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鍵の在処ーカギノアリカ  作者: カルトン
死後の世界と真紅ドラゴン
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鍵の在処-カギノアリカ1No.6

こんな美味しいのがケルベロスだなんて信じられないな。

その若干豚よりのダシに懐かしさと驚きを敦也は覚えた。

「ところで敦也くんは料理が得意だったりするかい?」

「一人暮らしだったんでそれなりには作れますよ」

京子さんの質問に敦也はうなずいて答える。

「そうか。じゃあ、今度から食事の用意を手伝ってくれるかい。わたしとあと二人いるんだが、二十人とちょっとの食事を用意するのは大変なんだよ」

「出来る限りのことはしますよ。俺だってもうこのギルドの一員なんだから」

「でも、それは少し後でですね。先輩は明日から特訓があるんですから」

凜の言う特訓を魔力と能力の事だと理解して、意思を込めて言う。

「あぁ、やってやる。どんな特訓も乗りきってみせるよ」

「先輩、張り切ってますね。頑張ってください。スゴい厳しいですけど」

「お、おう頑張るぜ」

凜の言った一言で敦也は笑顔をひきつらせた。

夕食を食べ終えた後は、広太と空に案内され銭湯に向かい今日の疲れを癒した。





部屋がまだ用意されていないため敦也は、空に促され同室の部屋で夜を過ごすことになった。

やはりというか、今日は色々あって疲労は溜まりに溜まっていたので、横になると直ぐに眠りたくなったが、今日起きた事を整理しようと、身体に鞭打つようにして身体を起こす。

【鍵の在処】。今日知った言葉の中で一番衝撃を受けた単語を敦也は頭に浮かべる。

「神に会う……つまり、ミサトに会うか」

ミサト?

あの神以外でその名を聞いた覚えがあるが、顔が曖昧にしか浮かばなかった。記憶が古いのだろうか。

「モンスターを倒して、強くなって、俺はミサトに会いに行く」

敦也は覚悟を決め、その言葉を高らかに掲げると、横から寝ているはずの空が呟いた。

「俺じゃないですよ……俺達は、ですよ」

隣のベッドで寝ている空を見ると、目を閉じて寝ていた。

寝言らしかった。

「…………ふっ」

何故か口から溢れた笑みに疑問を持たず、敦也は横になり眠ることにした。仲間と友達と呼べる存在が近くにいることを嬉しく楽しく思ったのだろう。


敦也は目を覚ました。

いつもの部屋の違いに慌てて上体を起こす。そして、部屋を見回す。数秒経ってから、頭が回り始めたのかその事実を思い出す。

「俺は死んだのか」

その一言を口にすると寂しい感じがした。

「敦也兄起きた。じゃあ、これに着替えたらついて来て下さい」

部屋に入ってきた空が渡してきた服を受けとり着替え始める。空は早く起きて準備してくれていたんだろう。

「敦也兄って友達多かったですか?」

唐突に空が冷たい声で訊いてくる。

「いや、いなかったに近いかな」

「それでも。少しはいたんですよね?」

冷たい声で空は問いを続ける。

「まぁな、その友達がいなきゃ早々に俺は死んでたよ」

敦也は飛鳥を思い浮かべながら苦笑いを浮かべる。空の顔に笑顔は無く曇った顔をしていた。それが何故か、まだ敦也にはわからなかった。

「どうしたんだ空?」

敦也は空に昨日みたいな元気が無いのが気になった。

答えはなく。空は曇った顔で俺を見つめていた。

そんな顔で見られると着替えにくいな。

着替え終えたのを見計らい空は口を開いた。

「では、敦也さん行きましょうか。ついて来て下さいね」

曇った顔はどこかに消えーーいや、姿を隠しーー昨日みたいな笑顔で敦也を先導する。


「ここはギルド内で最も深い谷で有名なイングの谷です」

つれて来られた場所で待っていた凜が説明をする。下を覗いてみると、凜が言った通り結構深い様子で、底を見ることは出来なかった。所々に岩肌から貫いた氷柱のような柱が点々と存在していた。

「今から先輩にはここへ落ちてもらいます」

「…………はあぁぁーー!?」

凜からの物騒な話しに敦也は衝撃のあまりに口を大きく開く。

「そうですよね。びっくりしますよね」

「こっから降りるんじゃなくて?」

「はい、落ちてもらいます」

「ほんとにここに落ちろと!?」

「死なないですし。痛いですけど」

凜がぼそりといったのを敦也は見逃さなかった。

「いやいや、死んじゃうから!」

言われる事の酷さに敦也はつい憤慨する。

「手っ取り早いのがこれなんです。ごめんなさい、先輩!」

「……えっ……!?」

次の瞬間敦也は空を飛んでいた。彼は頭を直ぐに動かし陸を確認する。敦也が飛んだ理由は直ぐにわかった。凜が敦也を押したのだった。陸では空が手を振り、凜が苦笑いで頭を下げている。

マジかよ!

