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戦い。

 デカい。熱量も洒落になってない。さっきの4つ足の、1万倍くらい強そう。


 正味、勝ち目は無い。


 無い。


 なら。


 作るしか、ないわな。



 まだ奴はこちらに気付いていない。今のうちに、作る。



 準備したのは、ノコギリ歯4つ、ハサミ4つ、地上の水草の枝草をモチーフにした刺突手4つ。地面に立つ4本足と合わせて、16の手足を用意。


 これで、殺れるか?


 奴の耐久力が不明な以上、なんとも言えないが。



 おれは、あいつを、食いたい。


 やるしかない!



 彼は樹木にソロソロと登り、木から木へと乗り移って行く。音を立てない移動をするため、水タンクは地上で切り離している。背水の陣だ。



 作戦はシンプル。まずハサミで奴の四方を囲む。頭部、後部、左右を封じる。次にノコギリ歯で奴の動きを完全に止めた後、刺突手で内蔵のあると思しき場所に致命傷を与える。


 初手で刺突を使っても構わない、が。


 それで殺れなかった場合、逆襲を食う。


 あの体で襲われたら、間違いなく死ぬので、それだけは避けたいのだ。


 ゆえに、出来る限りの小細工をろうする。



 イノシシの直上付近まで接近した。奴は植物を食べている。


ズン


 本当に、重い音だ。こんなのを倒せるのか?


 ええい!ビビるな!



ゾ ア


 作戦通り、まず4方から弧を描いてイノシシの退路を完全に塞ぐ!


 そしてノコギリ歯を付けた腕を巻き付け、奴の体を止める!


 ラスト!貫けい!!


ドン!!



 勢いは十分。高所からの狙い打ちにて、外す事も無かった。


 それで。



パン!



 弾かれた!


 バカな!



ギイイ!


 イノシシは自らを襲った衝撃に大急ぎでその場を逃げ出した。


 その身にまとわりついた異物と共に。



「ピッ!?」


 ええっ?



 彼は、この展開を予測していなかった。


 逃げるにせよ、まさか引きずられるとは。


 思考は働かず、流されるままであった。



 え?え?え?


バサッ!


 いてえ!



 痛覚は無い。ので、これは痛いというか、木の枝がぶつかった事による衝撃値が身体の防御値を超えているがゆえの悲鳴である。


 アメーバから始まった彼の人生に、痛みというものは、まだ無かった。


 とは言え、彼の皮膚組織には切り傷かすり傷、打撲痕が生じ、明確なダメージが増え続けていた。



ガァツッ!バシィッ!!


 いてえええええ!!


 こっ、この野郎!!!



 木の枝葉にぶつかり続けるうち。


 彼は、初めて、生きるためにでなく、感情による戦いを選択した。



 てめえの生き延びるチャンスを棒に振りやがって!!


 お望み通り、ここで死ねああっ!!!!



 全身に溢れる憤怒のままに、その身の全てを可能な限りの鋭利なハサミに変換。


 総数40を超える貫きバサミが、イノシシを襲った!



ズシャアアアッ!!


「ブギイイイイッ!!」


 イノシシもまた、怒りと苦しみの悲鳴を上げた。その身をよじらせ、ねじらせ、必死に生き残ろうともがく。



 ???


 死ねよおっ!!?


 ??


 なんで、死なねえ?!



 彼の、細くとがり鋭さを増したハサミは、間違いなくイノシシの内臓に致命傷を与えていた。複数の臓器を治癒不可能なまでに破壊、右の眼球さえ貫いていた。


 なのに。


「ギイッ!!」


 まだ、生きている。どころか。


ギシッ


 嘘だろ!?


 おれの腕が引っ張られる?なんで!?



 お前はもう、死ぬんだぜ。



 そう。


 彼のハサミは、イノシシに既に死を与えている。


 もう、絶対に助からない。



 それでも彼が必死になって木にしがみつくくらいには、イノシシは踏ん張りをやめない。



 結局。


 1時間が経過するまで、彼にも何も出来なかった。


 イノシシが勝手に死ぬまで、腕部を維持し続けるだけで、何も出来なかった。


 何も。



 なんなんだあいつ。


 なんで、抵抗をやめなかった。


 もう、終わってたじゃねえか。


 仮におれから逃げられても、他の捕食者に見つかるまでもなく、死ぬんだぜ。あの出血量。そして臓器の機能停止。確実な死のみが存在していただろうが。



 なんで、死ぬまで動いた。




 彼は、勝利した。


 この生存競争の勝利者は、間違いなく彼だ。



 しかし、そこに勝利の高揚は無かった。


 ただ戸惑いと不安と、おそれに身をひたしていた。



 自分なら、終わっていた。


 致命傷を食らった時点で、生存の可能性が無くなった時点で、生を諦めるはずだ。


 だって、死んじゃうもん。


 しょうがないじゃん。



 イノシシの体を削り取り、その温かい血と肉と骨を取り込みつつ。


 今までとは違う感慨に身を任せていた。

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