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鍵の在処ーカギノアリカ  作者: カルトン
死後の世界と真紅ドラゴン
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鍵の在処-カギノアリカ1No.8

覚悟を決めるとそれに応えるかのように、敦也の周りの雰囲気が変わる。地面の小石は震え、聖水の小川には波紋が生まれる。敦也自身も自分の異変に気付き始めていた。普段より、身体全体の力が増しているのだ。

敦也はこれが魔力だと、直ぐに察して足に魔力を集めてみる。すると、足の力が普段の倍近くにまで上がっているように感じ、力強く上空一直線に跳んでみる。

「うおぉぉぉぉ!!」

敦也は子供のように喜んだ。その上空への跳躍はさっきまでの跳躍とは比べ物に全くならない高さまで跳んだ。と言っても、谷から出るには柱を足場にしながら跳んでいく必要があるが。

結構な高さから落下するので、また足に魔力を集め着地に備える。

そして着地。普通より大きい着地音と振動により聖水の小川にまた波紋が生まれた。

「これなら行けるかもしれない」

そう思いを言葉にしてから、朝まで休憩しようと考えあまりデコボコしてない場所で横になった。





イングの谷最深部から少し離れた所には小さな長い洞窟がぽっかり存在している。その洞窟内から何か不気味な声が洞窟内で跳ね返って響いている。

「ボス、この洞窟はまだ抜けないんでヤンスか?」

語尾は可愛いが、甲高い声が洞窟内で跳ね返る。

猿に似た小さな頭に人の耳より鋭く先端が伸びた耳を持ち、胴体は小柄で短足。腰からは雑な蛮刀をぶら下げている。皮膚の色は濃い緑色で見た目からして人間には見えなかった。亜人種のようで、ゴブリンのようなものだった。

「もうすぐですよね、ボス。そろそろ手持ちの食糧が底を尽きそうなので、もう少し速度を速めませんかね」

今度の声も甲高く洞窟内で跳ね返り響き渡る。

猿に似た小さな頭で鋭く伸びた耳を持ち、胴体が小柄な点と皮膚の色は同じだが、さっきのより身長は高かった。細いが高いのでヒョロヒョロしたような印象だった。こちらも腰からには雑な蛮刀をぶら下げている。

「あぁ、もうすぐ出口に着くはずだ。洞窟を抜ければ美味いものがたくさん待ってるぞ。それで数日はしのげるだろう」

毅然とした声が洞窟内に響き渡った。

声の主は先程までの二体と基本は同じだったが、膨れ上がった大柄な胴体、ヒョロヒョロした奴よりでかい身長で頭には王冠のような物を乗せていて、立派な装飾品が腰からじゃらじゃらとぶら下げられている。どうやら、ボスと呼ばれているこの集団のリーダらしかった。

「美味い物って何でヤンスか?」

舌を出しながら低身のゴブリンがボスに訊ねる。

「うむ、それは人間だ。わたしは一度喰った日から、あの味が忘れられなくてな。お前らもきっと病みつきになるぞ」

「オォ!!」と言って二体の手下のゴブリンはよだれを垂らしながら歩みを少し速めた。

「ボルグ今は何時だ?」

ボルグと呼ばれた低身のゴブリンがポケットから発光しているライトストーンを取り出す。

「ちょうど二十四時でヤンス。洞窟を歩き続けて今日で三日目でヤンス」

と、ボスに報告しライトストーンをポケットに仕舞った。

「そうか、一度休憩するか。最後の食糧だろうベスト?」

「は、確かに食糧は今食べますと無くなってしまいます。なので、今食べてしまうと食糧が見つかるまで餓えで苦しんでしまいますが」

ベストと呼ばれた長身のゴブリンは答えを分かりやすく言って、補足を加えた。

「お前らは臭わぬのか、美味い人間の臭いが。直ぐ近くにもう臭いがある。美味い食糧があるぞ」

「そうですかボス。わかりました。では、残りの食糧を食べてしまい、腹を空かし美味い人間を喰らいましょうか」

ベストはボスの言葉を鵜呑みにし、背中に積んだ食糧の袋を広げた。

「さぁ、明日は人喰いだ。覚悟しとけよお前ら!」

ボスがワイン樽を片手に乾杯の代わりにそう言って、ワイン樽を掲げた。

「はいでヤンス!」

「了解です、我がボスのご命令のままに!」

二体のゴブリンの返事を聞くと、ボスゴブリンは心で黒い笑みを浮かせていた。





閉ざされた世界に朝がやってきた。陽が昇り、小鳥は囀ずり始め、陽の光がそこらを照らす。

しかし、イングの谷の底はそんな陽の光など届かないほど深く、朝になっても暗いままだった。

敦也は目を覚まし、辺りを見渡してから立ち上がった。

「ここは朝も暗いな」

ポケットに入れていた、ライトストーンを取り出し時間を確認しようとしたが、ライトストーンは輝きを失っていたのでポケットに戻す。

次にバスケットもとい昼食が投下されるのには、時間はまだある。敦也は小腹が空いた感覚を押し殺し、崖へ向かった。

ザッ!!

