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思惑。

 そして。


 更に深い成果として、彼は人間に対しての評価を改めた。



 知性は無い。が、かなり行動力があり、その分体行動は極めて複雑。更に分体の細かなバリエーションも、特筆に値する。


 言うなれば、飾り気を100倍くらいに増した鳥のような生き物だ。ちょうど2足歩行同士、そして空を飛ぶ者同士だ。


 これが彼の人間評。



 そう。


 彼は、空爆を行ったのが人間である事も知っていた。


 一体、何がどうなってああなったのか、そこまでは分からない。


 だが、飛行機そのものは、分体の1つがずっと見ていた。アレから何かが落ちて、火が付いた。


 そして飛行機・・小さな足を持った無茶苦茶デカい本体・・は、飛行場にいくらでもあったので、人間の本体の一種であると、既に認識済みであった。


 自動車を人間の本体とみたように、飛行機もまた人間の外皮と推測するのは、難しくなかった。



 これで彼が人間に怒りを抱いた・・・という事もなかった。


 すげーな、とは思ったし、よくも罠を壊しやがったな、とも思ったが。


 山を焼くような代物と正面切って戦うほど、バカでもなかった。


 それに、本体が無事である以上、彼には何も無かったも同然。


 消された分体1つ分のエネルギーなど、既に100人以上の人間からお釣りが出るほどもらっているので、何も問題ない。



 それに。



 人間は、これからの彼の、主要栄養源になるのだ。


 食物に怒る人間が居ないように、彼もまた、人間を怒ってなどいなかった。



 あいつに比べれば、可愛いもんだ。



 彼にとって、最悪の恐怖は、いまだ、あの大イノシシであった。


 人間は簡単に殺せる。が。


 あのイノシシは、死んでも動いていた。


 確かに人間の攻撃力は常軌を逸しているが、それだけだ。


 死ぬ以上。殺せる以上。


 彼にとって、そこまでの脅威でもなかった。



ブオン


 1台の自動車が県道を行く。


 深夜の街道では、運転席の人間の姿が見えなくても、さほどの不思議はない。


 だが、その車の運転技術が素人くさいのは、要注意だ。


 安全運転を志しているのは分かる。速度は遅い。だが、交通安全の基本が分かっていないのか、障害物や対向車との距離がギリギリだ。


 常時、ミリ単位ですれ違う車体。


 人間業ではないし、こんな危険運転、間違いなく注意される。



 そう。


 人間でもなく、注意もどうでもいい者が、ドライバーだ。



 すげー!


 人間に合わせて動かさなきゃいけないのがアレだけど。


 すげえええええええ。


 この外装、めちゃくちゃすげえ。



 彼は、いくつものサンプルを手に入れた事と、複数の分体が仕入れた人間社会の知識から、人間の振る舞いをマスターしていた。


 現在彼は、車体の四方八方に目を配置。そしてハンドルやアクセル、ブレーキに、腕をペタリと張り付かせ、繊細なコントロールから力強いブレーキングまで思うがままに自動車を操っていた。無論、ラジオやエアコンも操作しているぞ。


 彼はそれなりに目立っていたが、夜間の人間の視覚の頼りなさを知っているので、そこまで警戒もしていなかった。


 目立っている。


 そう、彼の乗っているのは、先日拝借した、自衛隊車両だから。


 それが夜間、街中を自由にうろついている。



 当然、市民から不審の声が上がった。


 自衛隊が動き回るのはけしからん、と言った声や、何に対して備えようとしているのか、それは市民に伝えないのか、と言った不安の声。


 そして自衛隊は、そのナンバープレートから、奪われた車両である事を把握。


 彼はいよいよ、人間の包囲網にかかりそうだった。



 お。


 来たか。



 残念ながら。


 まこと、残念ながら。



 ざっと・・・800台に、1万人といったところか。


 まあ、良い。



 頂きます。



 包囲網を敷いたのは、彼の方だった。



 自動車で走っていたのも、そもそも分体。


 本体は、じっと成長している最中ゆえ、栄養を運ばなければならない。


 人間は、何かに集まる性質がある。それは他の生き物のような、メシやメスのため、だけでもないらしい。


 そして彼は分体の運ぶあらゆる情報の中から、テレビ画面の情報も得ていた。


 あの山の映像も、見た。


 彼自身、分体によって多角的に監視した事があるので、あの地形だとなんとなく分かった。そもそも彼の視力は、鳥からも獲得しているのだ。人間よりはるかに認識力は優れている。