感じた瞬間、それは始まった。

視界全てが上昇し始めた。いや、敦也が谷の底へ、まっしぐらに、落下しだした。

「ーーっうぉぉぁあああああああああああああ!?」

堪らず、敦也は口を大きく開き、絶対的恐怖に対する絶叫をもらしていた。バンジージャンプなど、やったことがない敦也は凄まじい勢いの落下と加速に恐怖し目を閉じ落下を待つことしか出来なかった。

落下の加速が頂点に達した。つまり、落下が終わった。更につまり、落下によって猛烈に加速した勢いで、谷の底の地面に身体を強打した。全てをまとめてると、桜井敦也は谷から落ちて、死んだ。


目を開くと新緑高校のいつもの教室のいつもの席で呆然とただ前を見つめていた。

服もさっきまで着ていた服と違い、新緑高校の制服を着ていた。

机がしっかり揃えてあるのに、誰もいないのが異様だった。

「誰もいないとは失敬だね」

敦也は声のする方に振り返ると、新緑高校女子制服を着ている少女が、神がいた。ミサトが綺麗に並べられている生徒用の棚の上で足を組みそこに座っている。

「ここは敦也くんが通っていた学校だろ。どうだ、懐かしいか?」

敦也は声の正体がミサトと分かると、何だこいつか、といった顔をした。

学校だから、飛鳥を期待した自分が馬鹿だった。

「何だこいつかみたいな顔をしないでくれよ。せっかく、綺麗なお姉さんが遊びに来たんだからさ」

敦也は呆れ短く息を吐いてから、ミサトを見るとミサトが唐突に腹を抱え笑いだした。

「アハハハッ。敦也くん、今度は飛び下り自殺とは、君は中々死にたがりだねな事をするね!」

「飛び下り……そうだ凜!」

敦也は怒りの矛先を凜に向ける。

「今の敦也くんじゃ、上には上れないだろうね。まぁ、この特訓で上れる様にするんだろうけどさ」

「俺が落とされたのって特訓なのか!?」

「そうだ。説明不足の凜ちゃんの代わりにしっかり説明してあげよう」

凜が説明しなかった特訓の説明を何でミサトが知っているのかは、神だからという事にしておいて敦也はうなずく。

「頼む、俺は何をすればいい」

「うむ、簡単だ。崖を上るんだ」

ミサトはそれを至極簡単だと言わんばかりに、すんなりと言った。

「……あのー。崖を上るって、どうやってやればいいんですかね?」

敦也の問いにミサトはすぐに答えた。

「敦也君は馬鹿かい、考えてみなよ。岩肌には点々と尖った柱があっただろう。それを使い、跳んでいけばいい話だろ」

「ミサト、柱の間はかなりあいていたと思うんだが」

すると、ミサトを肩をすくめ、やれやれ、と呟いてから、答えを言った。

「魔力を消費して自分の脚力を強化すれば、とどく距離だと思うけど。君は昨日ちゃんと話を聞いていたのか……しっかりしたまえ。それでは、わたしのところに来る前に死んでしまうぞ」

説明と敦也の理解不足を指摘するような事を言って、最後に心配の一言をかけた。

魔力ね。まだ実感わかないんだよな。

「なら、わたしが直々にレクチャーしてあげようか?」

敦也の心を読んだみたいにミサトが言ってくる。いや、実際に見透かされてるのか。

「本当は敦也くん自身で魔力の使い方も覚えるための特訓だが、敦也くんが馬鹿すぎて凜ちゃんが可哀想だからレクチャーしてあげよう」

馬鹿だからですか。

「そう。敦也君が馬鹿だから」

二度、俺の心を読むミサト。

足を組み直したミサトは宙に浮かび、そのまま平行移動して教室の黒板の前で止まると、振り向き考えているような顔をした。

なんで、ミサトが浮いているのか。なんで、そのまま移動できたのか。神だからで済ませてしまっていいんだろうか。

「わたしが浮いているのは気にしないでくれ。神だからという事で」

ミサト公認になった。

「じゃー、まず敦也君。魔力を使ってみてくれ」

「いや、それの使い方がわからないんだよ。だから教えてくれよ」

「わたしが魔力の使い方なんて教えられるわけないだろ」

はぁぁぁぁぁ!?

