鍵の在処-カギノアリカ1No.5
人型だが全身緑色で体長は二メートルから三メートルの集団でいるゴブリンや全長四メートルの竜の形をしたモンスター、可愛い兎のモンスター、液状のモンスター、全長三メートルはいってそうな双頭の狼が映し出された。
恐そうなモンスターもいれば、「これモンスター?」と疑問に思うモンスターがいた。
「こういったモンスター達がたまにギルドに突っ込んで来ることがあります」
「なー、ギル」
「では、次にギルドについて説明します」
敦也が言い終わる前に空が先に切り出した。
「ギルドとは十、いや九つチームのことです。我々はその九つのギルドの一つ夢見る猫達の一員です。僕たちは略して夢猫と呼んでいます。夢猫は変人ばっかで楽しい毎日ですよ」
「誰が変人だ、空!」
空の言葉に広太が椅子から立ち上がり空を指差す。後ろから京子さんが「わたしは変人でもいいよー」と言っているが聞こえなかったことにする。
「ギルドが存在する理由を僕は詳しくは知りません。ギルド創立者のマスターが教えてくれないですし、それに創立なんてそんな興味ないですし」
空は淡々と語り明るい笑みを敦也に向ける。
「で、全てのギルドに共通した大きな目標があるんです。それが【鍵の在処】に辿り着く事です」
「かぎのあり……か?」
敦也はその言葉を呟く。【鍵の在処】という未知の単語についての疑問が浮かんでくる。
「【鍵の在処】って何なんだ?」
敦也の問いに空はすぐに答えを返す。
「何も無いところです」
「へー、なるほどー」
空の満面の笑顔での答えに敦也は頷いた。
「……嘘ですよ敦也さん。」
空が苦笑いをする。
敦也は空の嘘に唖然とする。隣で広太が「信じるかよー」と笑っている。一発殴りたい。
「【鍵の在処】には文字通り夢と希望があります。それは何故か……敦也さん生き返りたいですよね?」
「生き返ってやりたいことがあるからな。生き返れたら生き返りたいよ」
率直な問いに素直に答える。
「【鍵の在処】には生き返る術があるんですよ。ブラックゾーン中心部つまりこの世界の中心部には高くそびえる塔があるんです。ブラックゾーンには基本的に建築物などのオブジェクト類は無く、木木が屹立し、川が流れ、山がそびえるだけです。世界の神はその世界の中心に高くそびえ立つ塔の頂上で僕達を待っているんです。この世界から元の世界へ生き返るには、塔の頂へたどり着き神に謁見する事です。【鍵の在処】とは神がいる塔の最上階の呼び名らしいです」
暫く敦也は言葉を発することが出来なかった。この世界から生き返ることができる。その一番解りやすい一言に大きな衝撃を受けたからだ。
顔一面に希望の色を表す敦也に渋々空が言う。
「神と謁見と言ってもそんな簡単な話ではありません。まず、ブラックゾーンにはモンスターがうじゃうじゃといて、ブラックゾーンの中心に行こうものなら確実に戦闘は回避出来ません。中心部に行けば行くほどモンスターの量や強さが上がっていくので困難なんですよ」
「そうなのか」
敦也は俯きそう呟き考える。何故神は生きる術を俺達に残したのか、何故目標が同じなのにギルドが九つもあるのか、魔力とは何か。どれも今ある知識では彼に答えを導き出せない。
「先輩大丈夫です。わたし達だって生き返りたいのは同じなんですから。だから早く【鍵の在処】にたどり着く為に全力を尽くしまい。今までもこれからも」
凜から毅然としたオーラが感じられ広太も京子さんも頼りがいのある顔つきで敦也は少し勇気が湧いきていた。
「この世界の説明はここまでで。次に魔力と能力の説明をします」
敦也は背を伸ばし構える。
「凜から魔力のことについては大雑把にだけど聞いたんですよね」
あの説明で理解できているかどうかは曖昧なので再度説明を求める。
「分かりやすく教えてくれるか」
「うん、いいよ。凜姉の説明じゃ分かりにくいだろうからね」
「やっぱりわかりにくかったですか」
空の発言に凜が若干落ち込んでいるのが見える。いやいや、あれで通じる自信があったのかよ。たしかに天然だ。
