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鍵の在処ーカギノアリカ  作者: カルトン
死後の世界と真紅ドラゴン
3/53

鍵の在処-カギノアリカ1No.3

日・火・木で更新再開していきます。





瞼を開くと、まず目に入ったのは眩しいLED電球の照明だった。

LED電球の明るさに目を眩ませながら、敦也は上体を起こしてまわりを一瞥する。その結果、自分は制服のままふかふかのベッドの上で寝ていた事がわかった。矢沢先輩に殴られてできた傷はきれいさっぱり無くなっていた。

四方はカーテンで囲まれていて、外の景色は見えなくなっている。

ここは、どこなんだ?

心の中でそう呟くと、ベッドから下り、カーテンを開ける。気を失い倒れたあと先輩の誰かに運ばれたのかもしれないと敦也は考えていた。

そこには見たことのない若い少女が着替えていたのだった。そして敦也に背を向けて立っていた彼女が、下着以外なにも身につけていないという格好だったのだ。

「はっ!?」

まったく想定外のその光景に、敦也は混乱して立ち尽くす。起き抜けのせいか頭がうまく回らない。なにがどうなっているのかさっぱりわからなかった。

無防備な下着姿で立っていた少女が、ぎこちない仕草で明るいオレンジのロングの髪を揺らしながら振り返る。

思わず息を呑むような、清廉な美貌の少女だった。細身で華奢だが不思議と儚げな印象はなかった。幼さを残しながらも均整が取れている体つきである。

エメラルドに近い色の大きな瞳が、硬直して動かない敦也を正面から見つめる。

敦也はそんな彼女の姿に目を奪われたまま何かを言おうとするが、

「……ふえっ!?」

現実認識がついてないのか、状況把握が間に合ってないのか、少女が敦也に向かって驚きの表情で間の抜けた声を上げた。それでも敦也は彼女を凝視したまま動けなかったが、なんとか思考をフルスピードで回転させて、現状を確認するためにまわりを見回してみた。

その結果、まず目に入ったのはでかい犬なのか猫なのかわからないぬいぐるみ。次に床に散らかったままの衣服。どうやら、彼女は今日着る服を選んでいる最中だったらしい。どうみても、普通の女の子の部屋だった。

敦也は視線を少女に戻す。

「ふえっ、あっ!」

また間の抜けた声を出しながら少女は身体を両腕で隠すようにすると、怒りと困惑が混ざったような表情を浮かべて俺を睨み付ける。

んー、困った。これは完全に話が出来る状態じゃないな。

女子の半裸など見る経験など滅多にあることじゃないから、敦也本人としてもこれが初で目の前にいる彼女も見られるのが初めてのようで身体は震え、瞳には小さな滴が浮かび上がっていた。

この状況を変えるため敦也は考えて口を開く。

「とりあえず、俺は怪しい人じゃないから」

「じっとしていてください!」

「安心してください、お願いします」

敦也の弁明は彼女に銃を向けられあっさりと幕を閉じた。

もとからコミュニケーション能力に乏しく、女子と会話するのは苦手なほうである。敦也は銃を向けられ嫌な汗を流す。

コミュニケーション能力に長けている男ならここで、上手く言いくるめて少女も巻き込みベッドにダイブしそうなものだが。いまこの場でそのような事をしたら、即座に銃で撃たれて終いだろう。

いま思うとちゃんと飛鳥の顔を見て会話できていたか不安になってきた。

何も出来ず敦也は浅く息を吐く。

少女は依然として銃口を敦也に向けたまま動こうとしなかった。

だからといって、さっきじっとしていてください、と言われたのに喋ったら銃で撃たれそうなので敦也からは何もできずにいた。だから、少女から話を切り出すのを待っている。

「どっから来たの。新手の敵、ラックの人型モンスターなの?」

などと、女子はぶつぶつと呟く。聞いたことのない単語ばかりで敦也には彼女の言葉が理解できなかった。

少しして唐突に少女が訊ねてきた。

「あなたは死にたいですか?」

「は、嫌だよ!」

敦也は少女の質問の真意をなにも考えずに、つい反射的にそう答えてしまった。

直後、少女の持つ銃から一発の弾丸が放たれ、敦也の腹を穿った。

「あぁぁぁっっー!!」

激しい痛みが全身に廻る。穿かれた部分からは血が流れ出てポロシャツを赤く染め上げていた。

「あなたは死にたくないんですね。わかりました、では、頑張ってきてください」

少女に視線を戻すと、片手に持つ銃からはいま弾丸が撃たれた証拠である硝煙が銃口から出ていた。

見知らぬ少女に変態の容疑で射殺されるか。よく見ると、結構可愛いのに。ちゃんと出会えば仲良くなれたかもしれない。それは無理だろう、彼には女子と仲良くなるような話術はないのだから。

