つきみ6
右手を上げて、普通に話しかける淋。
「そうか?普通にきたけどな」
「で、その鞄はなんだよ?」
机の上にある鞄に目線がいく淋と武。
「あぁ、これか……」ゴソゴソと鞄の中からお弁当箱を出す和樹。
「それどうしたの?」不思議そうな顔で和樹を見る明美。
明美を一度見て、お弁当に目線を落とした和樹。
(言わないでよ)皆に見えないように、由紀に服の袖を引っ張られる和樹は由紀をしばらく見つめると、顔を掻きながら間宮の方を見た。
何も答えない和樹が不思議で疑問を投げかけるように聞く明美。
「ねぇ、いつも学食の食べてるじゃない?」
「この弁当さぁ……」
皆が聞き耳を立てる、間宮達も何度もその鞄なんだよ?聞いてもいいじゃねぇか、はぐらかされていた。
「月島がどうしても、俺に食べてほしいからと言って、朝無理やり渡されたんだよ……」照れくさそうに、由紀を見ながら言う和樹。
その言葉を聞いた由紀はキョトンとした顔で和樹をしばらく見つめるが、だんだん腹が立ってきて。
「ちょっとまってよ、皆に言わない約束でしょ、それに自分が作れって言ったんじゃないの!食べなくていいから、返して……」お弁当を取り上げようとする由紀。
「やだね、ぜってぇにくう・・・」お弁当を必死に由紀から遠ざける和樹。
女の子とジャレ合う和樹を見るのが初めての皆は顔を見合わせてた後、しばらく面白そうに二人を見ていた。
食事の時間がなくなりそうになってきたので、明美と間宮が仲裁に入り。
「ゆき、もうやめなさい」由紀の両手を押さえて和樹から遠ざける明美。
「いいから離れろ……」
間宮が和樹を由紀から遠ざけて自分が居た席に座らせると、和樹が座っていた席にスットンと腰を下ろした。
「ほら、そんなにむくれないで、こっちに座って……」
「もういい!」
明美の手を振り払い、すごい怒った顔の由紀は椅子に座ると、お弁当を食べ始めた。
和樹も食べ始め、一口いれて。
「うめぇこれ……まじでつきしまが作ってるのか?」
一度和樹を睨んで、そっぽを向いてお弁当を食べ始める由紀。
明美が和樹の前をトントンと叩いて、喋りかちゃ駄目だと手を左右に振った。
(不味い事したか?)キョロキョロとする和樹に武が小声で。
『こうなった由紀に何言っても無駄だから、ほっとくしかないんだよ』
『まじかよ、じゃどうすればいいんだよ』
『とりあえず黙ってくっとけ…』
「なぁゆき、その卵焼きくれ…」場を和ませようと努力する淋を睨んで撃沈される由紀。
(怖……)少し身を引く淋。
美里と明美に(なにいってるのあほ)表情で見られる淋。間宮と安藤はキョトンして、見ているしかなかった。
由紀は食事を食べ終わると席を立ちとっとと出て行ってしまった。
「ゆき、まって……」
明美は由紀を追いかけて行ってしまった由紀はこの時、(なによ、あいつ、言わないって言ってたくせに酷いよ、東郷のばか……)と、思っていたのは誰も知らなかった。
「かずき、今のは、まずいぞ……」机を人差し指でトントン叩く間宮。
「ゆきが、あそこまで怒るの、久々に見たぞ、ありゃ完全に嫌われたなぁ……」
(不味い事言ったなぁ、睨まれるとは…)頭をぽりぽり掻きながら言った淋。そう言われると少し下を向いて黙っている和樹。
「淋、あそこであんな事言ったら余計由紀を怒らせるだけじゃん、ばかじゃないの?……」
テーブルに頬杖を付いて、あきれ顔で淋に言う美里。
「しかたねぇだろ、あれしか浮かばなかったんだから……」片腕を机に置いて、体を前に出した。
「かずき、ゆきにちゃんとあやまれよ……」武が和樹の肩をポンと叩いた。
「はぁ~……これ、つきしまにかえしといてくれ……」どうしていいのかわからない和樹は席を立つと美里に鞄を渡した。
「うん、いいけど……でも、ちゃんと謝らないと駄目だよ」美里に鞄を渡すと、右手を上げてると学食の出口に向かって行ってしまう和樹。
「かずき、ちょっとまてよ……」お盆を持って後を追いかける安藤。
「わりいなぁ、俺も行くよ」
間宮は淋達に、申し訳ないと左手を顔の前に出して、軽く頭を下げて和樹を追いかけて行った。
「ゆきに、これ返してくるよ」席を立ち学食を出て行く美里。
淋は二人分のお盆を持って返却すると、武と一緒に自分の教室に向かっていた。
教室に戻った由紀は東郷の事ばかり考えていた。
皆に見られて恥ずかしいのと、言わないって言ったのに約束を破られた事で頭にきていた。
「あの言い方酷くない?明美もそう思うでしょ?」怒り口調で言いながら自分に席に座る由紀。
「うん、あれは酷いよね、でも、私にまで内緒ってどうゆう事?」由紀の机に左手を置いた明美。
