 のんきに言っているが、町に現われたら大災害クラスの魔物に該当するだろう。百人とリリーは言ったが、それでも足らないと思う。大規模な討伐隊を編成する必要性があるかもしれない。

 その巨大な体で蹂躙するだけでも脅威だが、抱える魔力量もまた相応に大きい。屋敷入口ではわかりにくかったが、間近に迫った時点で明確にわかる――これは間違いなく、森に魔物を食らい続けた結果、


「実験で用いていた魔物が肥大化した、ってところか?」

「そういう可能性が高そうかな」


 俺の呟きに賛同するリリー。それと同時、巨獣がこちらに対し威嚇のため、雄叫びを上げた。


 ――オオオオオオ!


 室内全体が振動。こちらを威圧するだけの咆哮だが、巨体故に部屋を揺るがし、戦闘経験を持つ兵士ですら気絶しそうな圧迫感を与えてくる。

 ただ地下室が壊れるようなことにはならない――というか、どうやら石材は魔力を弾く効果を持っているようだ。これなら俺が派手に暴れても崩れることはなさそうだ。


 そして――巨獣には申し訳ないが、威嚇は俺とリリーには一切通用しない。


「それじゃあ、やるか」


 小さく呟くと同時に俺は杖を構える。といっても俺の魔法は別に杖から射出する必要はないのだが……手から出すとかよりこういうやり方ならスムーズに魔法を使うことができるし、威力も出やすかったりする。

 なぜかというと俺の魔法は想像力によって威力が向上する……形から入った方が効果が上がるのだ。


 さらに巨獣が雄叫びを上げる。それに対しこちらはまず、杖先から魔力を発し牽制的な意味合いを込めて雷撃を放った。

 暗闇で満たされる部屋に生じた閃光。一瞬で巨獣の頭部に着弾すると、盛大な破裂音が生じ、敵は小さく呻いた。


「十分に通用したみたいだな」


 頭を振る様子を見ながら俺は呟く。ただ巨獣の戦意はまったく衰えていない。

 さらに雄叫びを上げる相手。同時、前足を一歩踏み出しズドンと重い音が建物に響いた。


 威圧感が増していく……が、俺はさして気にすることなく次の魔法を発動させる。


「元の世界で訓練はしていたけど、実戦はできなかったからな……ここで勘を取り戻しておかないと」


 そんな言葉さえ発しながら俺はさらなる魔法――火球を生む。大きさはバスケットボールくらいで、巨獣からすれば種火程度のものだろう。

 だが俺はそれを、魔物へ発射――敵は大きさから回避できるほどの余裕はなく、再び頭部へ直撃した。


 次の瞬間、轟音と共に視界に赤に染まった。小さな火球はそれだけ魔力を凝縮させた結果であり、炎を噴き出し巨獣の頭部を炎がなめ回す。

 それにより魔物の雄叫びが悲鳴に変わった。唸るようなその声は痛みを感じているのだと察することができ、俺の魔法がきちんと通用することが理解できた。加え、その様子から炎があまり得意ではないようだ。


「この様子だと全力なら――」


 刹那、魔物が俺へ向け前進――いや、それは俺とリリーがいる所へ半ば飛び込むように進撃してくる!


「おっと」


 だが俺は冷静に対処。杖の先端でコン、と床を一度叩く。すると俺の正面に、半透明の青い壁が現われた。

 それは俺達と巨獣を隔てるような形で形勢。つまりこれで体当たりを防ごうというわけだが、傍からすれば無謀と思える光景だろう。


 果たして――巨獣が壁に激突する。俺の魔法を認識していても、破壊できると思ったかもしれない。

 だがその直後、巨獣は弾き飛ばされた――俺の勝ちだ。


「魔力の制御も上等だ」


 内にある魔力についてはきちんと使えている。慣らし運転にはなったか。

 巨獣としては、俺達を蹂躙するつもりだっただろうが……残念ながら、食われる側だ。


「それじゃあ終わりにさせてもらおう」


 杖を構え、本格的に魔力を高める。それと同時、巨獣の動きが止まった。気配を感知する能力は高いようだな……察したようだ。俺の力を。

 ここから巨獣を仕留める魔法を頭の中で構築する――この世界において使える『魔法』は「思い描いた力を再現する」ことにあるため、基本的に使用者の思考によって魔法の威力などを自由に決められる。


 リリーが持つ『魔装』の場合、武具などに封じ込められた力しか発動できない。それが『聖皇剣』みたいに膨大ならば魔法に近いこともできるけど、それは例外中の例外。一方で俺の魔法は頭の中で考えた通りに力が発動する……先ほどまで俺が放った雷撃とか障壁も、俺が想像した通りの効果を発した。


 なお、魔法がより強力になればなるほど強いイマジネーションが必要となる……ここで俺が使ったのは元の世界の知識。そう、ゲームとかマンガとかアニメとか、そういうものの中に出てくる魔法や兵器。それをイメージして、敵を打ち破る――


「炎が苦手みたいだから、これでいくか!」


 言いながら俺は杖を頭上に掲げた。頭の中のイメージを膨らませ、さらに手振り身振りを加えることで思考を魔法発動一点に染め上げる。そうすることで雑念を取り払い、威力も高まっていく。

 杖から炎が湧き上がり、一気に形を成す――生まれたのは、不死鳥を象った炎の化身だった。


「終わりだ!」


 杖を振る。直後、不死鳥が巨獣へ向け突撃を開始した。それに対し相手は自分を奮起させるためか再度咆哮を発し、真正面から受けきろうとした。

 そして両者が激突した。直後起こったのは炎に押し負ける巨獣の姿。不死鳥は頭部に直撃した後、形をなくし巨獣を取り囲むように炎が荒れ狂う。


 身動きがとれなくなる巨獣。俺の方へ一瞥をくれたようだが、炎に焼かれその瞳も段々と力をなくし……やがて、ボロボロと消し炭のようになって倒れ伏した。

 ズウン、と重い音を響かせ動かなくなる巨獣。地上に出現すれば多大な犠牲が生じる出あろう敵であったが、俺に掛かれば瞬殺だ。


「よし、これで終わりだな……リリー」


 名を呼び戻ろうと言おうとしたら、彼女は何故かニコニコしていた。


「……どうした?」

「相変わらずだな、と思って」

「俺の魔法が?」

「ううん、違う。相変わらずレイトは格好いいなあ、と。好きになって良かったなあ、って」


 ……照れもなくよく言えるな。いや、告白までしたので開き直ったのか。

 ともあれ、決着はついたので戻ることにする……さて、自分の手で魔術師に引導を渡すことができたかな……そんな風に思いながら、俺はリリーと共に地下室を後にした。


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