つきみ4
「西高前、次は西高前」由紀は停車ボタンを押した。
バス停に着くと、乗っていた学生全員が降り始め、由紀もそれに交じって降りていく。
それぞれの学校に友達と向かって行く中、由紀は一人でトコトコと歩いていると、東郷の車が横を通っていた。
由紀は足を止めて、東郷の車を目で追いながら、ふと昨日の事が頭を過ぎる。(皆が言うほど酷い事する人じゃ、ないんじゃないのかな?)明美後で聞いてみよ。
歩き始め桜並木を通り、正門に向かい下駄箱で上履き履き替え長い廊下を通って教室に向かって行く。
教室に入るとクラスメイト達と挨拶を交わし、廊下側から二列目、前から三列目の席に鞄を掛け椅子にちょこんと腰を下ろす。
少しすると明美が入ってきて、由紀の所まで来ると。
「おはよう」
「おはよう」
「ねぇ、東郷って、本当に酷い事する人なの?」席に腰を下ろすなり由紀に言われた明美は、ちょっと驚くが。
「いきなり、どうしたの?そんな事聞いてくるなんて」
「そんな酷い事するように見えないから……」両手の肘を机の上に置いて、少し考え込む由紀。
「もしかして、きになるの?」机の角に手を添えて、顔を斜めに倒しながらの明美。
「そんなんじゃないよ、ちょっときになっただけ……」
「じゃ淋に聞いてみるのがいいよ、仲いいみたいだから、私よくは知らない…………」
「え……淋仲いいの?」ちょっと驚いた顔して、明美を見る由紀。
「あれ、知らなかったの?お昼にでも聞いてみるといいよ」由紀がその事を知らないのを承知で言う明美。
そんなの知らないと首を横に振る由紀。
「うん、そうする」
そう言うと明美は由紀の後ろの席に座った。
午前中の授業が終わり、お昼の準備をして学食に向かう二人。
いつもの様に、由紀は席を取りに行く。
明美がメニューを選んでいると、淋達も入ってきた。
なにやら楽しげに話しをしながらセットメニューを注文して出来上がるのを待っている4人。
番号を呼ばれ、明美達はまとって由紀の所まで来ると、いつも座っている席に座り。
「ねぇ、淋、東郷の噂って本当なの?」席に座っていきなり、由紀から聞かれた淋は少しびっくりして由紀を見る。
「どうしたんだよ、いきなり?」
美里は前に少し体を倒して由紀の方に顔を向ける、武も興味津々で由紀の方も見ている。
「だってさぁ、昨日酷い事されると思ってたのに、何もされずに家に送ってくれただけだし、あけみから聞いてた話、ほんとなのかなって思って……」
「そうか、気になるのか………本人が居るから聞いてみたらどうだ?」
東郷に気がついた淋がテーブルに肘を置いたままニヤニヤしながら指を刺す。
「え?」
由紀は(嘘でしょ?冗談だよね?)淋の顔を一度見るが、淋はにやけ顔で少し首を横に振り(冗談じゃないから後ろを見てみろ)、しきりに指を刺す方に顔を向けた由紀。
明美と美里も(え?ほんとに?)後ろを振り向く。
お盆を持ったまま誰かを探して辺りを見回している東郷達が目に飛び込んでくる。
由紀は(なんで、いるのよ)直前を向いて顔を下に向けた時。
「おーい!かずきーーー」
淋が大声で呼んだ事に驚いた由紀は(え?何で呼ぶのよ………)淋の顔を見るが、淋はそんな事はおかまいなしで手招きをしている。
呼ばれた東郷は(お、そんな所に居たのか)少し笑顔浮かべお盆を持ってこっち歩いてくると。
「よ、いつも大学の学食で食べてるのに、こっちに来るなんて珍しいな?」
にやけ顔の淋は右手を上げて、和樹に言った。
「よ、気分転換だよ、たまには違った所でくいたいとおもっただけだ」
由紀は、淋が何か変な事を言わないかヒヤヒヤしながら、ちょっと不安そうな顔を浮かべて淋を見てる。
「そうか………」
「ここ空いてるなら、一緒に食べてもいいか?」
「いいぜ、とりあえず、すわれよ」
3人は席に着いた、由紀の隣に和樹、由紀の前に親友の間宮海その隣に親友の安藤優といった感じに座っている。
由紀は(一緒に食べるのはいいけど、何で私の隣に東郷が座るのよ)、と思っていった。
「間宮と安藤と、こうして話をするのは、初めてか?」
東郷は由紀の方を見ながら、ちょっと首倒して聞いった。
「昨日話したのが、初めてだよ?」
(でも、どっちがどっちだか分からないよ)、一度二人を見てから、和樹の方に顔を向ける。
「じゃ紹介する、眼鏡掛けてるのが安藤で、掛けてないのが間宮だ」
「おい、かずき」
それを聞いた二人は、ちょっとまてと声をそろえて言った。
「おまえなぁ、なんつう紹介のしかたするんだよ………」呆れた顔の間宮が言った。
「なんだよ、その紹介の仕方は………しんじられねぇよ」箸を手に持ったまま手を前に出す安藤。
由紀はキュトンと和樹を見ていると、今度はちゃんと二人の紹介をされた。
(そんなに酷いことする人じゃないんだ)由紀はほっとして、和樹の話を聞いた。
和樹は由紀のお弁当に気が付いて。
「それ、月島が作ってきてるのか?」
「うん、自分で作ってるよ」不思議そうな顔をして、和樹の方を見る由紀。
「そうか~」
少し笑みを浮かべて、和樹は前に座っている、間宮の方に顔を向けて、ゲームの話をしだした。
淋達も加わりその話で盛り上がる5人。
ゲームの事がまったく分からない由紀と明美と美里は話しに付いていけずに、皆の話に合わせるようにして、ただ頷くだけだった。
そんな楽しい食事が終わり、皆と別れて教室に向かう由紀と明美。教室に戻り席の腰を下ろすと、メールが送られて来た。
見ると放課後正門で待っていろ、昨日と一緒の内容で、少し複雑な気分になり、後ろに席に座っている明美の方を向いて。
「ねぇあけみ、また東郷からメールが着たんだけど、どうしよう………」
携帯画面を明美に見せならが、ちょっと困った顔する由紀。
振り向くなり携帯を顔の前に、だされた明美は少し後ろに仰け反りながら。
「ちょっと、近い………」
携帯を手に取って、読み始めた。少し考えてから、携帯を返して由紀に言った。
「家まで送ってくれるだけでしょ?」
「そうだけど………」
「それに変な事されるわけじゃないし、そんなに心配する必要ないんじゃないの?」
「うん、それは心配してないよ」