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鍵の在処ーカギノアリカ  作者: カルトン
死後の世界と真紅ドラゴン
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鍵の在処-カギノアリカ1No.7

しかし投げたボールはリングに弾かれ、敦也の手元に戻ってきた。決まらなかった悔しさを隠して、ミサトに振り向く。ミサトは彼を見て、懐かしそうに微笑んでいた。

「……どうしたんだ?」

「いや、別に……頑張りまえ敦也くん」

ミサトはそう言って、体育館の扉を開いた。開けられた扉から光が溢れ体育館を飲み込む。

最後の言葉が曇っていた事に疑問を覚えながら、敦也は眩しさのあまり目を閉じた。




敦也は目を開き上体を起こし、辺りを見回す。が、暗くて見えたのは、光っている湧き水と、ほのかな明かりを放つ点々と貫いた岩柱が上に続いているということだけだった。

岩柱一個一個の間はかなり空いているが、ぎりぎり次の岩柱のほのかな明かりが覗かせていた。柱と柱とを跳んで上に上るのは苦労しそうだ。

上に続く柱を眺めていると、上から輝やいている何かが落ちてきた。その何かは大きくなく、小さかった。両手で持てる位に。

敦也はその何かを警戒しつつ落下が終わるのを待つ。地面に落ち、なおも輝やいている何かはバスケットだった。そして、輝やいていたのはバスケットではなく、バスケットに入っている、石だった。

「何でこんな物が?」

輝やいている石を使い、バスケットの中身を探った。

バスケットに入っていたのは、パンとシークワーサーの缶ジュースと輝やいている石と一枚の手紙だった。

とりあえず手紙を開き、目を通す。


先輩、先程はごめんなさい。ですが、一番手っ取り早い特訓がこれだったんです。昼と夜にはパンと飲み物を投下します。近くに流れている水は飲まないでください。あれは聖水で、浴びたら傷が治癒する効果がありますが、飲むと毒ですので。ちなみに、その輝やいている石は〈ライトストーン〉って言う安直な名前です。出来る限り頑張ってください。みんな待っていますから。

そして、最後に凜と書かれていた。

なんだ、凜優しいじゃないか。

そう思い、パンを口いっぱいに放り込み、缶ジュースで喉に押し込むと、立ち上がり上を見上げ、高らかに宣言した。

「待ってろ。絶対に上ってみせる!!」





事態は深刻な問題だった。

敦也はまだに上へ上れずにいた。いや、最低でも三段目の柱まではなんとか上ることができた。問題は四段目からだった。三段目と四段目の距離がかなりあいていたのである。その差は横約四メートル、縦約三メートルと言ったところであろう。それでも、敦也は意を決し足場の柱を勢いよく蹴り前へ跳んだ。が、やはり身体は四段目の柱まで届かずにそのまま落下を始めてしまった。三段目だけでも、谷底から高いところにあり、敦也は頭を谷底に勢いよくぶつけて気を失っていた。

そして、数時間後目を覚まし、身体を起こしてから、ポケットに閉まっておいた、ライトストーンを取り出す。ライトストーンには、薄く彫られた部分に現在の時刻が刻まれるらしく、今の時間を確認する。

時刻をは十八時。長い時間気を失っていたらしい。そろそろ夕食が地上から投下されてもおかしくない時間だった。

敦也はまだ痛む後頭部に手を当てながら立ち上がると、夢でミサトが言った言葉を思い出す


敦也くん、君の死因は‘嘘’だ!


この言葉の意味は強く理解していた。だからこそ、敦也は自分の罪とも言うべきそれを頭に置いて、上っていた。しかし、魔力が溢れる事はなく、ただ辛いだけだった。

「……これでいいのか」

そう震えるように呟くと、手に持っていたライトストーンが輝きを消した

「なっ……!?」

光源の消失は動揺に変わった。谷底での明かりは、光っている聖水の小川と、ほのかな明かりを灯した岩柱だけだった。

お化け屋敷のような、暗さと、静けさを前に恐怖しない人はいないと思う。

何故急にライトストーンが消えたのか、謎はあったが敦也は恐怖の中で明かりを求め聖水の小川に寄った。

少しして、敦也から離れたら位置に、二個目のバスケットが着地した。

敦也はバスケットの中を開くと、光が溢れでたので目を細め手探りでバスケットの中を探る。その光の正体がライトストーンだとわかると、目を開きライトストーンと紙を手にする。