凜の落ち込みを無視して空は説明を始める。
「魔力って言うのは、言い換えれば第二の力。第一は腕力、脚力、気力、精神力。これは生前からあるものですね……これらの第一の力は生前の身体そのものを引き継いでるから、運動音痴の僕は第一の力に劣るんですよ。ハハッ」
空が最後自虐的に自嘲的に笑う。
第一の力。敦也が死んだ理由はバスケ部での技量の低さも関係している。そんな敦也に第一の力があるかどうかは少ない方だと考えられた。
「でも安心。第二の力はそんな第一の力が乏しい方の味方なのです。それは魔力を消費すると肉体的な強化を一時的にすることも可能だからです。それと閉ざされた世界にいる人達は魔力を消費してそれぞれ異なる能力を発動することが可能なんです」
空はここまでスラスラと言い、近場に置いてあった缶ジュースで喉を潤し続ける。
「この世界で一人で生きていくのは不可能に近いんです単独でダークゾーンに足を踏み入れ生還するのは難しいでしょう。そして、閉ざされた世界の能力というものは、生前の未練・死因・環境によります。生前の自分を常に顧みている気持ちになります。だから…………この世界は最初から平等なんかじゃないんです。未練が大きい者、死因が激しい者、環境が酷いものこそがこの世界で有利に立てるようになっているんです」
長い説明を終らせ、椅子に座り缶ジュースを空が飲む。
「敦也さん、ここまで理解出来ていますか?」
空が心配そうに訊ねてきたので、敦也は首を縦に振る。
「あぁ。ちゃんとついてきてるぞ」
敦也は自分が今どんな状況で、今自分は人間離れした力を使えるということは理解した。
凜が一瞬で消え、写真でモンスターまで見せられ疑うことはなく。ただ信じる事だけが自分が今すべき事だと判断した。いや、この事実を受け入れなきゃ前には進めない、どこにも行けないと無意識に理解したのだ。
俺は死んで、異世界に落ちて、まだ右も左もわからないんだ。空から聞いた【鍵の在処】……これが俺がこの世界でやらなきゃいけないこと。そうなると、俺もモンスターと戦闘しなきゃいけないのか。
渋い顔になる敦也に空が三度訊ねる。
「敦也さん、次の説明に入ってもいいですか?」
「ん、いいぞ……始めてくれ」
敦也は思考を止め姿勢を整え空を見やる。
「凜、神威出してもらえる」
「えっ……いいよ。ソードコマンド-神威」
椅子から立ち上がり右手を突き出す。先程と同じように、凜が右手に着けている腕輪から『ソードコマンド-神威を確認。神威を顕現します』という女性の声がし、掌中に一本の剣が現れる。それを右手で掴み空を見る。
「基本的には能力だけでも強い力を得られますが、この世界にいるモンスターもランクで分けられています。それは十段階で。一ツ星から十ツ星まで分けられています。モンスターの種類もたくさん分けられてまだ見たことのないモンスターもたくさんいます。見たことのないモンスターを僕達は不足と呼んでいます。何故ラックと呼ぶかと言うとですね……」
言葉を止めた空は右手を何かを受けとるように甲を下にした形で突き出す。
よく見ると、空の右腕にも凛と色は違うが形は同じ腕輪がつけられている。
「ブックコマンド-インデックス」
空が言うと、突きだした右腕につけられている腕輪が光り『ブックコマンドを確認。インデックスを顕現します』と先程と同じ女性の声がする。すると、凜が神威を召還したみたいに電子式が空の手のひらで本の形になり、次第に色が着き本物の本に変わる。
今気付いたが、腕輪から出ている声は、凜のも空のも京子さんの声だった。
「敦也兄、これはモンスター大全……通称インデックスです。このインデックスを中心とする直径三キロに現れたモンスターの名前・特徴・イラストが書かれ記録してくれます」
「そんな便利な物があったら結構有利だな……どこで手に入れたんだ?」
敦也はインデックスの凄さに驚きながら、そんな便利な物があることに疑問を抱く。
