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終わりなき築城

 翌朝、マーロウ大隊は移動を命じられた。大隊の兵士達はテントを畳み、すべての装備を持って丘のある開けた場所までやってきた。

「今日は堡塁構築のため作業を行う。ここがお前らの死に場所だ」

 そう軍曹に言われて兵士達は辺を見渡した。森と山。どこにでもある風景。畑がまばらに広がっていて、他にあるのは農家の作業小屋くらいだった。

 敵は本当にやってきた。

 ウォルターが報告したとおり、ラゴールの本隊は街の北に陣をはっていた。

 マクルーアンは素早く動いた。彼はアングリアの全軍を北へ動かした。

 敵が街を直に砲を撃ち込めない位置にいるうちにこちらとの会戦に引きずり込まなければならない。

 そして森と山脈に挟まれた、名前もない小さな平原で両者は対峙することになった。この平原は森に視界を阻まれてナレッジヒルの街を攻撃することは出来ない。

 将校達は当初、これで五分五分の勝負に持ち込める、街に被害が及ぶことはないと安堵していた。

 だが、戦場に到着すると新たな問題がすぐに出てきた。

 付近の詳細な偵察で、森に隣接してなだらかな丘があり、そこから街を一望できる事が判明した。

 両軍が対峙する平原からは街は直接見えなかったが、その丘からは市街地が一望できる高さであることが分かった。

 将校たちは偵察の結果を聞いて、敵が街を見下ろせる小さな丘を占領し、そこから大砲を撃ちこむ可能性があると考えた。

 作戦案はすぐに修正され、籠城と会戦の折衷案のような形に落ち着いた。それは街を先ほどの小さな丘を中心に五つの四角形の堡塁を配置し、それぞれに一個大隊ずつ配置して有利な地形で防衛を行う物だった。

 これならば、民兵主体のアングリア軍も倍近いラゴールの軍勢に伍する事が出来る、という考えあっての事だ。

 この丘を取られればアングリアは負けるだろう。だが、敵が丘を奪取するにはこちらの堡塁からの射撃を受ける必要がある。そう簡単には彼らの手には落ちないだろうとマクルーアンも考えているのだろう。

 明日はこの小さな丘が激戦の舞台となる。

 アングリア軍は戦いに備え、菱型の堡塁を敵の目標になるであろう丘を取り囲むように配置した。

 堡塁は五つある。古代の英雄から名をとって、西から順にヘクター、ライサンダー、アキリーズ、ネスター、シーシュースの名が付けられていた。

 マーロウ大隊は他の民兵隊と共同して一番西のヘクター堡塁を守ることになっていた。

 ようやく戦いの覚悟を決めかけていたマーロウ大隊の兵士達だったが土木作業を命じられると、やる気を失うものが続出した。

 寄せ集めの集団に戻った彼らの作業効率は最低と言わざるを得なかった。それでも、自分の墓穴は自分で掘れと言わんばかりに、作業は急ピッチで進められた。

 兵士達はまず穴を掘って塹壕のような溝を作る。そして掘り返した土を樹の枝を編んで作った丸い籠に積み上げて堡塁の壁にする。さらに森から切り出した木材で補強し、固める。壁は更に斜めに土を盛ることによって砲弾を弾きやすくし、堡塁が崩壊するのを防ぐ。

 アルもスコップを地面に突き立てて、穴を掘って入った。地面は固く湿った質の土なのでなかなか上手くいかない。

 土埃が鼻に入り、汗に混じって服の中でじゃりじゃりとこすれ、汗がその間を伝う。

 堡塁の胸壁の上では、工兵隊の将校が盛んに大声を上げていた。

「少しでも深く掘れ、壁を厚くしろ! 死にたくなかったらな」

「俺達が死んで墓穴から蘇らないようにあんなことを言っているんだ」

 デイヴが、声の主を仰ぎ見て毒づいた。

 マーロウ大隊の中には道具を投げ出す者いたが、ほとんどの者は鞭打ち刑を恐れてしぶしぶ作業に従事するのだった。

 ついこの間まで畑であり、道であったところを掘り返す。土地の境界も関係なく、ただ一人の躊躇もなかった。

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