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罠。

 そのニュースは、全国を騒がせた。


 地元青年団や有志による、行方不明者捜索隊。そのうち、山に分け入った者34名全員、またも行方不明となる。


 この現代社会において、あってはならない事件である。


 全員と言わずとも、多くの人間はケータイや無線で連絡が取れる状態だったのだ。それが、救援を呼ぶ事もかなわず、更に死体や乗っていた自動車までが消え失せた。


 警察は、大規模犯罪の存在を疑った。が、あまりにも、荒唐無稽こうとうむけい。かろうじて可能性が無いわけではないが・・・。


 そんな無茶な組織が、たった1日の間に10台以上の自動車を人目に触れる事なく運び・・・・。


 有り得ない。


 狩猟の出来る山だぞ。そこに車両運搬用の車は、入れない。ロープででも引っ張るしかないが、その場合どうやっても人目に付く。運搬車両に載せるにしても、そこまでどうやって誰にも見られず走った。


 人が死んだというだけなら分かる。野生生物、感染症、犯罪者。恐ろしく低い可能性ではあるが、それなら理解出来る。


 だが、死体が見付からない。ただの一体もだ。



 こんな事、絶対に有り得ない。



 この事件に関し、警察を責める声さえ聞こえなかった。


 あまりにも常軌を逸しすぎているこの事態に、政府は警報を発令。


 自衛隊による山狩りを行う。


 万が一に備えて、銃器を持ち、防毒装備でだ。


 絶対に有り得ずとも、組織的犯行の場合、抵抗出来なければ次の被害者を増やすだけだ。ゆえに、警察さえ動員しない。警察には山のふもとで、万が一の自力帰還者を待ってもらう。


 そして自衛隊は銃器のみならず、エボラ出血熱相当の超ヤバい感染症を想定して、防護服着用済み。


 完全装備の自衛隊で、日本国の全力装備で、挑む。


 手加減は、無い。




 また来たのか。何も考えてない奴らだな。


 まあ、メシが増えるのは大歓迎だがな。



 彼は人間に、さほどの警戒をしていなかった。


 それはそうだ。


 今まであらゆる獣を狩りながら、一度たりとも敗北は無い。常勝不敗。これで恐れを覚える方がどうかしている。


 そして。




 自衛隊100余名が山に入り、そしてその様子をやはり自衛隊の待機チームが撮影していた。


 ゆえに彼らは、その様を見た。


 森が人を食う光景を。


 その数分後、彼ら自身が味わう光景を。



 なんだろうこれ。こないだの奴らが持ってたのと似てるけど。こっちのが更に硬いな。それに多い。


 面白いなあ。



 彼は、そっと安堵した。


 前回現れたデカいの。あれの更なる大型が山ごと削りに来たなら、どうしようもなかった。


 良かった。大型化してないで。



 罠が稼働する範囲で。



 前回の捜索から、2日が経過していた。


 自衛隊出動の判断とフル装備の準備。それも毒ガス対策まで。


 当然ながら、即日対応とは行かない。


 ゆえに、彼もまた、準備期間を持ち得た。



 彼は30人以上の人間を食い、10台からのトラックを食っている。


 それで以前のままの大きさなわけはない。


 そして彼は人間を襲っているのだ。



 人間の行動パターンもまた学習済みなのだ。



 人間は、基本的に山を恐れない。彼の言うところの水草の根っこを踏み越える時も、まるで警戒していない。陸地の水草は、足に絡まないらしい。元水生生物としては驚くべき事実であった。


 だが、良い勉強になった。人間は、木を踏む。そこで警戒心を喚起されてはいない。


 じゃあ、そこに仕掛けよう。



 更に人間を数多捕食する事に成功したため、人間の生態に関しても詳しく理解出来た。


 眼球、鼻、耳などのセンサー類の限界範囲、可動領域。内臓器の強度。皮、骨、肉の硬度。


 そしてどこを攻撃すれば人間は死ぬのか。


 それら実験データも、山ほど得られた。



 そして彼は山に擬態する。



 自衛隊隊員が車から下りた山。もう、そこから彼の足元だ。


 彼は木になり土になり森を構成し、彼自身が山になった。


 樹木の構成要素を完全に把握した彼は、舞い散る葉っぱさえ再現する。そもそも光合成を行っていた彼だ。その程度の模倣は苦とも思わなかった。更に言えば、落ちた葉っぱは後でちゃんと彼自身に吸収される。落ちた場所すら、彼の肉体そのものなのだから。



