鍵の在処-カギノアリカ1No.39
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「楽しんでるかみんなー!!」
咲夜の声が桜を囲んだギルドメンバー全員に届き、そこかしこから大音量の歓声が上がる。
夢猫メンバーはいま祐希の提案だった花見をしている。ギルドメンバー全員で立派な桜を囲んで宴をしているのだ。
今日のために京子さんをはじめとする夢猫厨房の力で出張バーベキューが開かれている。
敦也たち五人がダンジョンを攻略してからもう三日が経っていた。あれから空は寝たきりで三日を過ごし、敦也も一日は眼を覚まさなかったらしい。祐希はぴんぴんでうろちょろ遊んでいたらしいが。
結局今回のダンジョン攻略で神器なような凄いものは手に入らなかった。けれど、敦也は勇気と自信をしっかりと手に入れることができただろう。凜は大切なことを知ることができて色々と気持ちの整理ができただろう。
「敦也くん、綺麗だね」
紫陽花模様の浴衣姿に背中に直剣を背負った祐希がとなりに立ち、敦也を下から覗きこむようにして見る。
敦也は皿に乗せた肉を口に運び、呑み込んでから祐希に視線をやる。
「祐希は桜を見たことはなかったんだよな。よかったな、見ることができて」
「うん、ぼくはこの世界に来れて良かったって思ってるよ。ずっと暗い部屋に引きこもっていたぼくは何も知らないからね。なにより、敦也くんや凜ちゃんというとても大好きな友達に出会えたしね」
祐希は明るい笑顔を敦也に見せて、彼の皿に乗っている肉を手で摘まみ口に運んだ。
「んー、おいしー! もう一枚ー」
敦也の皿からどんどん盛られていた肉が減っていくのを、彼は苦笑いで見ながら遠くの空を流れる一筋の星を眺めて、
いつか飛鳥と一緒に見たいな。
飛鳥が無事に平和に生きていることを願った。
「おーい敦也!」
「敦也兄元気ですか?」
広太と空が敦也を見つけて、広太は走って空はバリアに乗って平行移動して寄ってきた。
「空こそ大丈夫かよ!?」
「僕の能力は車椅子みたいで便利ですよねー」
空はいまだに右腕と右足には包帯が巻かれていた。まだあまり動かないらしかった。
「こいつは馬鹿だから死ねばよかったんだよ」
広太は口に肉をたくさん入れながら喋った。
「あれ、空がやられて一番怒ってたの広太だったでしょ」
「は、気のせいだよこいつなんてまったく気にしてねぇよ!」
「僕も広太なんてどうなってもいいと思っていますよ」
「二人とも素直じゃないんだからー」
祐希は笑い二人を眺め、広太と空は呆れたような顔をして祐希を見た。
「あ、ぼくそろそろ行くねー」
祐希は、ツインフローズンアイスは特設された舞台でライブがあるので着替えるために舞台裏に駆け足で行った。
敦也は広太と空から離れ、凜を探すために歩きだす。すぐ近くにいて見つけだせた。凜は桜に背中をあずけて座ってどんちゃん騒ぎを眺めている。
「ちゃんと食べてるか」
「先輩……わたしは玲奈に会いに行きたいです。生き返って会いたいです。そして、言いたい。ごめんね、って」
凜は瞳に少し涙を浮かばせて敦也を見上げた。
「おいおい凜、泣くのはもう少し早いぜ」
「え、どういうことですか?」
敦也は答える代わりに特設された舞台を指した。
そこには氷道、真奈、七海、祐希たちがライブ用の衣装に着替えて、それぞれが楽器を構えてスタンバイしていた。
「今日はわたしのわたし達の大事な仲間の誕生日を祝うバースデーソングを送るわ。凜ちゃん誕生日おめでとう」
氷道さんの言葉とともにツインフローズンアイスのライブが始まり、音と歌がそこにいた全員の意識に染み込んでいく。
となりに座っている凜は何が起きたかわからないような顔をして、バースデーソングを歌う氷道と祐希に釘付けだった。
「かなり遅れたけどさ、誕生日おめでとう、凜。これからもよろしくな」
敦也、は小さな箱をポケットから取り出して凜に渡す。
「先輩……これ?」
凜は小さな箱を受けとり、嬉しそうな泣きそうな顔をする。急なことで認識が追い付かないのだろう。
「ま、あまり期待はするな。時間なかったし、怪我で動けなかったしさ」
凜は箱を開き中に入っているものを見ると、頬を涙が流れ始めた。
小さな箱に入っていたものは、綺麗な透き通った、だけど形の悪いただの石だった。
「庭で転がったら偶然見つけて、綺麗だなーって思ってさ。それを上げるよ。って、泣いてる!! 嫌だった、やっぱりこんなんじゃ嬉しくなかったか!」
「……いえ先輩、とっても嬉しいです。ありがとうございます、大事にします!」
凜は頬に涙を流しながら笑った。俗に言う嬉し泣きってやつだろうか。
「喜んでくれたならよかったよ」
「ありがとうございます、先輩。ライブや誕生日プレゼントまで用意して貰って。わたしとっても嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね」
「あぁ、一緒に【鍵の在処】を目指そうぜ!」
ツインフローズンアイスが歌うバースデーソングを、凜は嬉し泣きをして敦也は笑顔を浮かばせてその表情を眺めていた。
彼ら彼女らは生きている。今この場所で生きている。
待つのが、希望か絶望か、幸か不幸かなんて関係ない。
彼ら彼女らは生きる、目指す。彼ら彼女らを待つ人の場所へ。
「さて、敦也くんに飛鳥ちゃんと駒は揃った。物語はここからだよ。わたしは【鍵の在処】君たちの頑張りを眺めて待っているよ。早く会いに来なよ……楽しみだな」
ミサトが部屋の壁に写る夢猫の宴の様子を見て微笑んだ。
「行動を始める鍵の在処は君の心の中に」




