初めての鉄。
「ここ通ったんだな。ほら、足跡だ」
「あー。じゃあ、ここら辺に巣があるのかな?」
「それはどうか知らんけど。追ってみるか」
30台の男性2人。猟銃を所持し、猟犬を軽トラから下ろし、猟にかかろうとしていた。
今回はイノシシの移動範囲を見極めるためなので、2人だ。本気の狩りであれば、もっと大人数で囲い込む。
彼らがトラックから離れた数分後。
パーティーの離脱を見届けた生物が、樹上からトラックの車体に触れた。
チョンチョン
カンカン
硬っ!
なんだこれ。
有り得ねえだろ、この硬さ。
しかも、冷たい。心臓部のみ、まだ温かいが。それも冷めようとしている。この図体で、虫みたいな奴だな。それとも動く時だけ熱を持つタイプか。
おれからの接触で身動きしないって事は、おれを一切の脅威とみなしてないって事。
まだ襲うには、おれのレベルが足りないのか?
木のツタを模して活動している彼は、襲うべきか否か、思案していた。
硬度に見合った柔軟性しかなさそうな敵に、瞬発力は無いと判断。彼はその場で敵の身体組織を調べ始めた。
とりあえず、本体は即座に逃げられるように、接触させるのは腕部のみにしとこう。これなら水タンクと同じように簡単に切り離せる。
うーん。硬度が最高なのは、外皮のみか?内側の組織は柔らかさがある。腸や肛門のような組織も、他の動物に比べればはるかに硬いが、なぜか露出してしまっている。いや、硬いからこそ、外に出しているのか。
むしろ、そうして外部に押し出して体温調節などしているのか?でなければ、熱で自滅するとか。
肛門も温かい。臭いし、ここが排出口に間違いないだろう。
でも、もっと匂いのある部分が複数箇所あるんだよな、こいつ。
やはり、生存競争の最高位者なのだろうか。だから、こんなに匂いを撒き散らしても平気、か。
それより問題は、こいつどっからメシを食うんだ?そしてメシの種類はなんだろう。これだけデカいなら、いくらでも食うんだろうな。
あ。ひょっとして、ここらの動物が少ないのは、こいつが食ってるからか!
・・・あれ?でも。
この体で、どうやって水草の間を分け入るんだ?
さっきの分離した別働隊が取って来るんだろうか。なるほどな。
おれも、やってみよう。
彼は、自動車と人間の関係から、自身の可能性を更に飛躍させた。
おれのコピーを作れば良いんだ。そうして分体を作れば、行動範囲は2倍に増える。
でも、個体化させると、それは子孫か。
んー。
どっちが良いんだろう。
子供を作るべきか、それともおれを増やすか。
分からないから、両方やっとこう。
彼は完全に独立した個体を10体、そして自身と引き合う性質をもたせた個体を10体。それぞれ作り出し、世界に送り出した。
これで、現在の彼が消滅したとしても、彼の一族は生き残れる。
そして記念すべき彼の初めての子作りは、自己分裂であった。
配偶者を必要としないのは便利ではあるが、味気もなかった。
・・・。
やべえ。作りすぎた感ある。
20体、小型とは言え、おれと同じ能力を持った個体を分けたんだ。
そりゃあ、腹も減るわ。
さて。
いつまでも、身動きしねえんなら。
腹の足しにさせてもらうぜ。
彼は子供を作った事で、多少の大胆な行動を取れるようになっていた。
ゆえに、己よりはるかに大型で堅固な獲物であろうと、さほどの恐怖心に包まれもせず、襲えた。
・・・あのイノシシに比べて、あまりにもトラックが大人しかったため、というのが理由の大半ではあるが。
硬すぎる外皮は後回しだ。まず、内蔵から頂こう。
蛇腹状の腸。これなら、おれのハサミでもノコギリ歯でも切れる。
ジャキ
うーん。不思議な味だ。食った事ないな・・。こんなの、どうやって構成したんだ。何を食えば、こんな体になるんだろう・・・?
まあ、これでおれも同じ構成が作れる。
でも、なんで抵抗しねえんだろ。こいつ。
体温も下がりっぱなしだし。
ひょっとして、分離したのは、本体が死にかけだったからかもな。だから、あの分体を吐き出す事によって、絶対的な死を免れようとしたのか。
おれもいつか、こいつみたいになるのかなあ。
死にたく、ねえなあ。
1時間後。
「分からなかったなあ」
「途中でぷっつり途切れてたからな。足跡。イノシシが1枚上手だったな」
「だな」
2人の人間が帰って来た。
そして犬を荷台に乗せ、軽トラに乗り込み、発進。
カチ
「あれ?」
キーを回す。が。
カチ、カチ
「どした」
「エンジンかからん。バッテリー切れかあ?勘弁してくれよお」
運転席の男が、心からの溜め息をついて、嘆く。
「うわあ。ケータイつながるっけ、ここ。つながれば、誰かに迎えに来てもらえるけど」
「ここじゃ無理だけど、もうちょっと開けた場所に出ればかかるはず。・・・念のため、エンジン見てみるかー。簡単な故障だったら良いけど」
だが、2人が自動車から出る事は、無かった。
2人の人間は。いや、2人と2匹と1台は。
この世から消えた。
満腹。
今日は珍しい生き物を5体も食えた。
3種で構成が違うなんて、面白いなあ。




