悪いのはだれ?
「ごめんなさい。どうすればいいかなんて、私にもわからない。」
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始まりは、私だった。悪いのは私なのだと思う。
あなたのスマホがキラリと光った。
あなたに伝えると、適当に見ていいと言われたから、画面を操作し開いてみた。
送信者は「aki」。内容はスタンプ。
ハートマークいっぱいの「お疲れさま。」。
ここでやめておけばよかった。
つい、スクロールして過去の履歴を見てしまった。
内容は仕事のこと。
打ち合わせが…、会議は…、誰と誰が結婚した。
他愛もないはずが、所々の絵文字が、顔文字が、私の胃を重くさせる。
もうやめようとしたとき、あなたからの送信内容が目についた。
《残念だけどいけないな。久々に声聞きたかったわ。》
どうした?と問うあなたにスマホを差し出す。
だれ?っというと、1拍おいてから、上司と答える。
女?というと、男だなと言う。
ずいぶん可愛らしい上司ね?というと、そういうもんだろと言って部屋を出ていく。
一切私を見なかったあなたをみて、嘘をついてるのがわかる。
胃が、内臓が大量に汗をかいている。
熱くなって、溶けてしまいそうで。
追いかけて、叫んだ。
なんで嘘つくの?
女でしょ?
上司にタメ口きくの?
やましくないなら普通に話せるでしょ?
冷静になんてなれなかった。やり取りよりも、嘘をつかれたことが許せなかった。
ほら、ブロックして削除もしたよ。
何てことないように言うあなたが宇宙人のようにみえる。
ほんとに上司ならブロックなんて失礼なことできないよね?
なんで嘘ついたの?
こちらに近づいてきたあなた。
さっきまで
スマホが光るまで
最愛で唯一だと思ったあなたが
気持ち悪くて仕方がない存在になってしまった。
ごめん。つい。お前が嫌な思いするかと思って。でも、ほらちゃんと消してあるだろ?どうせたまにしか連絡来ないんだし、消したって支障ないだろ。お前が嫌だと思うなら、全部消してもいいし、説明もするから。
やけに優しくゆっくり
子供に諭すように
語りかけてくるあなたに
吐き気がした。
嫌な思いをすると思うなら、なぜあのようなやり取りをしているのか。
説明するというなら、なぜすぐにちゃんと説明してくれなかったのか。
すべてが後付けで
これから何を話されても
すべてが嘘にしか思えない。
ブロックしたからなんだと言うのだ。
解除したら?
別なアカウントにしたら?
そもそもメールも電話もある。
四六時中一緒にいるわけでもない。
信用できる訳がない。
「ごめんなさい。別れてください。」
は?こんなことで?と慌てるあなた。
近づいてきたとたんにからだが震える。
自分でもわかってる。
些細なことだ。
浮気していると確信できる内容でもない。
本当に勘違いで、優しさで嘘をついたのかもしれない。
でも
わたしは許せない。
これからあなたがスマホをさわる度に
きっと思い出す。
あなたが話す度に
また嘘だと疑う。
潔癖なのかもしれない。
でも
でも
これで2度目だから。
お願いだ。なんでもする。どうすればいい?必死にいうあなた。
「ごめんなさい。どうすればいいかなんて、私にもわからない。」
信じきれない私。
部下にハートマークを送る女上司。
嘘をついたあなた。
悪いのはだれ?