分体。
彼は、ひたすらに困惑していた。
人間の行動が、まるで理解不能。
水を汲み上げ、巣の間近で撒いている。
それだけ。
一体、彼らは何をしているのか。
まさか、自分を飼う下準備か?
彼は一層の不安を募らせながらも、彼自身のやるべき事を着実に進めていた。
塩分を含んだ水を撒いている。
アレは、なんの儀式なんだろう・・・。
何かの意味があるんだろうが・・・。
あいつらは何も考えずに動く事のが多いからな。
気にしても仕方ないか。
そんな事より。分体の動きが忙しい。もっと栄養を与えて増やしてやらなきゃかな。
彼の分体は、現在、日本国に数千体の規模で散らばっている。
そのうち、半数以上が偵察、情報収集だ。何か知らないもの、本体が知るべきものを知覚した段階で、本体に情報を持ち帰る。そしてこれらは本体への栄養補給も同時に行っている。
それから残ったうちの半分が本体の護衛に付いている。今、本体は動ける状態にないので、本体から別れた分体の移動経路を監視、守護している。
そしてもう半数が、最も働いているグループ。
つまる所、彼の現況は、アリやハチの巣のように、分体が働き、本体はせっせと成長し続けている。
ゴ オ オ オ オ
すげー。
すごい振動。あと、なんか、ものすごくヤバい。
飛行機のタイヤから入り込み、現在は貨物室で大人しくしている分体。
それでも、彼の体にはマッハで飛ぶ飛行機のすごさが伝わった。それに気圧の変化にも敏感に反応してしまって、必死に自身を保つよう意識を集中していた。
日本中の飛行場に派遣されたエリート分体。それぞれ、現時点で手に入る最も優秀な部品で高性能化され、自動車1台くらいなら正面から食える個体ばかりだ。
それを、日本の飛行場から、世界の飛行場へ。分体は、一度飛行機を下りた瞬間、その場でエネルギー補給を行い、再度別の飛行機に乗り込む。
テレビはなんでも教えてくれた。
旅番組でもドラマでも、そしてニュースでも。
日本国中に自動車で駆け巡った分体は、やはり同じスピードで本体の元に戻り、情報を還元する。
テレビ画面と街中の簡易地図。それら人間のための視覚情報と、実際に分体が街を走って得た立体情報をかけ合わせる。
そうすると、彼も人間の地図の見方が分かるようになった。
全国の電器屋に張り付かせた分体の情報のうち、最も重要だったのは、旅番組とニュースだった。どちらも、地形情報と衛星画像による世界地図が素晴らしく有益だった。
彼に対し、あまりにも無防備に情報を与え続ける人類。
これは人間が度し難い間抜けだから、ではない。
ヒトが、あまりにも強すぎたから。
同じ人類以外を天敵と思い戦う日々から、遠ざかりすぎたから。
人間を殺すものは、自動車に乗った人間か、武器を持った人間。でなければ、病気や事故。そして自殺。
ヒトはあまりに、覇者でありすぎた。
これより3週間の後。
分体の存在しない国は、この地上に無かった。