 今回、もしも植物学者でも来ていれば、何かがちょっと変だな、と勘付いたかも知れないが。


 来ているのは、毒や感染症の専門家だけだった。



 そして、自衛隊車両から下りなかった人員を最警戒。本体は、硬い。知っている。


 分体として別れた者らは、個別に刺殺する。木々の全てから、刺突手は発動可能。


 彼は別働隊の連携可能エリアを認識していた。目や耳が利く範囲は、人間よりはるかに正確に知覚している。


 ゆえに、チーム単位での全員を同時に殺してしまえば、決して応援を呼ばれる事もないと判断した。


 ちなみに彼らの所持する道具から不思議な波長が出るのは既に調べがついている。猟師の持っていたケータイ。それに軽トラのラジオ。更に後続の捜索隊も、全く同じ物を所持。これで信号を送り合っていると気付かない方がどうかしている。


 ちなみに自然界でも鳥やクジラなど、鳴き声により情報交換をしている生き物は枚挙まいきょにいとまがない。鳥をおやつとしている彼だから簡単に分かったというのも事実である。



 そんな彼でも、防毒装備など想像出来るわけがない。


 刺突、出来なさそう。


 だから、作戦を変えた。


 刺突手で、絞め落とす。


 何度も動物に対して行った事があるので、自信はあった。


 更に人間や動物を食べた事により、腕部動作の細やかさを習得。あたかも筋肉が付いているように木の枝に擬態させた己の腕を操作出来るようになった。


 そして人間の骨格は、完全に調べ終えている。大量の神経と呼吸器、それに各種センサー類の源である、頭部。それを維持しているのは彼の腕でも容易く巻き付けられる、全周1メートルにも満たない首。


 いかな防御服であろうと、装甲でない以上、彼の腕は防ぎきれなかった。


 それに分体が様々な皮膚組織をバリエーション豊かにそろえているのも、先刻承知。狩猟者、捜索者の数だけ、衣服についての知識を得る事が出来たので、衣服前提で絞め落とす用意があった。



 狩りは、実に順調に終わった。




 マスコミは、該当区域上空にてヘリを飛ばす事は禁じられていた。だから、その様子を正確に報じられたわけでもない。


 ただ望遠鏡で別のエリアから、超長距離を通して撮影に成功した。


 森が動く様子の撮影に。



 マスコミは、この映像の公開の是非を政府に問い合わせた。


 森に気を付けましょう。それだけで終わるなら、すぐさま公開すれば良い。全テレビ局で流すべきだろう。


 だが。


 万が一、この、木々が人間を襲う現象が、全国の樹木で起こりうるのであれば。


 日本国に生えている何億という木々の全てを焼き払う必要がある。


 木は森のみにて生えているにあらず。


 一般人の住まう街にも、児童生徒の属する学校にも。



 そして最大の問題は、木を消滅させて、それで解決するのかどうか。


 無いと思いたいが、木の根から感染や侵食が発生し、草花などの植物でも同じ事が起こりうるのであれば・・・・。



 もう。


 日本は、人の住める国では、ない。




 自衛隊が。日本国の誇る最高戦力が、一発の銃弾を撃つ事さえ許されず、山に食われた。


 この事態に際し、政府は決断を迫られた。



 山を、焼く。


 まだ帰って来ない行方不明者や自衛隊隊員もろとも。



 作戦はシンプル。自衛隊航空機を用いて、空爆。陸上戦力は使わない。これ以上の被害は、出させない。



 今回の出来事は、既に全世界の知る所となっている。


 世界中のマスコミがつめかけ、今度の空爆も生中継されている。


 これは日本国政府からの要望でもあった。


 日本は、戦争をするのではない。内戦をしているのではない。


 全く何も無い森林地帯に対し、自然現象に対し、人間の生存を賭けて戦っているのだと、そう世界に伝えて欲しい。


 ゆえに、全てのマスコミに対し情報を解禁。撮影も自由とした。


 また外国政府にも、情報を提供。


 万が一、有ってはならない事だが、諸外国でも全く同じ事態が発生した場合の対処策として欲しい。


 人間を山に入れてはいけない。他山の石として欲しい。




 そして山は灰塵かいじんに帰した。


 およそ陸上生物は、植物だろうが動物だろうが微生物だろうが、生存者はあるまい。そう思わせる灼熱の地獄であった。


 周囲30キロ内の人間を避難させて決行した、絶対攻勢である。




 だが。


 彼は、木になるのが能でもなければ、陸地で黙って突っ立っているのが趣味でもない。


 彼は既に、次の猟場を知っていた。



 こいつら。次から次へと来やがる。


 そして帰って来た分体の1つからの情報で、数え切れないほどの二本足の巣を発見。


 更なる情報収集を命じ、100を超える分体を新たに生み出した。もちろん、より高性能化させたものを。



 そして彼自身もまた、新たな世界へと、踏み出した。


 前回作った罠はそのままに。



 つまり。


 人間は、彼の作った罠場に向けて全力で攻撃を仕掛け、そして罠を破壊する事に成功したわけだ。




 当然ながら、彼には、一切の痛痒つうようは、無い。


 あえて言えば、ちょうど近くをうろついていた分体の1つが消滅。そして彼お手製の罠が壊されて、ちょっとムカついた。


 それが、空爆の成果だ。

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