乙女ゲームのヒロインに転生したけど私には大好きな婚約者がいるのでさっさと告白しなさい!!
…想像と違う展開だったらすいません。
「それではレイラ様は、本気でレオン様が好きなのですね」
「そうです。私はレオン様がす、好きです」
なんの拷問でしょうか。私は先ほどからセレナさんに何度もレオン様が好きだと告白させられています。
あの後、何とか婚約破棄をする前にセレナさん達に追い付いた私は、セレナさんを無事に捕獲して近くの教室まで連行してきました。
そして、婚約破棄が嫌だと伝えたが、理由を説明しないと納得しないというセレナさんに仕方なくレオン様が好きだと白状しました。
それで納得すればいいんですが、セレナさんは私の言葉を疑い中々信じてくれません。攻略者の言葉は簡単に信じたのに、なんで私の言葉は信じてくれないのでしょう。
「レイラ様、かわいい」
「急に何ですか」
セレナさんが突如私の体に抱き付き、頭を撫でてきます。セレナさんってこんなキャラでしたっけ。
「ご安心ください。私が必ずやレイラ様の思いをレオン様に伝えさせてみせますわ」
なんか不味い展開になった気がするのは、気のせいでしょうか。いや、気のせいだと思いたい。セレナさんの背後に炎が見えそうです。セレナさんはこんなキャラではなかったのに、一体どうしてこうなった!!
………ってあれ?これって私のせいか。私が乙女ゲームのストーリーを滅茶苦茶にしたからか。健気で優しい少女を私が…。ヤバイ。なんか凄い罪悪感が…。
「レイラ様とレオン様をくっ付けるラブラブ作戦の開始ですわ~」
「お、お願いしますわ」
断れない。自分の責任だと思うと断れない。だけど、レオン様との恋を友達に応援して貰うのは嬉しいものだと、この時の私は深く考えずにいた。
後日、セレナさんの大暴走が始まるとも知らずに…。
*********
「なんで…、なんでレオン様が縄で縛られているんですか!!」
「この場所に連れてこようとしたら、用事があるって断られてしまい仕方なく…。ごめんなさい」
舌を少しだけ出して、可愛らしく謝罪するセレナさん。こんな事になるなら、セレナさんと一緒にレオン様を迎えに行くべきでした。レオン様に告白する事で頭がいっぱいだったのが悪かった。
まさか、セレナさんがこんな行動に出るなんて…予想外すぎます。
「レイラ、悪いけど縄を解いてくれないかい?」
「わ、分かりましたわ」
って、現実逃避をしている場合じゃないでしょ。私は慌ててしゃがんで、レオン様の縄をほどこうとします。レオン様の顔が間近にあり、緊張の為か縄がほどけません。
「たぶん簡単にはほどけないと思いますわよ。レイラ様から伝授してもらったチート魔法を応用した技を使いましたので…」
「何の魔法を使ったんですか!!」
「接着の魔法ですわ」
その魔法は確かに教えましたよ。だけど接着の魔法といっても色々と種類があって、セレナさんには教えたのは紙と紙をくっ付ける時に使う、のりの魔法ですよね。
のりの魔法をどう応用したらボンド以上の接着を可能にするんですか。
「全然ほどけないじゃない。そうだ。セレナ様、魔法を解除して下さい」
魔法は使用者本人であれば直ぐに解けます。なんで今まで思い出さなかったんでしょう。もう少しだけ辛抱して下さい、レオン様。
「………ごめんなさい。条件付き解除に設定してありますの。だから解除は私でも無理ですわ」
条件付き解除って、あれですよね。条件が満たされない限りは使用者でも解除が不可能なる追加魔法の一種ですよね。その上、解除が不可能になる事から、王族にしか伝承されない秘匿魔法にも指定されているあれですよね。
確かにセレナさんは王子の婚約者だったので、使えても可笑しくは無いですよ。でもね。だからってね、…だからってね。
「使っていい魔法とダメな魔法の区別くらいはして下さい!!条件付き解除って、もし条件が満たされなかったらどうする…つもりでしたの?」
「その時は気合いでレイラ様が何とかしますわ」
そのポジティブ思考+他力本願は何処から湧いてくるんでしょう。信頼されているのは嬉しいけど、私も万能ではありませんからね。
それに、危うくレオン様の前で怒鳴るところだった。あ~、この状況どうしよう。
いやまだ大丈夫だ。落ち着くんだ私。解除の条件次第では何とかする必要はないんだ。
「それで解除条件は何ですか?」
「それは勿論、レイラ様が好きな人に告白することですわ」
……………………………………はい?