何かが谷底を歩く音が聴こえた。

敦也は直ぐに近くの岩陰に身を潜め、恐怖心七割好奇心三割で頭を岩陰から出して足音が連続する方を見る。

直ぐにそれは「何かが」から「誰かが」に変わった。

敦也が見たものは人の様で人でない者。数にしては三体。徐々に距離が縮まり、ハッキリ見える様になると敦也の額に汗が浮かび上がった。

それは、二日前に空から説明を受けた時に視たモンスターにそっくりだった。いや、多分同じモンスターなのだろう。

全身が濃い緑色で猿のような頭に鋭く伸びた耳。それは三体共通だが、体格がそれぞれ違っていた。敦也はおそらくゴブリンだろうと推測した。似たようなモンスターをゲームで見たことがあるからだ。

あれがモンスターか。本物だよな、仮装大会とかじゃないんだよな。

モンスターじゃないことを心で願いながら、三体の行動を探っていた。

一体のゴブリンが何かに気付いた様子で口を開いた。

「ボス。見てくれでヤンス。あんな所にバスケットが落ちてるでヤンス!」

ボスと呼ばれた大柄のゴブリンは、小柄なゴブリンが指さす方に視線を動かす。

まずい、俺がいることがバレるかもしれない!?

敦也の恐怖心は九割、残りの一割は闘争心に行っているが、本気の逃走心に気を抜いたら変わりそうだった。

「お前ら気づかないのか。人間はもう近くにいるぞ……例えば、あの岩陰とかにな」

大柄のボスゴブリンの一言で意を理解したのか、小柄なゴブリンは敦也が身を潜めている岩に駆け出した。

「行くでヤンス!」

小柄なゴブリンは腰からぶら下げていた蛮刀を右手で掴み、岩に叩きつけた。すると岩は粉砕され敦也と小柄なゴブリンは目が合った。

「よ、よう」

「ボス俺が殺っていいでヤンスか?」

敦也の挨拶に目もくれず、ボスに殺しの許可を求める。

しかし、それはチャンスだった。闘争心から逃走心に切り替え敦也は全力で走り出した。

できるだけ遠くへ逃げるんだ。死にたくない。きっと助けが来るはずだ。

そう信じ走り出した。だが、敦也の走り出した先に一番大柄なゴブリンが待ち構えていた。

やばい!!

敦也の直感がそう言って、ルートを変えようとして身体を捻らせた直後身体に大きな衝撃が走り、遥か後方に飛ばされ崖にぶつかり勢いは止まった。

飛ばされた理由がゴブリンの攻撃だと気づいたのは、飛ばされた後さっきまでいた位置で大柄なゴブリンが右の拳を突き出しているのを見た後である。

「なんだ、これでおしまいか」

敦也が動く気配が無いのを見て大柄なゴブリンは言った。

動いたら死ぬ。

今の敦也に出来ることは死んだ振りをする事だけだった。魔力だってまともにコントロールはできておらず、生身の身体で挑んだら直ぐ様返り討ちだろう。

だから、敦也はただゴブリン達が去ってくれるのを待った。

「じゃあ、食べるでヤンスか?」

食べる、何を?

「そうだな。人間は美味いぞ。死ぬほど美味い!」

人間。人間って俺か?

「焼きますか? それとも生ですか?」

嫌だ。死にたくない。来るな、こっちに来るな!

敦也に向かう足を早めるゴブリン達からの恐怖に完全に屈しそうなとき、脳に言葉が響いた。

『先輩、しっかりしてください。まだ生きていますよね。死なないでください、あなたはもうわたしたちの仲間なんですから!』

怒ってるような、悲しんでるような少女の声だった。

凜の声が……なんで?

