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つきみ9

 和樹と淋の隙間から覗いていた由紀が言った。


 ジリジリと中西達に近づいていく淋と和樹。

「なにもしてねぇだ!」

「ふざけたこと、ぬかしてんじゃねぇぞ!」


 淋の後に和樹が、今にもぶちぎれそうに詰め寄る。


 中西達は、震えながら持っていた服を床にずり劣るように離してしまった和樹は、またガンとロッカーをぶん殴った。


「ご、ごめんなさい……」今にも泣き出しそうに震える声をあげる中西。


「ごめんですむか!」淋が平手でロッカーをダンと叩く。


「てめぇら、二度とゆきに近づく何じゃねぇ!」


 中西達を窓際に、追いやる和樹。


 由紀は床に落ちた服を拾い、その場に崩れ落ちて座り込んでしまった。『ひどい…』皆に聞こえるか聞こえないくらいの小さな声の由紀。


 和樹は振り向いてそんな由紀を見つめて、絶えられなくなり中西達睨んで言った。


「今すぐここから、消えろ!」


「ごめんなさい」青ざめた顔のまま由紀に言うと慌てて更衣室を出て行く中西達。


 3人が出て行った後、周囲に重い空気が流れていた。


 和樹はゆっくり由紀に近づいて、抱き起こすと。


「あんたのせいで…あんたさえ、近づいてこなかったら、こんな事には、ならなかったのに…」


 優しく抱き起こされた由紀は堪えていたものが外れ涙が溢れだし、和樹の胸をトントン叩く。


「なんで、私なの?…ほかにもいるのに、なんで…なんで…」


 由紀をそっと抱き寄せると、和樹は耳元で囁いた。

「俺……、お前が好きだ」


『え……』(いままでのって、嫌がらせじゃなかったの?)ゆっくりと顔を上げて和樹の顔を見つめる由紀。


 和樹はゆっくり右手を由紀の頬に添えて優しく親指で涙を拭いた。


「もう、つらいおもいはさせないからな…」ドッキとして、ただ和樹の顔を見つめるだけだった。


 淋は、そんな二人を見ると一瞬切ない顔を浮かべるが、直に微笑んで武達の方に歩いていった。


 淋の一瞬の表情を、見逃さなかった美里は、少し複雑な表情を見せてた。

「いこぜ」

 武の肩に手をポンと載せると、そのまま淋は更衣室を出て行った。


 武達も一緒に出て行く。


 美里が、更衣室の扉を閉めると淋を追いかけた。

「ねぇリン、ほんとうに、このままでいいの?」


「はぁ?なにいってんだよ?いきなり…後はカズキにまかせておけばいいじゃねぇ」


「うん、そうだよね…」足を止めて、首を横に倒して考え込む美里。


 淋はスタスタ歩いていってしまう。

「どうしたんだよ、みさと?」

「みさと、どうしたの?」

 後ろを歩いていた、武と明美が美里の所で足を止めて聞いた。

「ん?だぶん、リンさぁ、ゆきの事好きなんだよ…本人気が付いてないけど…」


「なんだよ、いきなり?!」ちょっとビックリして、美里を見詰める武。


「そうなの?」明美。


「だって、入学してゆきが熱有るのに無理して、授業受けてた時あったじゃん」


「うん、あったね」あ、あの時かと手をポンと叩く明美。


「あの時も、お昼にゆきがおかしいの、一番最初にきがついたのりんじゃん、明美一緒のクラスなのに全然わかんなかったのに…」


「あれは、分からないよ、そんなふうにみえなかったし」首を横に振る明美。


「あの時は、さすがに俺も驚いたよ、保健室連れてて、熱測ったら39.8分もあったからなぁ、ゆきあれでよく平気な顔してたよ」


「おーい!なにしてんだ、いくぞ!」スタスタ歩いて先に行っていた、淋が振り向いて呼んだ。


「うん、いくからまってて…」声を上げて答える美里。