そして、ライトストーンを照明代わりに紙を開き読み始める。


先輩、こんばんわ。長い間寝ていましたね。休憩していたんですか。休憩するのは自由ですけど、時間に限りはありますからね。一週間、それがこの特訓のリミットです。一週間後にはギルドの誰かが、先輩を救出して、夢猫専属料理人としてずっと働いてもらいますから。覚悟しといてください。あと、ライトストーンの発光時間には限りがあるので、そこら辺は忘れないでください。


で、最後に凜と書かれていた。

「そうならそうと、先に言っといてくれよ」

ライトストーンに発光時間に限りがある事を前の手紙で知らせて欲しかったと思いながら、ライトストーンを傍らに置いてから、バスケットからパンと缶ジュースを取り出した。

さっき食べたパンの味は不味くもなく、美味くもなく、甘くもなく、苦くもなく。酷い言い方だが、つまらないパンだった。シークワーサーで押し込んだのは正解だった。

今度のパンはギルドの誰かが、同じパンと缶ジュースでは飽きると思ったのか昼食とは違うパンだった。 メロンパンと野菜ジュースが入った紙パック。

敦也はメロンパンを少し口に加え、バスケットに入っていたストローを紙パックに挿し、中身を一気に吸った。吸った野菜ジュースの味が口全体に広がると急にむせた。

「ごほっ、ごほっ、なんだよコレ!」

敦也は口直しにメロンパンをかじり、紙パックの側面を見た。そこにはニンジンと唐辛子の野菜ジュースだ。挑戦者募集!!

と、書かれていた。

「こんなもん飲ますなよ!」

誰がこんなの飲み物に入れたのか気になった。いや、まず作るなよ。

メロンパンをすんなり完食し、野菜ジュースを嫌々飲み干すと、ライトストーンをポケットにしまい、崖の側に向かった。

イメージだ。足に力をイメージするんだ。

一気に柱を二段分跳べるようにそう魔力が足に宿るよう念じてから、地面を強く蹴る。。

「おらぁぁっ……あぁぁぁ!」

しかし、その跳躍は柱一段目までしかとどかない、さっきと同じ普通の跳躍となってしまった。

理由はわかっている。魔力を発揮できてていない事だった。魔力の欠片もまだ敦也は発揮する事が出来ていなかった。

敦也自信もまだ魔力存在を心のどこかで疑っていた。凜の神速を見て、京子さんのテレパシーを見てなお、まだ実感していなかった。この世界の事を実感していなかった。

ポケットに入っているライトストーンを取り出し辺りを確認し、近い柱を探しまたポケットにしまう。

今度こそ!

足に魔力をイメージし、柱を強く蹴り近場の柱を目指し跳躍する。

が、ただの跳躍と同じだった。

なんとか二段目の柱には跳び乗ったが、進歩の無さが心を締め付ける。けれども、それを振り払いライトストーンで次に近い柱を探す。

見つけた柱は、少し高いところにあり足での着地は無理そうだが、両手で柱を掴み上ることは可能だと考える。

思い立ったがなんとやら、足に力を溜め大きく跳躍する。今度は魔力の事は置いて、偶然出たら言いなぐらいにしか考えてなかった。

その考えの甘さがいけなかったのか、はたまた運の悪さなのか、魔力が発揮され、跳躍は跳躍ではなく飛翔と言えるようなものだった。その飛翔の結果、敦也は柱に着地する事はできた。そう、着地する事は。魔力で強化された足の力が余っていたのか、もとからその柱が脆かったのか、柱は着地した部分から砕き折れてしまった。

「うぉぁぁぁぁぁ!!」

足場を失った敦也は谷底へまた落下を始めた。そして、谷底へ強く後頭部を打ち、後から降ってきた石礫が身体に着弾し、敦也はまた死んだ。




「…………またか」

それが俺の死んだ後の夢の中での一言目だった。

「またとはなんだ敦也くん。わたしの事嫌いかい。敦也くんは優しい人だった気がするけどな?」

ミサトは一番最初に見たLet's EnjoiとコピーされたブカブカののTシャツと赤色のスカート、Tシャツの上からはサイズが二回りも大きいブカブカのパーカーを着ていた。