「え……それは……恥ずかしいじゃない……」両腕を机の上に載せて揃えて体に引き寄せると困った顔をする由紀。
「まぁいいけどさぁ~」そこに美里が、教室に入ってきて、明美の隣まで来ると。
「ゆき、これ……」鞄を机の上に置く美里。
「ありがとう……」
何か言いかけようとした時、着信音が流れ見ると東郷からメール、しかも昨日と一緒の内容でさらにムッとする由紀。
「ねぇ、あけみ、みさと、これ見てよ……」
携帯を前に出し見せると、読みはじる二人。
顔を見合わせて(謝れっていたのに、何このメール)読み終わると、明美が言った。
「行く事ないよ、でもちゃんと返事はしないと駄目だよ……」
それでも東郷の噂を信じている明美は、由紀が酷い目に遭わないようにと考えていた。
「えぇ~……」
とても嫌な顔を浮かべながらも、{行かない}返事を返す由紀。
予鈴が鳴り、美里は自分の教室に戻って行くと。
また携帯が鳴り{待っているから来るように、いいな!}メールが届き。
不愉快な気分になり携帯の電源を切って、鞄の中に放り込んだ。午後の授業が早く感じて、あっとゆう間に放課後。東郷の顔が見たくない由紀は。
「図書室で調べたい事があるから、付き合ってくれない?」嘘をついて、明美を誘うが。
「今日、用事があるから、いけない、ごめん」申し訳なさそうな顔を浮かべる明美。
明美と別れた後、図書室に行き、しばらく時間を潰してから、高等部の裏門に向かった。
一つ前のバス停まで歩いて、家に帰宅。
部屋に行き、携帯の電源を入れたら東郷からのメールが六通届いていたが、それを読むことなく消去し。
東郷の事を忘れようと時間を忘れて、勉強しているともう二時を過ぎていた。慌てて布団に入り寝てしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、いつもなら起きて朝御飯を作る時間、由紀はベッドの上でスースーと吐息をたてていた。
寝室から起きて来た母は台所に向かうが由紀の姿はなく真っ暗。
(珍しい事もあるものね、何かあったのかしら?)電気を点けて朝食を作り始める。
盛り付けが終わり、由紀のお弁当も作って鞄に入れると。
「あなた、ご飯できたわよー」
リビングから台所に来た父は立ち止まり、キョロキョロ見渡し。
「あれ?ゆきは……」
「まだ、寝てるみたいなの」皿テーブル並べながら言う母。
椅子に腰を下ろしお茶を飲みながら父が。
「珍しい事もあるんだな、おきてこないなんて、初めてじゃないのか?」
「はじめて、じゃない?私起こしに行って来ます」
台所を出て階段を上がり由紀の部屋の前に来ると、トン、トン、ドアをノックしても返事がない。
ガチャとドアを開けて中に入って行く。
「いつまで、寝てるの?いい加減起きないと遅刻するよ」目をこすりながら起き上がり。
「おはよう…」眠たそうな顔。
「おはよう、ほら、早く起きなさい」カーテンを開けながら言われ、母は部屋を出て台所に下りて行った。
「うん……」ベッドから降りて制服に着替えると慌てて台所に向かった。
「おはよう…」髪がボサホザのまま席に座る由紀。
「おはよう、じゃ食べようか」
食事をしながら、昨日夜遅くまで勉強してて、目覚ましを掛け忘れた事を怒られるのを覚悟で話をすると、両親は仕方ないか勉強してたんなら、許してくれた。
由紀は朝食をすませると、洗面所に行き髪を梳かして、後ろで縛っていると。
「今日お弁当、作っておいたから、ちゃんと持っていくのよ」
台所の方から母の声が聞こえ、歯を磨きながら答える由紀。
「うん、わかった」
いつもより15分遅れで家を出て、走ってバス停に行く。
ギリギリでいつも乗っているバス乗り込み、席に座ると。『はぁ~』(間に合ってよかった)胸を撫で下ろした。
学校に着いて下駄箱で靴を履き替えて廊下を歩くと、知らない人達から挨拶をされた。
「月島さん おはよう」
「おはよう……」
すれ違う人が皆由紀を知ってる様子で、挨拶をしてくる(え?なんで……)、立ち止まると。
携帯の着信音が流れ見ると、美里からのメール。{大変、昨日の東郷にお弁当を渡してる所の写真が学校新聞に載ってて、それが掲示板にはられてるの}目を疑ったが何度読み直してもかわらない、しばらくその場に呆然と立ち竦んだ。
(うそだよね…きっと何かの間違いだよ)慌ててその場所に向かった。
掲示板の前に立っていた美里に手招きされ、これこれと指を指すほうを見ると。
【激写、あの東郷和樹に彼女あらわる】でかでかと、二人の写真付きで張られている。
がやがやと集まっている人達の声が聞こえ。
「ねぇ、この子すごいよね」