「やっぱりレイラには好きな人がいるんだね」
キラキラした顔で私を見守るレイラ様。縛られながらも優しい笑顔で私を見上げるレオン様。この状況でレオン様に告白するんですか!?
でも、ロマンスの欠片もない状況ですが、攻略者達の妨害がない内に告白するのが得策でしょう。良いでしょう。私だって本気なんです。覚悟を決めましょう。
「私はレ、レオン様のことがす、好「見付けたぞ。レイラ」」
私の言葉を遮り、シド王子が現れました。その後から残りの攻略者達も現れます。
…うん。何となく予感はしていましたよ。だけどね。だけどね。本当に来る奴があるか!?空気読め。
「私に声を掛けないで、勝手に何処かに行かないで下さい」
「私に用事がある度に話し掛けに行くほど、私も暇ではありませんから」
そもそもなんでネナートの許可がいるんですか。貴方は私の婚約者でも彼氏でもないでしょ。はっきりいって他人だから。良く見繕っても同じ学校の同級生だからね。
「お姉様を呼び出さないでよね。元婚約者のくせに立場をわきまえてよね」
「私達は婚約破棄はしていませんよ」
だ・れ・が元婚約者ですか。ハルインは義弟だから家でレオン様と婚約破棄はしない事を何回も説明したよね。
レオン様の前でなければ、もうこの時点で魔法で攻略者達を蹴散らしたいところですよ。
「…レ、イラ」
最後は唯一の私の癒しであるルイ君ですか。なんですか。ルイ君の話しなら聞きますよ。
そう思いながらルイ君の方を見るとルイ君は小走りで私に近付くと、私の耳元で小声で呟きました。
「もう、レオンに告白した?」
「はい?」
今、私の癒しは何と言いました。私が戸惑っているとルイ君は、いたずらをする子供のような表情を浮かべて続きを教えてくれました。
「この間、僕以外の攻略者を魔法で倒したときに叫んでたよ。私はレオン様が…って痛い」
「俺のレイラに許可なく近くな」
こら、俺様王子。ルイ君に何するんだ。お前がルイ君を引っ張るから、ルイ君が尻餅をついただろ。
…ちょっと待てよ。俺様王子に怒りが向いて一瞬忘れかけたが、以前私はルイ君の前で盛大にレオン様への愛を叫んだって事か!?
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「恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃー」
絶対に今顔が真っ赤ですよ。よりによってルイ君の前で醜態を晒すなんて。私は顔を手で覆ってしゃがみこみます。
「レイラさんどうかしましたか」
流石にこの状況では、私の気持ちが理解出来るんだな。少し意外だったぞネナート。
だけど、今は話し掛けるな。ひとりにしてくれ。今の私の状況はあれだ。前世の時にも経験したあの状況にそっくりなんだ。
家に帰ったら弟に隠していた乙女ゲームが見つかっていて、「姉貴ってこんな趣味があったんだね。少し意外だったよ」って、笑顔で言われた時と似たような心境だ。大事な人に秘密がばれるのって、かなり恥ずかしいんだよ。
うぅ、なんで私は家族や友達といった大切な人の前でへまをするかな。んっ、大切な人?
私は恐る恐る横に目を向けます。そこには勿論、縛られたまま状況が理解出来ていないのか、目をパチパチさせて私を見ているレオン様が居て―――
「いつもと様子が違うけど大丈夫?」
「これは違うんです。だから、その…」
どうしよう。何を言っても言い訳にしかなりません。だけど正直にレオン様の前では猫を被ってました。とは絶対に言えません。
「くっくく、レイラ顔真っ赤」
「えっ、ルイ君?」
「こらルイ様。そんなに笑ってはレイラ様に失礼ですよ」
「だって、だって、くっくくダメだ。お腹が痛い」
突如、私の癒しであるルイ君が大声で笑い出しました。ルイ君はこんなに大声で笑うキャラじゃないのに、何がどうなっているの!?
