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地上生活、始まり。

 美味い。この水草、パサパサしてるけどイケる。けど、なんか繊維質、目立つなあ・・。緑色も主張しすぎっつうか。もっと根本の色と調和させとけよ。


 と思う、元水生生物であった。川の中で目立つ色の水草は、なかったからね。


 て言うか、これだけでもかなりのエネルギーじゃねえか。


 ノコギリ状に加工した手を用いて、樹木の堅皮を切り、柔らかな肌を露出させる。そして食う。


バリ


 かた。確かに栄養はあるけど。


 やっぱ水分足りねえ。川からは、離れられねえなあ。


 体は30センチまで大きくなった。硬度もそれなり。先ほど狩ったネズミとなら、もう百回戦って百回勝てるだろう。


 しかし、行動範囲は、これ以上広げられない。


 水が無いと、死ぬ。


 水生生物であった彼は、水分への執着が狂信と言えるレベルで強かった。



 全く手入れのされてない森。その中を流れる川幅60センチほどの川で生まれた彼は、知らない。


 この世界には、人知を超えた彼ですらがまだ敵わない猛獣が、何億と跋扈ばっこしている事を。


 ゆえに、彼には水以外の危機感も持ち得なかった。



 カニだ。


キ オ


 ハサミにした先端部位を伸ばし、遠心力をかけつつ放り投げる。


ザク


 カニを刺したのではない。カニを挟み込んで、地面を貫いたのだ。これで、逃げられない。


 動きを止めた所で、ゆっくりとハサミで真っ二つ。さあ食べよう。



 うーむ。


 この体の大きさになると、カニ一匹じゃあ満腹にならんな。


 しかも、便利なのは良いが、エネルギー消費が半端ない。ハサミを作る度に一食分くらい使ってねえかな。


 もっと、大きなメシが欲しい。あの堅い水草、デカい割にエネルギー総量はすげえ低いし。非常食だな、あれは。



 彼は、移動を決意した。ただし、水から離れるのは、怖い。


 ので。



 うん。快適だ。



 彼は、先ほど食ったデカい水草の構成をコピーした。


 樹木の水を吸い上げる構造をそのまま自らの身体に転用。根本をカニのハサミのように穴開き加工し、じかに吸い上げる。


 その全長、10メートルを超える。



 いくらでも伸ばせるけど、そんな余裕ねえんだよなあ。しかも伸ばしすぎると、強度が落ちる。他の生物に食われちまう。


 とりあえずこのまま動いて、何か見付けるか。



 彼は先のネズミを殺せた事で、自信を持っていた。


 それは、他人から見れば、過信と呼ばれるものではあったが。



 川に突っ込んだままの根っこをアクセサリーに動き回る4つ足の生物。


 彼はひたすらに次の獲物を探し求めていた。




 ・・・薄々感じてたんだけど。


 もしかして、ここって、人口少なくない?


 おれの兄弟も、魚も、さっきの4本足も。


 皆、あっという間に消えたし。


 もっと、長距離で移動しないと、やばくね?


 うーん・・・。リスクはそれなりだが。


 やるかあ。



 彼は、一旦川まで戻り、延長ホースと化した己の一部を再改造し始めた。


 無論、これにもエネルギーは消費されている。彼の言うリスクとはこれだ。計算違いを起こすと、樹木のエネルギーだけでは足りなくなり、せっかく成長させた本体を退化させねばならなくなる。



 重・・。でもまあ、これまでより移動範囲は広がったし。頑張るかあ。



 彼は樹木の形を模した空き箱を作った。ちょうど、カニの甲羅の中身を取り出したような。


 そうして、簡易タンクが完成した。限界まで水を入れて、2リットルといった所か。これ以上大きくすると強度が保てないし、重くなりすぎる。


 彼の肉体には、まだ筋力が足りなかった。



 お、重てえ・・。畜生。我欲の重さみたいで、精神的にもキツイな畜生。保身なのは分かってるけど、しょうがねえじゃん。



 ここは山の中。


 平らな土地などあるわけもなく、彼は道無き道を2リットルの水を満載した自重を引っ張りながら、生きる苦しみを味わっていた。



 そもそも、どこに行けば、メシがあるんだ。


 ここって、本当に安全な土地なのか?陸だから、すげえデカいカニとか居そうで超怖い。



 先ほどまでの過信から、今度は過剰な恐怖心に。獲物の見付からぬ不安感がダイレクトに彼の心を塗り潰して行った。


 生後2日では、致し方あるまいか。



ズズズ


 明らかにこれ、音響いてるよな。敵を呼んでしまっている?


 しかし、水を捨てるなんて、出来ない。


 小さい生き物が適当に通りすがるから、補給出来るのはありがたいんだが。カニの仲間だろうな。ちょっと硬いし。


 しかし。


 やたら広いな。どこが陸の岸なんだ?



 彼は、川の中のように、どこかが川幅限界になっていると思っていた。


 そこに沿って陸を行こうと思っていたのだ。そうすれば、また元の川に戻れるから。



 ・・・・やべえ。色々、分からねえ。いや、正直に言って。


 おれ、この世界の事、何も知らないんじゃないか?


 メシは、どこなんだ???



 彼は生まれて初めての無力感を味わっていた。


 自身を維持するために必要なものを手に入れるどころか、探し当てる事すら適っていない己を知ってしまった。



 情報だ。もっと良く見える目があれば。そしてさっき食った4つ足の持ってた受容器官。恐らくこの世界を漂う物質を認識するための道具だ。魚のエラみてーな。ちょっと違うか。


 この2つを作り、伸ばす。目を高所に、受容器官、鼻を四方に。


 微細な物質・・以前の己の肉体より小さい・・を取り入れるためにかなり苦労したが。


 その甲斐は、あったな。



 見付けた。



ズン・・



 重い足音。そしてネズミなど比べ物にもならないほどの巨躯。


 鋼線が突き出たような体毛。百獣を突き殺す牙。


 この山の主。


 大イノシシだ。

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