つきみ3
美里が心配した顔になり淋に聞く。
「今日も由紀を家まで送るだけって言ってたからな」
「それなら安心だね」美里と明美は顔を見合わせてほっとする。
そんな会話をしながら皆は帰って行った。
由紀はそんな事とは知らず、運転手が居るとはいえ、東郷と二人だけになっている状況は変わりはなく、不安でたまらない。
運転席の後部座席に、座っている由紀は斜め45度ぐらいに顔を倒して膝の上に鞄を載せて、その上に両手を置いていた。
隣に座っている東郷が由紀の方に顔を向けて、話し始め。
「月島の家って何処だよ、送るから教えてくれ」
そう言われた由紀は顔を上げて東郷の方を向いて、『え?』小さい声で言う。
聞き取れなかった東郷は、首を少し倒して。
「今なんって言った?」
「私の家?」
不思議そうな顔を浮かべる由紀。
「あぁ、送って行くから、教えてくれ」
それを聞いて少し安心をして帰り道を説明する由紀。
「なんだよ、俺の家の隣じゃねぇか」驚いた顔をする和樹。
「嘘、私の家の隣なの?」
由紀は二ヶ月半前に、こっちに引っ越してきたばかりで、隣近所をまったく知らない、まさか東郷の家が隣だとは思いもしなかった。
そんな会話をしているうちに家の前に車が止まり。
「月島様、ここでよろしいですか?」運転手に聞かれると。
「はい、ここでいいです」
運転手に頭を軽く下げる由紀。
車の扉を開けて降りようとした時。
「また連絡する」左手を上げて、和樹は言う。
一度和樹の顔をしばらく見て、結局何も答える事ができずに車を降りる由紀。
由紀を降ろすと車は走り始め行ってしまう。
由紀は複雑な思いをしていた、皆から聞いていた話とはまるで違っていたから、何か酷い事をさるとしばかり思い込んでいた、ただ家に送ってくれるとは、思っていなかった。
走り去る東郷の車をいつまでも見送っていた。玄関に向かいドア開ける。
「ただいま」
「おかえり~」遠くの方で母の声が聞こえる。
玄関から直の階段を上がり、奥に見える父の書斎と両親の寝室を横目に階段を上がって直の自分の部屋に入って行く。
由紀の部屋からは東郷家の庭が見える。
着替えが終わると勉強机の椅子に座り携帯を出し、明美と美里にメールで家に送ってもらっただけだと心境報告をした。
すぐに返事が届き読むと{東郷に送ってもらって、今どんな気持ちなの?}書かれ。複雑な思いがして返事に困ってしまう。
(何で二人してそんなこと聞くの?)考えてみたものの{わからない}と、返事を送る。
この時の明美と美里は、東郷の気持ちを知っていたので、由紀が今どんな気持ちでいるのか確かめるように、遠まわしに聞いたのだが、由紀はそれにすら気がつかなかった。
それからは二人ともそれ以上、東郷の事については触れず、普段とかわらないやり取りをして。{また、明日、学校でね、おやすみ}挨拶を送った後、布団に入り寝てしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、ピピピ…ピピピ…ピピピ……由紀は目覚ましの音で目が覚め、むくっと起き
「ん~~~」
背伸びをして、目覚ましを止める。ベッドから降り、奥のクローゼットを開けて普段家でている服に着替えた後。
階段を下りて、玄関から西側にある洗面所に向かい顔を洗って、背中まである髪をとかして、後ろで束ねて縛ってから、洗面所から廊下を挟んで反対側の台所に向かう。
朝6時でまだ薄暗い、ダイニングキッチンの電気を点けて、朝食とお弁当を作り始める。
中二の時に父からお弁当を毎日に作るなら、朝食も由紀が作る様に言われた駄目、それを聞いた母は大喜びしていたのだが、(え~~)と、思いながらも、その日からずっと毎日、由紀が作っていた。
最初は簡単なものしか作れなかったが、母の教え方がよく、今では冷蔵庫に有る物料理ができるまでになっていた。エプロンをして、台所に立つ由紀は手馴れた手つきで、トントンと包丁を使い手際よくお味噌汁を作ると、冷蔵庫を開けミニトマト、キャベツ、卵、ベーコン、鮭を出してサラダと出し巻き卵を作り終わると、お弁当のおかずを作り始める。
6時15分になると、両親がリビングに下りてきて、母は台所に顔出してくる。パジャマ姿の母は、ちょっと眠そうな顔で、由紀の様子を確かめるようにして。
「おはよう」
「おはよう」
フランパンを片手にベーコンを焼きながら、顔だけ母に顔を向けた由紀。父は玄関に行き、新聞を取るとリビングに戻り、黒いソファーに座り新聞を半分に折り読み始める。
由紀は朝食の準備ができると、父を呼びに行く。
「おはよう、お父さん朝御飯できたよ」
「おはよう、わかった今行く」
読んでいた、新聞を四つ折りにして、ソファー前に有る、テーブルに置くと、台所に向かっていた。
父が食卓に着くとご飯、お味噌汁、皿に焼き鮭とカリカリベーコンスライスがのったサラダをテーブルに並べ始める由紀。
「楓、お茶いれてくれ」席に座って、決まって言う父。
「ちょっとまってね」言われるのが分かっている母は、お茶を3人分作っている。
「やっぱり、家族そろって食べる食事はうまいなぁ」父はいきなり言い始め。
母は少し呆れた顔して。
「あなたが、そろって食事するぞって、言い出したんじゃないの?」
言いながら父の前に座る。
「あれ?そうだったか?」
「あきれた、自分で言っといて忘れるなんて」
「あぁ、そうだった、そうだった……いあ、最近次の仕事の事ばかり考えていたから、そんな事忘れてた」
由紀は黙って聞きながら食事をしていた。
「しかし、うまいなぁこの味噌汁」これぞ絶品といった表情を浮かべる父。
それを聞いた母は、ちょっとムッとした顔を浮かべて。
「じゃ、夕食はあなただけ、毎日カップラーメンにします」
「まてまて、楓の料理が一番だ、頼むからそれだけは勘弁してくれ」母の料理が一番だと取り繕う父。
「冗談ですよ、でもゆきほんとうに、うまくなったね」母は由紀の方に顔を向けた。
「まだ、お母さんに教えてもらいたい事いっぱいあるから……」嬉しい顔した由紀。
そんな楽しい食事が終わり、制服に着替える為、由紀は二階に上がっていく。荒い物をする母、父はテレビを点けてニュースを見始めた。
着替えが終わり、台所に戻りお弁当を手提げ鞄に入れ、玄関に向かった
「いってきまぁす」
「いってらしゃい」
由紀は家を出て道路の歩道を歩き、東郷の家の白い塀を見て、これが東郷の家がやっぱり大きいなぁっと思いながら、近くのバス停に向かっていた。
東郷の家を通り過ぎて、少し行った所に有るバス停に着き、鞄を膝の前にして、両手を添えるように立っているとバスが来た。
バスに乗り込み運転席側から二列目の席に座る。
学校に近づくにつれて小中高学生でいっぱいになっていき、がやがやと騒がしくなる。
20分位バスに揺られてると、アナウンスが流れ。