「じゃあ、なんでレクチャーしようかなんて言ったんだよ!」

「ただの思い付きだよ」

憤っている敦也に、ミサトは苦笑いで返す。

「わたしは【鍵の在処】から世界を眺め、たまに君達の夢に出るくらいしか出来ない神だよ。だから、君に魔力の使い方なんて教えられないんだ。今のわたしは昔と違って魔力なんて持ってないしね」

敦也は呆れてため息を吐く。

「だが、わたしは敦也くんがどんな能力か導く事が出来るよ」

「それは本当なのか?」

ミサトは笑みをこぼしてから、

「神は嘘をつかないからね」

ミサトは人指し指を立てて、笑みをこぼす。さっき嘘吐いたばっかなのに、そのセリフを言えたものだ。ミサトのその表情に敦也の怒りは更に増した。

「敦也くん落ち着きなさい。場所を変えようか」

そう言うと、スカートのポケットから一つの鍵をを取り出した。

鍵を手前に突きつける。すると、鍵の先端の回りに黒いモヤが集まり錠前の形に変わっていった。

敦也はその景色を昨日も見たので、驚くことは無かった。

彼女は鍵を回して錠前を解いた。すると、黒い錠前から光が溢れ出し、暗かった世界は瞬く間にその光に飲み込まれた。

敦也はその光の眩しさに目を閉じた。




光が収まり、目を開き辺りを見回す。移動した場所は新緑高校の体育館だった。体育館は狭くもなく、広くもない平均みたいな広さだ。

「敦也くん、君はバスケ部だったそうだね。どうだい、楽しかったかい」

声の主であるミサトは服装を新緑高校の制服から、新緑高校の体操服へと変わっていた。なぜこの人は場所によって服装を変えるのか疑問を持ちながら、言葉の最後にミサトが投げたバスケットボールを両手で受けとる。

「バスケは楽しかった。でも……」

言葉が詰まってしまう。この先を言うのが怖かったからだ。

しかし、ミサトは俺が詰まらした言葉の続きを言いあてる。

「高校の先輩達にいじめられ、バスケどころではなかった、だろ」

若干だが驚嘆の表情を見せると、敦也は静かに頷く。

「しかも、敦也くんはその問題を一人で抱え込んだままにした。心配してくれる友人がいたのに……君は嘘を吐き友人を騙して、君は毎日先輩達にいじめられ続けた」

敦也は何も言わなかった。いや、何も言い返せなかった。全て事実だから。飛鳥の心配をよそに俺は一人で何もしなかった。いや、しようとさえしなかった。彼は今を変えようとしなかったのだ。

「敦也くん、君の死因は‘嘘’だ。もし、友人に助けを求めていれば君は救われていたかもしれない。いや、救われていたはずだ。彼女なら君を助ける事に全力で取りかかるだろうからね」

ミサトは飛鳥を知っているような口振りで敦也の死因を告げて、更に続けて語る。

「君は‘嘘’を背負ってこの世界で生きていかなきゃいけない。この世界で使える能力はそんな便利なものじゃない。閉ざされた世界に来る人みんなが強い能力だったら、もう【鍵の在処】に辿り着いているはずだよ」

そう言われて敦也は思い出す。京子さんの戦闘向きじゃない能力を。この世界にはそんな能力を持つ人がいることを、一人では何も出来ない人達と言うことを感じた。

「俺の能力はその……‘嘘’に関連した能力になってるのか?」

「そうとは限らないけどね。君は稀に見る例外だからね」

ミサトは敦也が理解したような顔をするのを見て、満足気な口振りになる。

「さて、そろそろ時間だ。君と話すのは何故か楽しいんだよな。時が止まればいいのに」

体育館入口へ足を運びながらミサトは、名残惜しそうに言った。

「時間がとまる、ねっ」

ミサトの言葉を流し、久しぶりにバスケットボールを持ったついでに、ゴールに放り投げてみる。

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