「りんには、このことは、内緒にしてて、武喋ったら駄目だからね」(喋ったらばらすよ)武を指を指して、念をおす美里。


「あぁ、分かってるよ」


 (俺が明美の事を好きなの、今喋られちゃかなわないからなぁ)頭をポリポリ掻いて言った武。


 淋が居る所まで早足で向かって行く三人。


 皆が出て行った更衣室では……。


静かな更衣室に二人の吐息だけが木霊して、夕焼けの淡い光が二人を浮き上がらせていた。


「もう、大丈夫だかな」ドックン、ドックン、鼓動だけが、全身にはしる由紀。


 和樹の顔を見つめて、頬に添えられた暖かい手の温もりが、今までの事を忘れさせてくれる。


 和樹は由紀の腰に手を回しグット抱き寄せると、そのまま顔を寄せて口づけをした。


 (え?……)。

「ちょ…ちょっと、いきなりなにするの?」

 両手で和樹を押しても、なぜか両手に力がはいらない。


 再びグット抱き寄せられ、またキスをされた。(そんなはずない、こんなやつすきじゃない、でも……)。


 唇がゆっくり離れていく。


 由紀は目線を外して、ロッカーを見ると崩れるようにおでこを和樹の胸のトンと当てて下を向いていた。


「おまえは、これでもう俺のものだ」耳元で囁かれた。


「はぁ?…私ものじゃない」ドッンと突き放す。


「もう、はなさないからな」


 後ろに1歩下がるが前に出て行き、照れくさそうにしながらも由紀を抱き寄せる。


「わ…私……あんたの事なんてすきじゃなんだから…」


 頬を和樹の胸に当てて耳まで真赤している由紀は、ただ抱き寄せられるだけだった。 


「じゃなんで、抵抗しないんだ?」


 黙って何も答える事ができない(なんでだろう、抱きしめられるとすごい安心できるのは、なぜ?)。


「かえるぞ」手を引かれて、更衣室を出て行く。


 夕陽が廊下を照らす中、二人は正門に向かっていた。


 正門に止まっている車が夕焼けに染まる中を、車に向かって歩いていく二人。


 車に乗り込みしばらくすると、和樹は思いたったように言い始めた。


「あ、そうだ、明日から、毎朝俺の家に来い」


 (はぁ?)スットンキョンな顔で見つめる由紀。


「いいな、わかったな!」


「い、いやよ」


「おまえに拒否権などない、こいったらこい、わかった!」


 偉そうに由紀の肩に手を回し言う和樹に、だんだんイライラしてきた由紀はおもわず。


「いやったらいや」手を振り払い、窓の外向いて和樹に背を向けた。


 (ちょっとでも心を許した自分が許せない……)鞄をギュット握り締めていた。


 家の前に車が止まるが、もう外は薄暗い。


 由紀の家も玄関の街灯が点っている。


「ありがとうございました」運転者に頭を下げると車を降りようとドアを開けた。


「由紀、明日ちゃんとこいよ」

「私、いかないから…」


 背を向けたまま、答えると逃げるようにドア閉め、玄関に走っていった。


 玄関に飛び込み、すぐ扉を閉めてドアノブに手を掛けたまま下を見ていた。


 (でも、あいつの家の前を通らないとバス停にいけない、あ、そっか朝早起きすれば、顔をあわせなくていいんだ)

「由紀、帰ったの?」

 リビングの方から母の声が聞こえる。

「ただいま」


「今日、遅かったのね、何かあったの?」

 靴を脱ぎ、その足でリビングに向かい、扉を開けて中に入ると。

「今日、いじめられて…」

 素直に今日の出来事を話した

「なに!」

 テレビを見ていた、父がビックリして由紀を見た。

「でも、淋達が助けてくれたから、もう大丈夫だよ、お父さん、そんな顔しないで」

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