瞼はしだいに重くなり、最後に瞳が映した少女は「ごめんね」と呟きながら、涙を流しているようだった。





暗い・黒い・闇・影。

彼の意識は身体はどこか深い処に落ちている。

回りは見えない。いや、暗くて回りが見えない。

銃で撃たれ意識を失った後、この暗いどこかで落ちてどれくらいたっただろうか。

なんであの子は泣いていたんだろう。

敦也は直ぐに考えるのを止めた。

あの少女と会うことはもう絶対にないから。

死んだら何が残るのだろうか。彼に残ったのは未練だけだ。バスケも続けたかった。中学の後輩にもう一度会いたかった。小学生の頃シンガポールに転校していった友人に会いたかった。飛鳥ともっと喋っていたかった。飛鳥に伝えたかった。

そんなことを考えているうちに敦也の落下は止まった。

長い間落ちていたな。ここは地獄か?

敦也は生前に何か悪いことをした覚えはないが、落ち続けていたせいか、勝手に地獄だと思い込んだ。嘘をついたから天国に行けるとは限らんが。

「ここは地獄じゃないよ。でも、天国でもないよ」 明るい弾んだ声が聞こえてきた。

敦也は聞いたことのある声のする方に振り向く。

そこには、昨日夢でみた幼女神と同じ服装で幼女神より大人びたと言うより大きくなった少女が佇んでいた。彼女の回りだけが明るくなっていて姿を確認することができた。

「あんたは誰だ?」

目の前にいるどこか神々しいオーラを放つ少女に訊ねる。

「敦也君それはないよ。昨日夢で会ったばっかじゃないか」

がっかりそうに肩をすくめ「やれやれ」と少女は首を振る。

「やっぱ昨日の自称神なんだな。何で急にそんな成長してるんだよお前?」

「敦也君わたしは自称神じゃないよ。れっきとした神だ。いやね、敦也君は幼女が嫌いらしく、わたしの首を二回も絞めたからね。今度は敦也君より一つ歳上にしてみたんだが……どうかな?」

自称をすかさず訂正し、神はクルリとターンした。スカートがはためていて、太股がちらりと見える。

「俺は別に幼女が嫌いってわけじゃない。自称神が嫌いなんだよ」

「敦也くん歳上の女性はどうだい?」

屈み込みながら、俺を上目遣いで見る。

昨日の幼女体型と違い身体に凹凸がはっきりと現れていて、Tシャツの隙間から胸の露出が気になってしまい敦也は目を逸らす。

「そんなことよりここは何処なんだ。天国でも地獄でもないんだろう。まだ、俺は生きてるのか」

「落ちつきなさい敦也くん。よし、場所を変えようか。こんな暗い場所じゃ、落ちつけないもんね」

彼女はそう言うと、パーカーのポケットから一本の鍵を取りだし手前に突きつける。すると、鍵の先端のまわりに黒いモヤが集まり錠前の形に変わっていった。

「っ……!?」

敦也は目の前で起きた現象に驚き息を飲んだ。

彼女は鍵を回して錠前を解いた。すると、黒い錠前から光が溢れ出し、暗かった世界は瞬く間にその光に飲み込まれた。

敦也はその光の眩しさに目を閉じた。




光が収まり、目を開きあたりを見回す。床は畳が敷き詰められていて、その上には座布団が並べられている。床の間には行雲流水と達筆な字で書かれた掛け軸が飾られてある。回りの襖は閉められている。どうやら、日本の和室をモデルにしたような部屋だった。和室そのものだった。

シャカシャカという音が聞こえてきた。敦也は視線を音の方に向ける。

「敦也くん、まぁ座ってくれよ。別に正座じゃなくても構わないからね。もうすぐ茶が完成するから、それを飲んでから本題に入ろうか」

さっきまで、ブカブカのパーカーを着ていた彼女は今、見事に着物を着こなし、座布団に座り茶を立てている。髪が長くて黒いからか着物が非常に似合っているのだ。また、着物の隙間から胸が少し露出されていて、敦也は少し目のやり場に困った。。