「それじゃあ、レイラの面白い姿も見れたし、そろそろ2人きりにさせてあげるか」
「それもそうね。転送」
「「「「えっ」」」」
セレナさんが指を鳴らすと、床が光だして魔方陣が現れた。そして魔方陣はルイ君を除いた攻略者達を呑み込、彼らは私の前から姿を消した。
「さあ、レイラ様。彼らは国王の所に届けたので、心置きなく告白をして下さい」
「ちょっと待って。国王の所に届けたってどういう事!?」
頭が爆発しそうです。もしかしてこれは全て達の悪い夢か。夢ですよね。お願いだから夢って言って下さい。
「彼ら3名はレイラ様に執着したために、勝手な行動をしたり成績を大きく落としています。それに加えて節度を弁えるよう注意した生徒、及び教師を陥れ何人もの人物が学園を去る事態となりました」
「それを見兼ねたセレナが国王に相談。最初は信じなかった国王も僕達が調べた証拠を見て、彼らに処罰をくだす事を決断してくれたんだ。今頃は、国外追放を言い渡されて青い顔してるんじゃない」
「そうですわね。それにしても今日、レイラ様が意中の男性に告白するという噂を流しただけで、簡単に転送魔方陣のあるこの部屋に来るんですもの、楽な仕事でしたわね」
「だよね。あいつらの焦った表情…。セレナとレイラにも見せたかったよ」
つまり、役立たずな攻略者を国外追放する餌に使われたという訳ですか。
「ハハ、ハハハ、ハハハ」
先ほどまでの茶番とも言える出来事は一体何だったんでしょう。もう怒るより笑うしかありません。
「ほらレイラ様、笑うよりも先にすることがあるでしょう」
「僕たちは別室に行くから頑張ってね。……姉貴」
「えっ」
最後にルイ君が私を姉貴と呼んだのは空耳でしょうか。いや、きっと気のせいですよね。あの茶番で疲れて耳が少し可笑しくなっただけですよね。
それに、今はそんな事を気にするよりも大切な事が――
「あのレイラ…」
未だに縛られて、状況を把握出来ていないレオン様。先ほどまで色々あったけど、今こそ私の想いを伝えるんだ。
「レオン様、私、レオン様の事が――」
************
「良かったんですの?貴女の大切なお姉様をレオン様に奪われてしまって」
「いいんだよ。姉貴が幸せならな」
俺には前世の記憶がある。といっても、戻ったのは3ヶ月くらい前だけどな。記憶が戻ったのは本当に突然だった。そして、記憶が戻った理由は簡単。姉貴を思い出したからだった。
あの時の記憶を俺は鮮明に覚えている。あの日の朝方、姉貴はストレスを発散するために魔法を打ち続けていた。
「攻略者のせいで、今日もレオン様とお話し出来なかったじゃない。嫌がらせも受けるし本当に最悪。現実で逆ハーはごめんよ。逆ハーは乙女ゲームの中だからこそ価値があるのよ!!」
攻略対象者。逆ハー。乙女ゲーム。どれもこの世界には存在しない言葉。そしてレイラの今にも泣き出しそうな表情。それを見た瞬間俺の中に前世の記憶が流れ込んだ。
ルイとして生きてきた記憶の中に流れ込む異物。俺はその日、熱を出した。
「大丈夫ルイ君?薬は飲める」
(…姉貴)
「ッゴホ、ゴボ」
「話しちゃダメ。ちゃんと寝ていなさい」
保健室で横たわる俺に姉貴が看病をしていた。姿は違えどレイラが姉貴である事は間違えない。俺は姉貴の前世の弟であること。そして昔から好きだったことを告白しようとした。今は兄弟ではない。上手くいけば結婚も出来る。そう思った。だけど――
「レイラ居る?」
「レオン様。どうして此処に…。えっと、あのこれは違うんですよ。浮気ではないですからね。ただクラスメイトが心配で介抱していただけですからね」
「そんなに否定しなくても大丈夫だよ。レイラが優しいのは僕が一番よく知っているからね」
レオンの言葉でタコみたいに真っ赤になる姉貴を見て俺は悟った。こいつには敵わない。姉貴はレオンの愛している。そしてレオンもまた姉貴を愛していると――
「レイラ、僕、だい、丈夫」
「…でも」
俺を心配して離れようとしない姉貴。こういう所が攻略対象者達に姉貴は自分が好きだと誤解させるんだよな。困っている奴がいれば放っておけない姉貴。
それが今は少しだけ悲しかった。
「僕、もう寝る」
「分かった。また、放課後に来るね」
「ルイ君も早く風邪を治すんだよ」
レオンと幸せそうに保健室から出ていく姉貴を毛布の下から見守りながら、俺は新たに決意をした。姉貴の恋を応援しようと。
未練がない訳ではない。だが、それ以上に俺は姉貴の幸せを願っていた。俺はルイを演じながら、他の攻略者を姉貴から遠ざけようと影で動いた。