『京子さんの能力の応用です。遠くを見る千里眼と、遠くの人と会話するテレパシー。わたしにも京子さんが千里眼で見てる景色を共有して、先輩の脳内とわたしの脳内を京子さんを通して繋げています』

そんなことも出来るのか。

『って、今はそんなのどうでもいいですから。立ってください。ゴブリンと戦いましょう。死にたくないですよね』

死にたくないないよ。でも、死ぬことしか出来ない。あんなのとどうやって戦えばいいんだよ。

死ぬことに対して恐怖がないわけじゃない。むしろ怖い。でも、また彼には何も出来ない。

『諦めないでください、そんな直ぐに簡単に。死なないでよ……もう誰かがわたしの前から消えていくのは嫌なんです。帰ってきてください!』

凜の過去に何があったのか敦也は知らない。けれど、わかるような気がした。姉を失ったときの感情が敦也の胸を刺す。

凜。俺はお前の過去を知らないし、今のお前さえもまだ何も知らない。だから、帰ったら色々と教えてくれ。お前の事を。

『な、なんですか急に! …………いいですよちゃんと帰ってこれたら』

凜が何故か若干照れながら言った。

『わたしもいるの忘れないでくれ。敦也くん、リンリンに手を出すのは早い。じゃなくて、帰っておいで、みんな待ってるよ』

京子さんの声を聞くと、安心感が生まれ顔に笑みが戻っていた。

最初に宣言したもんな。絶対に登ってみせるって。俺はもう嘘は絶対に吐かない……こいつらを倒して登ってみせる!!

立ち上がった敦也を見て、ゴブリン達は驚く表情を見せたが、ボスゴブリンが直ぐに表情を戻し構え直す。

「どうせ雑魚ださ、俺らでいけば直ぐに殺れるだろうよ」

残りの二体の顔つきも獲物を狩る顔になった。

もう敦也はびびったり、逃げたりしない。約束したから帰って凜の話を聞くと。




閉ざされた世界の中心の巨大な塔の最上階の部屋。その部屋にいる唯一神・ミサトは一面の壁を凝視しながら呟いた。

「君は忘れているかもしれないが、自覚ないかもしれないが、君は勇気がある。ちゃんと友達を、飛鳥ちゃん守ろうとした勇気が。自分を信じな、敦也くん」

唯一神はどこか楽しげに、嬉しげに足をベッドからぶら下げてばたつかせる。その表情は満面笑顔で、待ち望んだ日が来る日が近いことを楽しみにしている様子だった。

「早く来なアツヤ君。君の仲間と共に」




ビリビリビリ!

その音と共に敦也の髪は徐々に若干立っていく、眼には闘志が溢れる。

身体が教えてくれる。魔力の使い方、能力の使い方。

何が引き金になったのか定かじゃないが、敦也は魔力と能力の使い方を理解していた。

三体のゴブリンは一歩も引かずに敦也の姿が変わるのを見ていた。

ビリビリビリ! 敦也の回りには黄色い電気が飛び回り、髪は立ちツンツンしている。変わった姿を一度忘れゴブリンたちに叫ぶ。

「いくぜ、お前らはここでぶっ倒す!!」

それは宣誓で脅迫で決意だった。

「ぶっ倒す、笑えますね。あなたみたいな人間ごときが我々を倒すなんて無理ですよ」

ヒョロッとしたゴブリンが邪悪な笑みを浮かばせながら腰の蛮刀に手を当てる。

「無理かどうかはやらなきゃわからないだろ!」

そう発するとアツヤは、強く地面を蹴り素早く前へ駆け出した。

その速さは尋常じゃなかった。流石に凜の〈神速〉には遠く及ばないが、人間離れした速さなら可能だと敦也は確信していた。電気が使えるのなら、筋肉を電気で刺激して強化できるはずと。

電光石火で疾風迅雷。

単純に言えば、今の敦也はその状態である。

「消えたっ、そんな馬鹿な!?」

敦也の加速を目で追えず、敦也の姿を見失ったベスト。

まだこの加速に慣れていない敦也は、大回りにベストの背後に回り込み右の拳を強く握り腕を大きく引く。

「ベスト、後ろだ!」

敦也の位置にいち速く気づいたボスゴブリンが叫ぶ。

その声に反応してベストも振り返る。だが、時既に遅し。敦也の拳はベストの腹部目掛けて突き出される。

魔力を腕にイメージ。そして雷に変換!

「うお、おおぉッ!」

猛る気合を吼えながら、敦也は強烈な雷を纏った右の拳をベストに力強く繰り出された。

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