空はうなずいてインデックスをぱらぱらとめくりながら答える。
「インデックスは全てのギルドに一冊ずつ神が配ったんです。平等になるようにって」
ミサトって良い神だったんだな。
勝手に神の印象を脳内で下げていた敦也は改めることにした。
「でも、ラックのモンスターが急にインデックスに載っても、そんなすぐに対策はできないからラックとの戦闘はキツイんですよ。でも、ブラックゾーン中心部はほとんど知らない強いモンスターばかりだから予測とか関係なく、臨機応変に対応出来るようにたくさん場数を踏んどくことが必要ですね」
「この世界には様々なダンジョンがあります。それは洞窟と言ったり塔と言ったり様々です。ダンジョンの最深部にたどり着くと、宝が待っています」
「宝ってどんな物があるんだ?」
高校生になっても、ゲームはやめられず、〈ダンジョン〉や〈宝〉といったワードを聞くと無償に気になってしまう。内心わくわくしながら敦也は訊ねた。
「そうどすね。例えば、凜が持つ剣〈神威〉はダンジョンで入手した宝です。この世界には神器と呼ばれる物が存在します。〈神威〉もその一つです。神器は所有者に強大な力を与えてくれます。能力と合わせて使い完全に神器を使いこなせば持つだけで一騎当千もできるでしょう。後は、野菜や果物の種があったりします。広太が栽培しているシークワーサーも元はそこからですよ。まぁ、モンスターがいて攻略は難しいんですけど」
ダンジョンに神器。敦也は新しく出てきた気になるワードを頭で繰り返す。
「まとめて言うと、今敦也兄がしなくてはいけないことは、魔力と能力の使い方を身につけ、できれば神器を装備し【鍵の在処】をモンスターを倒しながら目指すことです」
「なるほどな。やっとわかってきた気がするよ」
『みんなー、夕食ができたよー。食堂にしゅーごー!』
「えっ、なに今の!?」
京子さんの声を頭に響いて敦也は驚いた。それが俗に言うテレパシーのようなものだと敦也はすぐに理解した。隣で凜が息を深く吸うと頭に凜の声が聞こえてきた。
『今のは京子さんのもう一つの能力です。簡単に言ってしまうとテレパシー。戦闘向きではないからギルド内部での通信担当をしているんです』
淡々と言っている凜に敦也は一つだけ疑問を覚えた。この世界で使える能力は生前の未練・環境・死因に関係していると空は言っていた。だとすると、京子さんの能力はどんな過去を持っているのか。なぜ能力が二つあるのか。そして、凜がなぜ神速の能力なのか、敦也はこの世界のことを理解すると色々と気になり始めた。
「どうしたんですか先輩。ジロジロ見て、なにかついていますか?」
敦也は、いいや、と首を横に振り誤魔化す。
今は置いておこう。辛い過去なのかも知れないからな。
「では、食堂に行きましょうか」
凛を先頭に空と広太と俺は食堂へ向かった。
食堂は新緑高校の食堂と似たような形だったが、規模も人の数もまったく違っていた。
敦也は凛に連れられ、凛の前の椅子に腰かけた。両隣には空と広太。凛の隣には京子さんがいた。
「さぁ、食べたまえ敦也君。食うことは生きることだ。今日は簡単なラーメンだが。味はしっかりしているぞ」
京子さんは箸を割りながら敦也に勧めてくる。
「もう死んでるんですけどね」
と敦也は笑みを作り、どれどれと好奇心だけの感情で、ラーメンを食べる。
味は京子さんが言っていた通り美味しかった。ダシもしっかりしていてやみつきになりそうだ。
「美味しいな。こんなものが死後の世界で食べれるなんて」
「あぁ、生前じゃ食べることはできないだろうな。ケルベロスラーメンだ」
ケルベロスラーメン?
訳がわからず敦也は頭で復唱する。
「モンスターのダシってことだな」
キッパリとさりげなく凄いことを言う京子さんに驚き敦也は開いた口が塞がらない状態にかった。
「敦也くん。この世界じゃ仕方のないことだよ。昔人類はマンモスを狩っていたんだ。そして、食べていた。モンスターを狩り。食べることも可能さ」
「なるほど……だからこのせかいだけなのか」