その過程で悪役令嬢のセレナが前世の記憶を持つ事を知り、俺はセレナに協力を扇いだ。
「勿論OKですわ。私のレイラちゃんの幸せの為ですもの。是非協力させて下さい」
…セレナの本性を知り、協力を扇いだ事を若干後悔したのは秘密だ。
「レイラちゃんは天使」
「頼むから姉貴の前で本性を出すなよ」
「当たり前よ。本性出したらレイラちゃんに嫌われるじゃない。この間もレイラちゃんに警戒されないように天然ガールを頑張って演じたのよ。レイラちゃんの困った顔、本当に可愛かったよね~」
セレナは普段の性格とは似ても似つかない性格をしていた。二重人格か。と、心の中で何度も突っ込んだほどだ。
だが、セレナの仕事は凄かった。国王への根回しに、攻略者が隠ぺいした筈の不正の証拠の入手。俺だけでは無理な事までやってくれた。それについては、感謝してもしきりない。
「幸せそうね。やっぱり、レイラちゃんは笑顔がよく似合うわ」
セレナの言葉に俺は水晶を覗きこむ。水晶の中で姉貴は幸せそうに笑っていた。告白が成功したのだろう。これだけ幸せな顔を見たら、俺も頑張って良かったと思えた。
………だから、そろそろ俺も現実を見ないといけない。俺はセレナを見上げて叫んだ。
「なんで俺が縛られているんだ!!!!」
「…成り行き?」
現在の俺はレオンと同じように縛られていた。なんでだ!?成り行きで縛るな。拘束を解け。喚きたい気持ちでいっぱいだった。
「実はね。今回のレイラちゃんの告白に伴って、困った事態が起きたのよ」
「…一体何の話しをしているんだ」
嫌な予感がした。
「シド王子を国外追放して、この国の跡取りがいなくなってしまったの」
「そう言えば、一人っ子だったな」
「そうなの。それで国王は王族の血をひく私を養子に迎える事に決めたの。元々、シド王子に嫁ぐ予定だったので、国王の娘になるのは問題はありませんからね」
国王にはあいつしか子供がいなかった。故に、甘やかされて俺様な性格に育ったんだよな。と、少し呑気に考えていた俺が悪かった。
「だから、ルイ。貴方は私と婚約してこの国の国王になりなさい」
「…えっ」
「娘になる変わりに、結婚する相手は自分で決めていいと国王に約束させたんです」
セレナの頬が少しずつ赤く染まっていく。つまりセレナは――
「俺の事が好きなのか」
「先ほどからそう言っているでしょう。ルイがす、好きだから…、成り行きでレイラちゃんと同じ方法で告白したって。…恥ずかしいからこれ以上聞かないで下さい」
拘束が解けた。これはセレナが好きな人、つまり俺に告白したからだよな。
「セレナには悪いが俺はまだ次の恋を始めるつもりは「返事は結構です」」
遠回しに国王になりたくないと伝えようとした俺の言葉をセレナが遮る。そこには悪い笑みを浮かべたセレナがいた。
「私が絶対に逃がさない。絶対にルイを惚れさせてみせますわ」
逃れられない。そう本能がいっていた。
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数十年後、俺はセレナの宣言通りこの国の国王になった。全力で逃げたが、いつの間にか捕まっていた。でも、俺は今の生活が嫌いではない。姉貴もレオンと無事に結婚して幸せな生活を送っている。
何だか、全てがセレナの思い通りになってしまった気がする。
「お父様、どうしたの?」
「何でもない。少し昔を思い出しただけだ」
我が子の頭を撫でながら、俺は口癖になっているこの言葉を言う。
「お前は好きな子が出来たら、さっさと告白するんだぞ。でないと、周囲が何をするか分かったもんじゃないからな」
「分かった」
本当に意味が分かっているのか。そんな事を考えながら俺は明日も明後日も、同じ台詞をいい続けるのだった。
読んでくれてありがとうございます。
登場人物紹介
レイラ(女)
攻略者の前では心の中は毒舌
根は優しい
レオン様が好き
セレナが王妃になった今でも彼女の本性を知らない
レオン(男)
レイラが好き
レイラは他の人が好きだと誤解していた
結婚後はレイラを溺愛
ルイ(男)
レイラの前世の弟でレイラが好きだった
現在はセレナが好き
レイラの幸せを誰よりも願っている
セレナ(女)
ルイの前以外では本性を絶対に出さない国民から慕われる王妃
実は色々と凄い人
この人には誰も逆らえない
他の攻略者(男達)
国外追放される
その後は作者ですら知らない