敦也は近場の座布団に座りもう一度あたりを見回した。

一回落ち着こう……彼女は多分何か知ってるっぽいし、色々聞き出せばいいんだ。

一瞬でこんな場所まで移動した仕組みがわからず、敦也は不安と疑問が混じり合う脳内を静めようと呟いた。しばらくして、彼女は出来上がった茶を渡してきた。

「すまんな、羊羹とかあればもっと良いのだがな。準備が間に合わなかったんだ」

彼女は笑いながらそう言うと茶を飲んだ。

敦也もあやふやな作法で湯飲みを傾けて茶を喉に運ぶ。

茶の味の違いはわからないが、それでもこの茶は凄く美味しかった。

たどたどしい手で俺は器を彼女に返した。

「えと、美味しかったです」

彼女は満足気に微笑むと器を受け取った。

その器を脇に除けると、先程までと打って変わり、少女は真剣な表情を作った。

「では、そろそろ本題に入ろうか」

敦也も思わず背筋を伸ばす。

「敦也くんは、自分がどうして死んだのか覚えているかい?」

つい先ほどのことだ忘れるはずがない。

そう思った敦也は自信満々に答えた。

「忘れるわけないだろ、銃で撃たれたんだ」

俺は銃で撃たれた部分に手を当てながら答えた。ポロシャツの生地にあった傷は無くなっていた。

彼女は敦也の答えを聞くと、少し困った表情をした。

「確かに敦也くんは銃で撃たれたて死んだね……でも、敦也くんは銃で撃たれる前から死んでいたんだよ」

「銃で撃たれる前から死んいでたって、どういう事なんだ?」

敦也は、彼女の訳のわからない答えに補足を求める。

「君の死因は殴殺だよ……もしかして忘れたのかい? 敦也くんは先程、二年の先輩に殴られ、先輩達が去った後に深く長い永遠の眠りについてしまったんだよ。つまりを言えば、君は先輩に殴られ死んだんだってことだ」

「じゃあ俺を銃で撃ったあの子は一体なんなんだ。それにここは何処なんだよ?」

「敦也君を銃で撃った彼女はともかく、ここは死んだ者が来る世界だよ。でも、地獄や天国じゃない。単に死んだ人じゃなく、未練を残した者だけがこれる世界……閉ざされた世界。通称『クローズ』さ」

「閉ざされた世界(クローズ)……」

「まー、成仏できない生前に未練たらったらの人達が来る世界ってわけだよ。で、敦也くんもそのうちの一人ってわけだ」

世界についてはよくわからないが、取り敢えずいま自分が置かれている状況だけは理解でき、肩の力が自然と抜けて敦也は息を吐いた。

「どうやったら俺は成仏できるんだ?」

敦也のした質問に彼女は口を大きく開けて両手を挙げて驚く。

「ホワイッ! 敦也くん! 君は消えたいのかい? 未練があるからここにいるんだよ。」

少し考えてから敦也は答える。

「未練はあるけどどうしようもないしな。地獄の拷問の日々を漫喫できるよう善処しますよ。俺を天国や地獄にでも送ってくれよ自称神様」

彼女は敦也の言葉に呆れたのかため息を吐いた。 「敦也くん。天国や地獄なんてないんだ。あるのは生か死か。死んだら消えるんだ。でも、未練を残して死んだ人の為に閉ざされた世界(クローズ)という世界はあるんだよ。君ら人間は必ずどこかで間違いを失敗をお越し、後悔し未練を残す生き物だ。だから、諦めるな。この世界にはそんな君らを救う素晴らしいものがあるんだから」

「どういう事だよ。閉ざされた世界にはなにがあるんだよ?」

敦也の質問に彼女は答えるために口を開いた。

「生き返る術とかね……あとは生き返ってから訊いてくれよ。神でも時間には勝てないからさ」

彼女は立ち上がり襖の方へ歩く。襖の手前で振り返って敦也を見て言った。

「言い忘れていたね。わたさの名前はミサト。また会おう、頑張ってね」

そう言い残して、彼女は襖を開く。開けられた襖からあふれでた光が一瞬で敦也と和室を飲み込む。

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