人外勇者その1
(……ヒト、…マモル、……ユウシャ、…ツトメ、……チカラ、…タリナイ、……ツヨク……ナル)
この世に生を受けて初めての夜、自身が勇者である事を知った。
何をすればいいのかはこの身体に刻まれた紋章が教えてくれる、それでも自分が弱ければ意味が無い、勇者としての使命を果たすために強くなる事を自身に誓い、空に浮かぶ聖なる星の光を受け、勇者は夜の森を突き進む。
ーーーーーーーー
魔王誕生の報せが各国から発表されてから三ヶ月、二人の男は周囲を警戒しながらとある森の中を進んでいた。
「いやぁ、不思議な位魔物が出ませんね、先輩」
「あぁ、だからと言って警戒を怠るなよ、魔王の誕生以来各地の魔物が活性化、凶暴化しているらしいからな」
「そのぐらい分かってますよ、にしてもいつになったら勇者様とやらが見つかるんでしょうね?もう三ヶ月ですよ三ヶ月、いい加減手がかりの1つでも出てきたっていいくらいじゃないですか?」
「各国総出で探してるんだ、もしかしたらもう見つけてる知れないぞ……っと、カイル止まれ、魔物だ」
「あれは…、小さいし…ベビースライムですか?さっきからキョロキョロして、まるでなにかを探してる様な…?」
「スライムにそんな知能は無いはずだがな。
それとカイル、よくコアを見てみろ、変な模様が付いてる。もしかしたら新種かもな」
「なら捕まえますか?研究会に渡せばがっぽりですよ」
「そうだな、本来の目的とは違うが捕まえておくか。スライムの捕らえ方は分かってるな?」
「大丈夫ですって、まだこっちに………って、……ねぇ先輩、あれは何でしょうか」
ベビースライムは触手で✕を作っている。
「見事な✕だな」
「あれこっちに気づいてますよね絶対」
「そうだな」
「捕まえ…ますか?」
「いや辞めておこう、迂回して先に進むぞ」
「はい」
ベビースライムを避け更に森の奥に二人は踏み込んで行った。
(……ダメ、……イッタノニ…)
そんな二人を見失わないようにベビースライムもまた森の奥に進むのだった。
ーーーーーーー
二人はベビースライムを避け、更に森の奥まで足を伸ばした。
それ故に彼等は出会ってしまった。
その魔物に。
「くそったれが!カイル、お前だけでも逃げろ!!生きてこの事を街に知らせるんだ!!」
「でも先輩!そんな奴を1人でなんて!」
二人の前に立ちふさがるのは一体のレッドロックウルフと言う至って一般的な魔物だ、カイルでも二、三体であれば難なく狩れる位の強さの……はずだった。
通常であれば1m程度の筈のレッドロックウルフ、だが目の前にいるそいつは優に3mを超える巨体を持っていた。
明らかに異常である。
レッドロックウルフが二人を弄ぶ様にその巨大な爪を振るう。
「ぐああああ!?」
「うわあああ!?」
重なるように吹き飛ぶ二人。
「……う…あぁ……」
「…あ…がぁ……」
そこに追い討ちとばかりに振り下ろされた爪に二人は死を覚悟した。
((……こんな所で))
そんな二人を庇うように現れた全身青色の少女、彼女はその手に持った白い剣で振り下ろされた爪を防いだ。
「……ダカラ、…ダメ、……イッタノニ」
そんな事を呟きながら
ここまで読んでいただきありがとうございました!