 人間のコミュニケーション言語までは理解出来なかったが、ヒト種の映像による情報交換能力の高さについては、自動車を襲った時にも既に知っている。カーナビもあったし、紙の地図も見た。全く同じ画像があった以上、全く同じ模様を見た以上、そこに何がしかの意味を見出さないというのは、無理がある。


 人間は、どうやらあの山を目的視している。


 おれの罠を欲している?それとも、鳥類や動物などのエサの争奪戦によって、おれが目障めざわりになったか。


 彼は、そもそも無数に居る人間が、わずか数十人食われたくらいの事を問題視するとは思っていなかった。


 山に巣食っていたイノシシより、はるかに多いのだぞ。そしてより大きいテリトリーも持ち合わせている。


 彼は、山に来るような人間は、街での縄張り争いに破れたような人種だと解釈していた。


 平地でのメスの獲得や、メシを取れなかった事による、場所替え。その結果として、人間種の少ない山に来ざるを得なかった。


 そんな人間のためにまさか、他の人間が動く。そんな事態は、彼の頭には全くの想定外。


 考えられなかった。



 だから、彼にとって、人間というものは、かなり知性の低い存在として捉えられていた。無軌道な性質にして、無鉄砲。かつ無謀。


 食しても得られるものは少ない。


 が。



 彼らの群体行動は、かなり興味深い。


 かなりおおっぴらに喋りまくっている事から、音による伝達を重んじているのは分かる。


 だが、それ以外もある。


 それが地図。あるいはテレビ。それらに代表される、映像伝達。


 そういえば、人間の薄皮にも、種種雑多様々な模様があった。素材というのか、それも違っていた。恐らく、鳥の巣のように、ヒトによって、好きな素材が違ったり、薄皮の作り方が違うのだろうな。


 そう。人間は、外皮や外装を、めちゃくちゃ作る。


 巣も無茶なバリエーションで作りまくってる。


 彼は、これだけは、人間には敵わないと思った。


 なぜ、巣の形が違うのか、想像すら出来ない。彼にとって、巣とは空間そのもの。何者であろうと、彼の巣に近付いた瞬間、エサになる、最高の癒やし空間。



 そして理解出来ないとはいえ、彼は人間の外装にも意味があるとは分かった。


 例えば、今乗っている自衛隊車両は、街からのはぐれ者が使うと知っていた。この外装をまとった者は、街ではない場所に営巣していると、分体からの情報で知ったのだ。


 そんなものが街中をうろついたりしたら、当然、街という縄張りを守るため、街の強者が現れる。巣を守るため、オスもメスも出て来る。子を守るために。生活のために。



 同士討ち効果が、見込める。更に彼は表立つ事なく、人間社会での振る舞い方も学習出来る。


 そして。



 彼は、街の駐車場にて車を止め、車内の床に穴を開け、そこから駐車場を移動。




 十数分後。


 知らせを受けた自衛隊が、その車両に近付いた時。


 そこには誰も居なかった。



 周辺を歩いているはずの、普通の人間らも。



 S県S市。某月某日。行方不明者多数。連絡の取れない者多数。そんな極限状況の最中。


 街中の監視カメラは、街をうろつく怪しい生命体の撮影に成功した。


 体長1メートル前後。アメーバを巨大化させたような不可思議な形状。でありながら、様々な物を触り、動かし、操作している。人家のチャイムを押して遊んでいる個体も発見された。


 惜しむらくは、そのカメラの映像を有効利用出来るチャンスが、もう無い事か。



 彼の放った分体は、日本各地に分散した。ある個体は電車の車体下にへばりつき移動。またある個体は自動車を運転し、止まった地点で別の自動車を奪い、燃料補給の手間を省きつつ移動。また別の個体は川を泳ぎながら、橋やダムを見付けるたび、エネルギーを食しながら移動。



 エネルギーを取り入れるたび、分体が分体を放ち、彼は増え続ける。


 人間の数は無尽蔵。


 この世界には、もっと多くの巣がある。


 彼は、テレビの映像や、街角の地球儀で、海というものを知り、更にその外にも人間が住んでいる事を知った。



 彼は人間を過度に警戒もしていないが、彼の罠が一瞬で焼き払われた事を忘れたわけでもない。



 少なくとも、空を飛べる外皮だけは、捨ててもらおう。



 先の分体が車から下りたのは、飛行場の駐車場。



 彼は、全世界の飛行機、飛行場を潰すつもりであった。

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