敦也が目を開いた場所は見たことのない場所だった。その場所は大きな部屋だった。辺りには見たことのない形をした色々な物が散らかっている。部屋の中央には大きなベッドがあり、ピンク色の薄いカーテンが囲っている。四方の壁は、一面一面スライドショーで壁紙が変わっていた。森、山、川、海、空、星と様々な場所が写し出されていた。

「なぁ、ここはどこなんだ?」

ミサトは腰かけていたベッドに寝そべると、「敦也君もこっち来なよ」と言うので、敦也もベッドに腰かけた。

「……ここは、わたしの部屋……【鍵の在処】だ。敦也くんたち、この世界に来た死者達がわたしに会うために目指す場所だ」

「……ここがそうなのか?」

敦也は目指すゴールの部屋に夢でも居ることに、衝撃を受けていた。

「そうだよ。言っただろ、わたしは嘘はつかないと!」

確かにこの前、嘘をついた後にそんな事を言っていた。

「それよりも敦也くん。ぜんっぜん下手だね、魔力使うの。何でまた死ぬかなー。生前ならホントに死んでたぞ」

ミサトが敦也を見ながら言う。敦也は正面からミサトに見られ目が合ったので目線を逸らす。いちおう見た目美少女のミサトを完全に直視するのは緊張してしまう。

「……もう死んでるけどな」

敦也の言葉を聞くと、ミサトは笑いながらベッドの上でぐるぐると横に回った。

「敦也くん、魔力はもう敦也くんの身体の一部みたいなものだ。手や足を動かす感じと同じようにやればいいのさ」

手や足ね。魔力なんてホントにあるのか?

敦也がそう思っていると、ミサトが起き上がり敦也にビシッと指を向ける。

「なんで敦也くんはそう物事を信じようとしない。ここは死後の世界だ、魔力や能力やモンスターや神器が有ったっていいじゃないか。敦也くんは全てを受け入れようとしていないのだよ」

そして、少し間を空けてこう言った。

「心を開ける鍵の在処は自分の心にしかないんだよ!」

毅然と悠然と淡々とでも、力が溢れ何か心に来るような言葉だった。が、

「心を開ける鍵が心の中にあったら、開けれないじゃん」

そう言うと、ミサトは「しまった」と呟き考えた。

「そう。心は自分から開け放つの。えーと……だから……心は内側から閉まってるんだよ」

あたふた言葉を繋ぎながら、頑張るミサトを見ていると、何故か顔から笑顔がもれていた。

「なんだそれ。最後までしっかりしろよ」

「うむ。すまんな」

かっこいいはずの予定だった決めゼリフを失敗した、ミサトはしょんぼりしてしまった。




「あれ、あの激マズ野菜ジュースが無いな」

広太が食堂の冷蔵庫を覗いていると異変に気付いた。

「あー、それならもう処理しました…………んー、苺おいしー!」

凜がテーブルで苺をつまんでいた。

「飲ませたのか!? 誰にだ!?」

広太の顔は青くなっていた。アレを飲んだ人が可哀想に思えたからである。作ったのは広太自身で、その不味さを知っているからだ。

「先輩です。シークワーサーだけじゃ、飽きると思って」

「あとで敦也に謝らなきゃな」

広太はアレを作った事を心から後悔し、額に手を当てながら大きな溜め息を吐いた。





「よしっ、やるか!」

敦也は身体に乗っている瓦礫をどうにかどかし、立ち上がる。

ライトストーンの時刻は、まだ二十時。夜が明けるのも、食糧が来るまで時間がかなりある。

魔力をコントロールする。それが敦也が今やらなければいけないことだ。魔力のコントロールが上手くなれば、谷から出ることなんて容易いことだろう。

敦也は目を閉じ精神を集中させ、気持ちを落ち着かせる。今のままじゃ駄目なこと、ミサトが言っていた言葉、上で凜達が待っている事。様々な思いを胸で整理する。

敦也はは力を望んだ。谷から出て、ミサトに凜達と会いに行ける力を。彼は魔力を能力を神器をモンスターを信じることにした。

誰かに問いかけるように決める。それは誓いでもあり願いでもあり約束でもある大きな覚悟だった。

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